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第18話 王都へ向かう道中で


 父さんと僕、そして僕の専属メイドを務めるレティシアは、今、厩番のティオが馭者の役割を担う馬車に乗っている。


 いき先は、王都ハルモニア。


 僕が叙爵式に出席する為と、その日の夜に王宮で催される第三王女の生誕を祝う晩餐会に出席する為だね。


 母さんやリノア姉さん、ニベア、ネビュラは邸でお留守番。

 馬車には六人まで乗れるんだけど、皆遠出はお尻が痛くなるから嫌なんだって。

 

 王都までの旅路は、およそ八日程。


 今は秋なので、夜はそこそこ冷えるものの、僕達は三人とも生活魔法の〈加熱(カレファケレ)〉が使えるので、何も問題はない。


 食事についても、僕の空間収納の中に熱々のまま様々な料理が入れられている。

 なので、旅人が食するような干し肉と硬いパンなんていう味気ないものじゃない。


 リノア姉さん達が嫌がったように、舗装されていない悪路を走る振動でお尻が痛くなる事にだけに目を瞑れば、快適な旅路だと言える。


 その内、馬車も現代知識で、板バネ(リーフスプリング)を作るなどして改良して、乗り心地を快適にしたいところだ。


「父さん、喉が渇いていませんか? 必要であれば、果実水を出しますけど。レティシアも」


 キャビンの座席に腰を据える僕が、二人にすすめた。


「そうだね。それじゃあ、いただこうかな」

「はい。いただきます」


 対面と隣に座る父さんとレティシアが、揃って頷く。


「分かりました。はい、どうぞ」

「ありがとう」

「ありがとうございます」


 二人が差し出された果実水が注がれたグラスを受けとり、それぞれ口へと傾ける。


「ふう。人心地ついたよ」

「よく冷えていて美味しいです」


 喉を潤した二人が言う。


「それにしても、改めて思わされるけれど、デュアル君の〈破壊と創造〉の力を利用した空間収納は凄いね。普通の空間収納魔法は、時間停止機能なんてついていない。それが出来るのは、ダンジョンの最奥に眠る宝箱から手に入るような、古代魔道具のマジックバッグくらいだよ。売れば一生遊んで暮らせるような大金が得られるようなね」


 父さんは感心しきりだ。


「デュアル様は至高の存在ですから。言わば神と同格です」


 レティシアのよいしょも板についてきたものだね。

 彼女はいつも僕の事を手放しに持ち上げてくれる。

 その度に面映ゆい思いをさせられるのだけれど、彼女がそうしたいのであれば、自由にさせてやりたい。

 ただ、神と同格は言いすぎだ。

 その内、彼女が狂信者めいてくるんじゃないかと戦々恐々としてしまう。

 既に手遅れのような気もするけれど⋯⋯。



「落ち着いたところで、トランプでもしませんか?」


 二人から空になったグラスを受けとり、空間収納の中に放り込みつつ提案した。


 このトランプも現代知識を利用して作った新商品だ。

 素材は、以前開発したパルプ紙を使っている。

 


「いいよ。昨日はポーカーで負け越してしまったからね。今日はそのリベンジだ」


 乗り気になる父さん。


「私もご一緒してかまいませんか? トランプはチェスよりも手軽に楽しめて、私、大変気に入っているんです」


 レティシアは、既にトランプの魅力にハマってしまっているな。いい傾向だ。


「それでは──」


 と、僕が空間収納からトランプをとり出そうとした時──。


 ──グワシャァアアン!


 僕達が進む道の先の方から、何か大きな音が響いてきた。


「何が起きたんだい?」


 危ぶんだ父さんが、御者台とを隔てている窓を開き、そこで手綱を握っているティオに尋ねた。


「前方で、馬車がモンスターに襲われているみたいです」


 その言葉を聞いて、僕はキャビンの窓を開けて身を乗り出しながら前方へと視線を向けた。


 すると、そこで、貴族の家紋入りの馬車が横転し、その周りを計七体のオークがとり囲んでいるのが目に映った。

 その内の一体は、一際大きな巨躯を持つハイオークだ。

 通常のオークが脅威度C級なの対して、ハイオークは一つ上のB級。


 護衛の騎士らしき一人のプレートアーマーに身を包んだ黒髪をポニーテールに結んだ女性が応戦しているが、何せ多勢に無勢だ。

 オーク達は弄ぶようにじわじわといたぶろうとしているので、致命傷は免れているみたいだけど、あの分だと、そう長くは持たないだろう。



「父さん、レティシア!」

「ああ、助けにいこう!」

「かしこまりました!」


 僕の呼びかけに、二人が力強い答えを返す。



 そうして、馬車の事はティオに任せて、僕達は戦闘が行われている道の先へと駆け出した。



「くっ! このままでは⋯⋯ルーシィお嬢様とセイブル様は、私にかまわずお逃げください!」


 女性騎士が、横転した馬車から辛くも抜け出てきた二人に呼びかける。

 ワンピースドレスを着た、青い髪を低い位置で青い髪を二つに結んだおさげの若い少女。

 それと、灰色の髪を短く刈り、口髭を生やした老人の男性だ。


「でも、ベアトリス、あなた一人じゃ⋯⋯」

「君を置いて私達だけ逃げるなど、出来る訳がなかろう」


 ルーシィとセイブルと呼ばれた二人が、躊躇いと拒否の言葉をそれぞれに返す。


「そんな悠長な事を言っている暇は──」

「ベアトリス、後ろ!」


 ベアトリスと呼ばれた女性騎士に、ルーシィがその言葉を遮りながら叫ぶ。


 その背後には、ハイオークが迫り、手に持つ湾曲した三日月刀をかまえていた。


「ギュァアアッ!」

「しまっ⋯⋯!」


 ベアトリスさんが咄嗟に振り向くが、ハイオークは奇声を上げながら、既に三日月刀を高々と振り上げている。


 彼女は待ち受ける一撃による痛みを耐えるべく、目蓋をぎゅっと閉じた。


 ──ザシュッ!


 刃が肉を斬り裂く音がした。


 けれど、ベアトリスさんは無傷のままだ。


 その前に立つハイオークの腰から上の上半身が、ゆっくりと横に滑るようにしてずれていき、ボトリと地面に転げ落ちた。


「え⋯⋯?」


 予想外の展開に、ベアトリスさんが目を大きく見開きながら、唖然とする。


「ふう。間に合ってよかった」


 先程からの一部始終を、駆けつけながら魔力を利用して高めた視力と聴力で見聞きしていた僕が、安堵の溜息を吐く。


「君は⋯⋯?」


 気が抜けたようにしながら、素性を尋ねた。


「自己紹介は後回しで。先ずはオーク達を殲滅してからです」

「あ、ああ。そうだな」


 ベアトリスさんが、言葉をつっかえさせながら頷く。



 それからは、一方的だった。


「〈閃光(フルゴル)〉!」


 父さんの振るう光速の剣で、オークの首が飛ぶ。


「〈烈なる風(プロケッラス)〉!」


 レティシアが得意とする風魔法で、オーク達の肉体が細切れにされる。


 二人の活躍により、首魁のハイオークを失ったオーク達の集団は、瞬く間に瞬殺。

 美味なる食材として、僕の空間収納に保管される事になった。




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