第20話 王城へ
長いけれど楽しかった馬車での旅路を終え、王都に着いた。
王都は、東西南北でそれぞれ四つ区画に分かれている。
東区は、商業と知識の区画。
活気溢れる巨大な市場、冒険者ギルド、商業ギルド、魔道具工房、中央図書館、高級宿屋、銀行などが立ち並ぶ。
知識を求めて、研究者や商人が集まる都市で最も賑やかな区画だ。
僕達が来年受験する事になる王立学園もこの区画にある。
西区は、工業と軍事の区画。
鍛冶屋工房が集まる工業地帯で、王宮を守る軍事施設や兵舎訓練場もここに。
絶えず振るわれるハンマーの音が聞こえる男らしい区画だ。
住民は、職人、兵士、傭兵、鍛冶師など。
南区は、貴族と文化の区画。
貴族の邸、高級ブティック、劇場、社交場、中央教会などが立ち並ぶ、華やかで美しい区画。
王城の正門に通じており、治安が最もいい。
住民は、高位貴族、高級官僚、教会関係者、芸術家など。
北区は、下町と防衛の区画。
一般市民や移民が暮らす昔ながらの家並みが続く下町。
北の冷たい風が吹き、王城の背後を守る防衛線でもある。
王都の闇、犯罪の温床であるスラムと隣接しており、一部治安が悪い。
施設は、一般住宅街、大衆食堂、小さい酒場、防壁、北門などがある。
住民は、一般市民、労働者、移民、職人見習い、スラム民など。
その王都へと立ち入る際、空を突くような高さの城壁に設けられた城門に設けられた検問所でチェックを受けた。
けれど、それは招待状を提示する事で難なくクリア。
無事王都入りを果たした僕達。
東区の通りを進み、今日泊まる、父さんが王都を訪れた際のいきつけにしている宿へと向かった。
途中、キャビンの窓から、王都の街並みへと目を向ける。
中心に位置する王城から放射状に伸びた石畳のストリート。
その脇には、活気のある市場、異国情緒漂う店、魔道具店などが並んでいる。
建物の外観は白壁や石造りの重厚な建物だったり、とんがり屋根だったりと様々だ。
第三王女の生誕祭を明日に控えているとあって、どこも慌ただしくしているみたい。
(懐かしいな⋯⋯ゲームで見たスチルを思い出す)
こういう、中世ヨーロッパ風の光景を前にすると、異世界にいるんだなって改めて実感するよ。
通りを歩く人達もバラエティに富んでいる。
その大半を占めている人間の他にも、エルフ、ドワーフ、獣人、ハーフリングなど、辺境の町イムルではほとんど見る事ができない種族ばかり。
ゲーム世界ならではだね。
後、ここにはいないみたいだけど、竜人族や魔族なんて種族も、自分達の国を作ってこの世界に存在している。
彼らは大半が人間を嫌って近づこうとはしないけれど、中には、人間と共存して生活している物好きもいるみたいだ。
そんな、前世で僕が美しいと感じて追い求めていた、幻想の中にしかなかった光景──。
それを間近にして、胸の奥から込み上げてくるような高揚感を覚えていた。
§
昨日は宿にチェックインして落ち着いてから(ルーシィ達もそこに泊まる事になった)、馬車工房にルーシィ達の乗っていた壊れた馬車を修理に出しにいった。
そして、その帰りに彼女達と一緒に市場で買い物するなどして楽しい時間をすごした。
それから一夜明けた今日は、王宮で国王と謁見するという一大イベントが控えている。
ルーシィ達は、夜に王宮で開かれる晩餐会まではやる事がないので、昨日に引き続き王都観光を楽しむらしい。
宿の部屋に置かれた姿見の前に立つ。
この日の為に新調した、立ち襟のジャケットに金糸や銀糸の装飾を施した宮廷服。
その上から、セーラーカラーを長くしたマントを羽織り、タイトなベルベットのスラックスを合わせて正装した身なりを確認。
「美しいね」
着飾った我が身を見て、お決まりの言葉を呟く。
そうした後は、部屋で留守番をするレティシアに送り出されてから、玄関にいく。
そこで磨き上げられた革製のロングブーツを履いて、つき添う父さんと一緒に宿を出て王城に向かった。
しばらくの間乗り合い馬車に乗っていると、南区にある王城の正門が見えてきた。
その前の停留所で停まった馬車を降り、正門へと向かう。
その前に立つ門番をしている衛兵に、招待状を提示すると、
「デュアル・フォン・アイシュリング殿ですね。到着次第、王城へとお連れするように仰せつかっております。今馬車を用意しますので、しばらくそのままでお待ちください」
それから程なく、馬車が到着し、それに乗って王城内へ。
門番をしている衛兵の話だと、謁見の前に、先ずは宰相様から話があるとの事。
そうしてその宰相様が待つ応接間へと通された。
父さんは、叙爵式に他の高位貴族達とともに列席する為、その前で別れる事に。
「これはデュアル殿。今回は、遠い辺境の地より、よくお越しくださいました。私は、宰相を務めさせていただいている八大公爵家の一つ、ノイマイヤー家の当主となるヴァンス・フォン・ノイマイヤーです。どうぞ、よろしくお願いします」
宰相様は、丁寧にセットされた短髪で、眼鏡をかけた理知的な印象を受ける三十代後半程の壮年男性だった。
八大公爵家というのは、〈八芒星〉とも呼ばれている、それぞれ、火、水、風、土、氷、雷、光、闇の主要属性八つを司る、王族を除いた貴族の最高位に位置する家の事だ。
「ご丁寧な応対をしていただき、ありがとうございます。デュアル・フォン・アイシュリングです」
こんな若輩者にも侮る素振りを一切見せず、恭しい態度で接してくれる宰相様──ヴァンス宰相に、頭を下げながら挨拶を返す。
「それでは、これから叙爵式に臨むにあたって、僭越ながら、この私が必要となる礼儀作法をお教えいたします」
ヴァンス宰相にそう言われ、僕は基本的な礼儀作法の幾つかをご教示してもらった。
「以上です。何か質問などございませんか?」
「いえ、大丈夫です」
このデュアルは、チートな裏ボスキャラなだけあって、身体スペックが極めて高い。
まるでスポンジみたいに学んだ事を端から吸収していき、決して忘れる事がないんだ。
「ただ、質問はないんですけど、一つ希望したい事があるんです」
そう切り出す。
「何でしょうか?」
「国王陛下ご夫妻と、その御息女であられる王女様方に、贈り物をしたいと考えているのです」
父さんに教えてもらったそれぞれの好みに合わせて色々と用意した品々を、空間収納に入れている。
「そうでしたか。それでは、叙爵式の後に、国王陛下の応接間で受け渡しを行えるようにとり図りましょう」
「僕の意を汲んでもらい、ありがとうございます」
礼を言い、頭を下げた。
「では、最後に、新たな家名を名乗るのであれば、それをお聞かせ願えませんか?」
「はい。フォルマという姓にしようと考えています」
僕にとって大切な言葉となる家名を伝える。
「フォルマ、ですね。素敵な響きの家名です。そのように国王陛下にお伝えしておきますので、後は指示があるまで、謁見の間の前にある控室でお待ちください」




