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第26話 決闘とその後



「それでは今より、ラザール・フォン・オーゲンスタインと、デュアル・フォン・フォルマの決闘を執り行なう。両者剣を構えよ」


 立会人を買って出たラグナ国王が、審判役も兼ねて、向かい合って立つ僕とラザールの間に立って告げた。


 決闘のルールは、その時々に応じて様々だ。


 今回は、剣、魔法、特殊能力、アイテムなど、あらゆる手段の使用が許可される制限なしで行われる事になった。


 決闘における勝敗条件は、三つ。


 一つは、相手が戦意喪失か降参の意思を示した時点で終了。


 もう一つは、相手が動けなくなり戦闘不能になった時点で終了。


 そして最後に、相手の死亡をもって終了とする。


 最後のについては、最も過激な形式であり、今回は適用されない。

 相手を殺したら反則負けだ。


 演習上には、王立魔法士団の所持する魔道具により、厚く結界が張られている為、大規模な魔法を使うなどしても、観客達に被害が及ぶ事はない。

 僕の〈破壊と創造〉の力をフルに解放すればその限りじゃないんだけど、今回はかなり制限するからね。

 それに、父さん達もいるのに、危険な目に遭わせる訳にはいかないよ。


 僕は、刃引きされた剣を胸の前で構えながら、どういう戦略をとるかを思案した。


(これだけの衆目があるんだ。〈破壊と創造〉の力は、魔法の力でそうしたと思わせる程度にしか使えないだろう)

 

 だとすれば、後は純粋な身体能力に頼るしかない。

 僕は魔法適正は無属性だけだからね。

 戦闘で使えるのは、身体強化魔法や防御魔法だけで、攻撃魔法は一つも持っていないんだ。

 今開発中の魔法もあるにはあるんだけど、まだあれは精度が低いし、ともすれば、相手に致命傷を負わせてしまう事になる。


(セリア嬢にはあんな言い方をしてしまったけれど、対人戦で残虐者モードに切り替えるつもりはない。出来る限り手加減をして、怪我を負わせないようにしなければ)

 

「では、始め!」


 ラグナ国王が声高に合図を出し、決闘が始まった。


 同時に、僕が、


「〈加速せよ(ケラレ)〉、〈力強き魂フォルティス・アニムス〉」


 ラザールが、


「〈炎の槍(イグニス・グラァンス)〉」


 互いに魔法を唱えた。


「いけ! あいつを焼き尽くせ!」


 ラザールが掲げた掌の上に現れた先端が尖った細い棒状の炎。

 それが、その腕が振り下ろされるのとともに、こちらに向けて宙を走って向かってきた。


「シッ!」


 それを、手にした剣を一閃して斬り裂き、かき消した。

 魔法を打ち消すのは、高い技術を必要とするけれど、僕は日々の鍛錬でそれを既に習得している。


「ふん! そこそこはやるみたいだな」


 ラザールは鼻を鳴らしながら言うと、「だが、これはどうかな?」と不敵に笑み、今度は周囲に炎の槍を三本生み出してみせた。


(初級魔法とは言え、三つ同時に展開出来るのか⋯⋯口だけじゃなかったみたいだな)


「さあ、楽しいショーの始まりだ!」


 愉快そうにラザールが告げる。


 同時に、三本の炎槍が一斉に襲いかかってくる。


 流石に、それらを纏めて消す事は出来ない。


 僕は、回避を選択し、横へと飛んだ。


 が、三本のや炎槍は、ホーミングミサイルのように、その後を追尾してくる。


「──ッ!」


 僕は慌てて高速移動しつつ、それを躱した。


「はははっ! そうら、逃げ惑え! 止まったら、丸焦げだぞ!」


 ラザールが笑声交じりになぶるように言う。


 僕は、逃げの一手をとりながら、打開策を講じた。


(このままじゃあ、埒が明かないな。そろそろ、ギアを一段上げるか)


 僕はそう決めると、追尾してくる三本の炎槍を背にしながら、ラザールの方へと向けて疾駆し始めた。


「そうするしかないよなあ! だが、それは悪手だ!」


 ラザールは勝ち誇ったようにそう言い放つと、後方に飛び退いた。


 そして、元いた場所に僕が到達したのを見計らい、


「〈紅き蓮(ロータス・ルベル)〉」


 爆炎の華が、弾け咲く。


「はははっ! 設置型の火魔法にまんまと引っかかったな! お前の浅はかな行動なんてお見通しなんだよ! 中級魔法だ! ひとたまりもないだろ!」


 勝利を確信するラザール。


 けれど──。


「あはは──なっ!?」


 余裕の表情から一転して、驚愕に目を剥くラザール。


「この程度が、君の奥の手か?」


 地面から吹き上げていた炎の華を割るようにして、僕が無傷の姿をみせる。


 防御魔法は即座には発動出来ないので、〈破壊〉の力で炎をかき消してやったんだ。

 これくらいなら、事前に予測して〈結界(リメン)〉の魔法を唱えていたとかで誤魔化せるだろう。


「な、何なんだよ、お前⋯⋯」


 ラザールは、ジリジリとにじり寄る僕に対し、及び腰になりつつも、逃げられないと察したのか、ヤケを起こしようにして、剣を振り上げながら突撃してきた。


「うわぁああああっ!」


 僕は落ち着いてそれを迎え撃つ。


 互いの身体が交差し、その位置が入れ替わる。


 一瞬の剣戟。


 それを制したのは──。


「ぎゃああああっ!」


 ラザールが、斬り裂かれた腹部を押さえながら叫び、その場に転がってもんどりうつ。


「そこまで! 勝者デュアル・フォン・フォルマ!」


 それ以上の戦闘は無理だと判断したラグナ国王が、高らかに宣言した。


 同時に、固唾を呑んで戦局を見守っていた観客達が、一斉に拍手と喝采を送る。


 僕は、片手を挙げてそれに応えつつ、床に芋虫みたいに転がっているラザールの傍に寄り、


「浅く切っただけなのに大げさだね。ほら、ポーションだよ。それを使って傷を癒やしな」


 慈悲を与えた。

 彼は性格はドブだけど、僕は人が苦しむ様を見て楽しむようなサディストじゃない。

 残虐者モードの僕? 知らない子ですね。


 しかし彼、これで侯爵家を廃嫡される事になる訳だけど、無事にやっていけるんだろうか。

 見たところ、僕と同年代くらいに思えるけど、学園に通うのも難しくなるだろうからなあ。

 身から出た錆とは言え、彼の事を拾ってくれるような奇特な貴族でも現れる事を祈ってあげるとしよう。



   §

 


「それで、どうやってあの中級の火魔法〈紅き蓮(ロータス・ルベル)〉の炎に包まれても無傷でいられたの」


 決闘を終えて、晩餐会の会場に戻ってきたセリア嬢に尋ねられた。


 傍には、ルーシィもいる。勝利した事よりも、僕の無事を殊更喜んでくれたよ。


 父さんは、ルーシィのお祖父ちゃんと話し込んでいるみたいだね。大方、秘蔵のワインをもらい受ける事についてとかじゃないかな。父さんはワイン好きだから。


 会場は、晩餐会を盛り上げていた楽団の演奏も先程静かに終わりを迎えて、そろそろお開きかというムードになっている。


「事前に〈結界(リメン)〉の魔法を唱えておいたんだよ。見え見えの作戦だったからさ」


 予想していた問いに、用意していた答えを返した。


「ふうん。貴方、頭も切れるのね」


 一つも疑う事なく納得してくれた。チョロいね。


「デュアル君は、天才ですから」


 ルーシィがヨイショしてくれる。

 彼女もセリア嬢と結構打ち解けたみたい。相手は八大公爵家のご令嬢だから、敬語は外せないみたいだけど。


「その若さで色んな商品を開発してるのよね? 私も石鹸やリンス、化粧品にはお世話になっているわ。そう言えば、まだ聞いてなかったけど、貴方今何歳なの?」

「十四歳だよ」

「そうなの? 背が高いし落ち着いてるから、年上だと思っていたわ。来年は王立学園を受験するの?」

「そうだよ。ルーシィもね」


 頷いて、補足する。


「それじゃあ、私達、学園で同級生になるわね」

「そうなるね。その時はよろしく」

「私は、受験に合格出来るか分からないなあ」


 ルーシィは不安げだ。


「大丈夫よ。Sクラスとかは無理でも、クラスはFまであって、二百人くらいはとるって話だから、そのどれかには入れるでしょ」

「そうだよ。試験は体面を保つ為にやってるだけの形だけのものだと聞くしね。しっかり備えていれば、そうそう落ちるものじゃない筈だ」


 二人で安心させるように言うと、ルーシィは顔を和らげながら、


「うん。そう言われると、何かいけるような気がしてきたよ」

「その意気よ」


 セリア嬢は、その答えに満足したように頷くと、


「それじゃあ、私はそろそろ帰らせてもらうわね。今日は妹が女の子の日で欠席しているから、早目に顔を見ておきたいのよ」

「妹思いなんだね」

「普通よ。じゃあね、デュアル、ルーシィ。また来年の春に学園で会いましょう」


 そう言って、セリア嬢は会場を後にしていった。


「それじゃあ、僕達もそろそろ帰ろうか」

「うん」



 こうして、僕は王都でのイベントを全て終え、くる時と同様に、ルーシィ達と途中まで一緒の馬車に乗り、辺境で待つ家族達の元へと戻った。


 帰る前に、皆へのお土産を買うのも忘れずにね。





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