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第23話 お祝い


「お父様、私、元気になりましたっ!」


 寝間着からワンピースに着替えたイーリス王女が、入室するとともに、朗らかに笑みながら伝えた。


 国王の応接間で報告を待っていたラグナ国王達が、信じられないものを見たというように、目を見開く。

 シャーロット王女だけは、まだ美少女フィギュアにご執心のようだけど。


 そんなソフィア王妃は、勢いよくソファから立ち上がり、イーリス王女の元へと駆け寄ると、


「ああ、私の可愛いイーリス! もう駄目かと諦めかけていたのに⋯⋯自分の足で立てるようまでなって⋯⋯!」


 力強く抱き締めながら、思いの丈を告げた。


「お母様、苦しいです」


 イーリス王女はそう口にするものの、熱い抱擁を受けて嬉しげだ。


「お、おお⋯⋯本当にイーリスなのか⋯⋯? 夢じゃないよな⋯⋯?」


 しばらく固まっていたラグナ国王が、おぼつかない動きで立ち上がった。

 そのまま、よろよろとイーリス王女の元へと寄る。


「はい。お父様。私はちゃんとここにいますよ」


 そう言って、イーリス王女は、ソフィア王妃に抱き締められたまま、目の前にきたラグナ国王の手をとった。


「ね? 温かいでしょう?」

「イーリスっ!」


 そこでラグナ国王も、心を震わせるようにしながら、ソフィア王妃とともに、イーリス王女をその腕の中に収めた。


 クラウディア王女は、少し離れた場所から、その光景を瞳を揺らしながら見つめている。


 暫くの間、僕も家族同士の温かい触れ合いを、その傍らで見守り続けた。



「デュアル、イーリスが救われたのは全部お前のおかげだ。心から礼を言う」

「本当にありがとう、デュアル君。あなたがいてくれてよかった。まさかこんなに元気なイーリスの姿がまた見れるなんて思ってもみなかったわ」

「デュアル君、妹を救ってくれてありがとう

ございます。貴方に深く感謝を」


 ようやくイーリス王女を解放したラグナ国王とソフィア王妃、それとクラウディア王女に感謝の言葉を伝えられた。

 そのストレートな思いに、胸が一杯になる。


(イーリス王女は、家族からとても愛されていたんだな)


 同じように家族を愛する者として、嬉しくなった。

 これ程、〈破壊と創造〉のスキルを持って生まれた事に感謝するのは、久しぶりだ。

 盗賊団の襲撃を防いだ時以来だな。


「ねー、イーリスお姉ちゃん、なんで起きてきてるのー? 寝てないと駄目なんじゃなかったのー?」


 シャーロット王女だけよく状況を把握出来ていないみたいだ。


「シャーロット、私元気になったから、もう寝てなくていいんだよ」


 イーリス王女が、そんなシャーロット王女に微笑みを向けながら優しく告げる。


「ホント? じゃあ、私と遊んでくれる?」


 とその青い瞳を輝かせながら。


「ふふっ。いいよ。いつでも好きなだけ遊んであげるね」

「わあいっ! 約束だからね!」


 そんな微笑ましい姉妹のやりとりが見られた。



   §



「しかし、お前の固有スキルはとんでもないな。〈破壊と創造〉といったか。エリクサーでもどうにもならなかった不治の病を治してしまうんだから」


 食後、紅茶を飲んで人心地ついたラグナ国王が感心するように言った。


 王宮の庭園部にある木陰のガゼボで昼食を摂ったところだ。

 ラグナ国王は、こういったカジュアルな食事を好み、よくそうするそう。

 それにイーリス王女を始め、他の国王一家の皆さんにも強くすすめられ、僕もご一緒させてもらった。


 今は、イーリス王女達は、離れた席で、僕が渡したトランプで遊んでいる。

 時折、シャーロット王女が上げる笑声が届いてきて、何とも賑やかだ。


「その事なんですけど──」


 僕はそこで、イーリス王女の身体を蝕んでいたのは、病ではなく呪いだった事を伝えた。


「呪いか⋯⋯それで、薬じゃ効果がなかったんだな」


 腑に落ちたというようにラグナ国王が呟く。


 ゲームでは、イーリス王女は十五歳の時に病死したとされていた。

 それが呪いによるものだとは、僕も知らなかった。

 それを行ったと思われるのは、おそらく、サンクトゥス教の過激派が擁する刺客──通称〈断罪者ユデクス・ダムナティオニス〉。


 サンクトゥス教とは、女神ディヴィーナを信仰するこの世界で最大の信仰者を持つ宗派。

 その中の穏健派は、〈終焉の厄災〉の〈贄〉となる〈クリファ〉を保護すべきとしている。

 それに対し、過激派は、〈クリファ〉は邪神の復活を阻止する為にも殺すべきだと主張している。

 フィニス教団は、〈クリファ〉達を捕らえようとする。

 でも、〈終焉の厄災〉の〈贄〉にするために、命は絶対に奪おうとはしない。

 だから、サンクトゥス教の特に過激派とフィニス教団は、裏でバチバチと睨み合っているんだよね。


 ともあれ、今回イーリス王女に呪いをかけていたのは、〈断罪者〉だろうって事。

 

 〈クリファ〉となるリノア姉さんやレティシアがいる以上、彼らとは、僕もこの先関わる事があるかもしれない。

 いい関わり方では決してないだろうけれど。


「呪いをかける為には、その対象者の傍にいる必要があります。失礼ですが、王宮に務める人達は全員信用が置けるのでしょうか。イーリス王女の身の回りの世話をする役目を負っている者などに、刺客が紛れ込んでいる可能性も捨てきれないと思われます」


 僕はそう進言した。


「むう⋯⋯そう言われると、万全だと断言は出来ないな。一度詳しく調査した方がよさそうだな」


 ラグナ国王が顎を擦りながら、その言葉を受け止める。


「そうした方がいいでしょうね」

「ああ。せっかくお前に救ってもらったのに、また呪いをかけられたんじゃ元の木阿弥だからな」


 ラグナ国王はそう言うと、「ところで」と話を変えた。


「褒美は何がいい? 何なりと言ってくれ。お前には大恩が出来たからな。可能な範囲であれば、何だって叶えてやるぞ」

「それでは、僕の後ろ盾になってくれませんか?」 


 僕はかねてから考えていた事を願った。


「何だ、金や物じゃないのか?」


 意外そうに聞く。


「それらは、自分の力で手に入れられます。ですが、家族が危険な目に遭わされるのを未然に防ぐきれるだけの権威というものは、そう簡単には手に入りませんから。僕の〈破壊と創造〉の力がもし公になった際に、擁護してくれるような存在を欲していたんです」

「なるほどな。今回はその力で呪いを解いてもらった訳だが、戦いでも凄まじい力を発揮するんだろ? それらが明るみになれば、私益の為に、汚い手段で引き入れようとする輩も出てくるだろう。それに対抗する力が欲しいという訳か」

「はい。その通りです」


 と頷く。話が早くて助かる。


「分かった。俺がこの国の王として、出来得る限り、お前の力になってやる。それを周りに知らしめる為にも、イーリスが無事快復した事は、今日の夜に開かれる晩餐会で大々的に発表しよう。パーティに華を添える事も出来るしな」




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