第1話 裏ボス転生
朝。
カーテンの隙間から差し込むムーンストーンの神秘的な輝きのように白く眩しい光を浴びて、目を覚ました。
(ここは⋯⋯?)
次第に、意識がクリアになっていく。
知っているけど、知らない天井。
ベッドの上で、むくりと上半身だけ起こして、ぐるりと周りを見渡す。
確かにここは僕の部屋だ。
けれど、それは伯爵家長男デュアル・アイシュリングとして過ごしてきた記憶がそう思わせているってだけ。
もう一人の僕にとっては、全く馴染みがない。
あれは、厳粛な雰囲気の中行われた”洗礼の儀”での事だった。
この世界では、十歳になると、皆洗礼の儀というものを受ける決まりになっている。
その時に、その人特有の、魔力量・魔力適正・固有スキルが付与されるのだ。
その与えられる能力如何で、将来就ける仕事が変わってくる為、人生における最も重要な儀式とも言える。
僕が住んでいるのは、イムル。
ガルシュタイン王国の北方に位置する辺境の地にある中規模の町だ。
領主は、僕の父親で伯爵の位を持つレオン・アイシュリング。
ただ、伯爵家と言っても、目立った特産品や観光地がある訳でもない痩せた土地。
その為、贅沢な暮らしが出来るという訳でもない。
領民達からの少ない税収で細々とつましい生活を送っているのが現状だ。
春の終わり頃。
そのイムルにある神殿で、洗礼の儀が執り行われた。
僕は一番家格が高い領主の息子として、他の子供達に先んじて儀式を受ける事になった。
皆が見守る中、祭壇の前に立つ神官の前まで進む。
そして、促されて、台座に置かれた水晶玉に手を置いた瞬間──。
脳天を穿たれるような激痛を感じた。
ともに、地球という惑星で社会人として生きていた時の知識と記憶が、一気に脳にインストールされた。
「魔力量は、平均値よりやや高め。魔法適性は、無属性のみ。固有スキルは、〈破壊と創造〉──」
神官が淡々と告げる。
その声を、激しいショックを受けてぼやけた思考の中で耳にする。
僕は立っている事が出来ずに、ヨロヨロとその場に崩れ落ち、そのまま意識を手放した。
その後どうなったのかは分からない。
けれど、この自分の部屋にいる以上、家族の手によって運ばれてきたんだろう。
どうやら僕は、この世界に転生してしまったらしい。
とは言っても、普通の世界じゃない。
僕が転生したと思われるこのデュアル・アイシュリングは、大作RPGゲーム〈黎明のエヴァンジル〉の登場人物なのだ。
そのゲームのストーリーを簡単に説明すると、以下のような内容になる。
今から数百年前に、突如としての世界に現れ、猛威を振るった〈終焉の厄災〉。
それは、人類にとって最大の脅威。
その〈終焉の厄災〉に地上は破壊の限りを尽くされた。
しかし、残された人類の最後の希望として勇者パーティが立ち上がる。
その手によって、多くの犠牲を払いながらの戦いの末に、〈終焉の厄災〉は倒されて、その魂を封印される。
けれど、闇に紛れて勢力を拡大してきた、〈終焉の厄災〉を邪神として崇めるフィニス教団。
その闇のカルト教団が、その復活を目論み人知れず動き出す。
それを止めるべく、王立学園生である主人公が、信頼の置ける心強い仲間を増やしていき──という流れになっている。
で、僕が転生したデュアルについて。
デュアルは、十三歳の冬に、ここ領主邸を、フィニス教団の息のかかった盗賊団に襲撃される。
結果、両親を殺され、自分と共に姉を教団に囚われてしまった事で悪堕ちしてしまう。
それから後に、フィニス教団の最高幹部である〈十二使徒〉の一人として”ユダ”の称号を得るまでに至る。
けれど、高い地位を得ながらも、自分こそがこの世界の支配者に相応しいと、教団を裏切る。
そして、復活が阻止された〈終焉の厄災〉の彷徨える魂をその身に宿し、主人公パーティーに立ちはだかる最強の裏ボスキャラになるという結末。
「異世界転生か。面白いじゃないか」
僕は不敵に笑みつつ呟く。
悪堕ちキャラのデュアルに転生した以上、結末は今語ったように分かりきっている。
このままストーリーが進んでいくなら、いずれ僕は主人公パーティーと対峙する事になってしまうだろう。
でもそれは、何も行動を起こさなければ──というだけに過ぎない。
デュアルが悪堕ちする原因になったフラグを折ってやれば、シナリオは改変される。
そうなれば、家族は殺される事も教団に囚われる事もなく、僕も悪堕ちせずに、穏やかで幸せな生活が送れる筈だ。
社会人として生きていた時の現代知識。
それを有効利用すれば、このつましい生活を豊かなものに変える事も出来るだろう。
そして──。
「この魔法とスキルが存在する異世界で、前世では叶わなかった、”美しい生き方”ってやつを実践してやろうじゃないか」
よし。そうと決まったら、その為の下準備からだ。
盗賊団がこの邸を襲撃してくるのが、確かノワ・アエタース歴984年の冬の間。
だから、それまでに、盗賊団を撃退出来るように、今の内から鍛錬に励んで強くなるとしよう。
魔力量は平均値よりやや高めで、魔法適性は無属性のみ。
これだけなら、身体強化魔法くらいしか目立ったとり柄のない平凡な剣士像が思い浮かぶ。
けれど、僕には、それを補って余りある固有スキルがある。
〈破壊と創造〉──。
固有スキルは、通常その希少性によって、希少級、英雄級、伝説級、創世級の四種に区別される。
しかし、僕の持つ〈破壊と創造〉は、その最高位の創世級を超える、公にはその存在さえ知られていない神喰級。
それは、ゲームのラスボス〈終焉の厄災〉の持つ終焉級スキルと並ぶものだ。
この固有スキルさえレベルを上げておけば、例え賊が百人束になって襲ってきたとしても、難なく撃退出来るだろう。
流石は裏ボスが持つスキルだ。
僕もゲームをプレイしていた時は、この固有スキルに散々苦しめられた。
それはまあいいとして、明日から早速剣術と魔法、固有スキルのレベルアップに励まないと。
今日から始めたいところだけど、流石に洗礼の儀であんな事になった以上、家族に止められるだろうからね。
ただ、この固有スキルは人知を超えたものだ。
だから、騒がれてその力を利用しようとする権威や悪人に脅かさてたりしないようにしないといけない。
その為、能力を過小に申告して普段は陰に潜むようにして、人目のないところでだけ使うようにしなければ。
僕がそんな風に考えを纏めていると、部屋のドアが開いて、一人の若い少女が入ってきた。
「デュアル!」




