第11話 銀髪蒼眼のハーフエルフ
悠久の大地を吹き抜ける風のように、穏やかで緩やかに辺境での時は流れていき、僕は十二歳になった。
今は、ノワ・アエタース暦983年。
午前中は剣術の訓練をして、午後からは裏の森に入り、魔物を狩るというルーティン。
それを毎日のように熟し、レベルもだいぶ上がり、ステータスも強化された。
現在の僕は、こんな感じになっている。
【名前】デュアル・フォン・アイシュリング
【種族】人間
【性別】男
【年齢】12歳
【状態】正常
【LV】36
【HP】275
【MP】321
【ATK】79
【DEF】68
【INT】96
【AGL】81
【能力】破壊と再生 魔:無
【従魔】ネビュラ
【称号】破壊と創造の神の申し子
【加護】シヴァの加護
何故こんなにも著しい成長を遂げたかと言うと、それは僕が特殊なトレーニングをしているからだ。
それは〈超回復〉を使ったもの。
〈破壊〉で激しい運動や筋トレをした時のように、筋繊維に一時的なダメージを与える。
そして〈創造〉により、修復のプロセスを行い、筋肉が以前の負荷に耐えられるように、さらに強い組織へと再構築される。
また、魔力量についても、同じ。
わざと〈破壊〉の力で魔力を失わせ枯渇した状態を作る。
そうする事で、それが回復する際に、枯渇前よりも上限が増えるという原理を利用して伸ばしている。
僕は魔法は無属性しか使えないから、魔力量はそれ程重要じゃないように思えるかもしれない。
でも、スキルにだって魔力を使うんだ。
〈破壊と創造〉を使い熟すためには、決して蔑ろには出来ない。
ちなみに、一点だけ補足しておくと、〈創造〉の力を使っての魔力回復は出来ない。
それが出来たら、スキルも魔法も無制限に使い放題になっちゃうからね。
そこは、ゲーム世界らしくバランスを保っているんだろう。
ともあれ、そういうトレーニングをする事で、通常ではあり得ない程に能力値を向上する事が出来たという訳。
冒険者のランクはC級まで上がった。
一般的に一人前とされるランク。
十二歳でC級というのは、過去に類を見ないらしい。
おかげで、なりたての頃は馬鹿にしていたやつらからも、一目置かれるようになった。
リノア姉さんも同じくC級。
その為、そんな彼女と合わせて強者姉弟などと呼ばれていたりもする。
冒険者になりたての頃とは比べものにならないくらい強くなったので、父さんに、森の中程まで進む許可も得る事が出来た。
ニコルさんに頼んでいた委託販売の方も、売れ行きは好調だ。
チェスは人気が出過ぎて、僕だけでは制作が追いつかなくなり、すぐに町の職人達に依頼する事になってしまった。
ただ、貴族向けの高級品については、引き続き僕が制作の全てを受け持っている。
それを購入した貴族の間では、夜会などで家紋入りのチェスを使って招待客達と対戦するのが通例となっているとか。
石鹸とリンスについても、肌や髪の事で悩んでいた女性達を喜ばせた。
貴族の御婦人や令嬢達も、高級感のある凝った装飾に魅せられ、こぞって購入している。
今では貴族向けは予約で一杯で、数ヶ月待ちになっている状態だ。
そんな感じだから、当初の目的だった王立学園の受験料と学費一人暮らしの為の政活費などは、すぐに貯まった。
それどころか、お釣りが出て余りある状態に。
なので、父さんに毎月一定の金額を渡すようにしている。
おかげで、食生活も豊かになったし、何もかもが順風満帆だ。
ただ、過度な贅沢はしないように心がけている。
美しく生きる為に──。
§
それは、一人で裏の森に入り、魔物を狩ろうとした時の事だった。
珍しくリノア姉さんが風邪を引いて寝込んでしまっていたんだ。
森の中には、普段は誰も通ろうとはしない、荒れた道が一本だけ通っている。
その道の途中。
昨夜降った激しい雨のせいで出来ていた泥濘に、一台の馬車がはまって身動きがとれなくなっているところに出くわした。
(さて、どうするか。助けてもいいけど、こんところを通っている馬車なんて十中八九訳ありだろうしな⋯⋯)
と、その馬車の中から一人の銀髪の少女が飛び出してきた。
僕の方に向かって裸足のまま駆け出してくる。
直後、馬車の中から、
「締め上げろ!」
そう叫ぶ声が聞こえたかと思うと、銀髪の少女は、すぐに足を止めた。
かと思うと、首を両手で押さえながら、「あぁあああっ!」と悲鳴を上げつつ崩折れ、苦しみもがき始める。
見ると、その銀髪の少女の首には、金属製の首輪が嵌められている。
それが締まって彼女に苦痛を与えているようだ。
僕は、すぐさま助けようとその傍に駆け寄ろうとした。
けれど、そうするよりも先に、馬車から痩せぎすの黒いローブを着てフードを目深に被った男が出てきた。
ローブ姿の男は、銀髪の少女の傍に近づき、苦しむ彼女の銀髪を掴んで引っ張り上げると、
「このクソエルフが! お前を手に入れる為に、俺がどれだけ苦労したと思っている! 隷属の首輪が嵌められている以上逃げられやしないんだから、大人しくしてろ!」
「美しくないな」
その前に立った僕が、蔑みの視線を向けながら言う。
「あ? 何だ、貴様」
訝しむローブ姿の男。
「エルフを奴隷にする事は、エルフの国イリューシカと結ばれている条約で禁止されている筈だ」
厳しい口調で問い詰める。違法な行いをしている為、人目につかないようにこの道を選んだのだろう。
「だからどうした。俺は崇高なる邪神〈終焉の厄災〉の敬虔たる下僕であるフィニス教団の〈十二使徒〉の一人マタイ様だぞ」
悪びれる事なく一笑に付しながら、尊大な態度で誇らしげに名乗った。
フィニス教団か⋯⋯〈終焉の災厄〉の復活を目論むカルト教団だな。
その〈十二使徒〉のマタイと言えば、ゲームでは名前しか登場しなかったが、最高幹部の一人だ。
悪の芽は早めに摘みとっておくとするか。
「野放しにしておいたら、また彼女みたいな犠牲者が出る事になってしまうだろうからな。法の目を掻い潜ってきたあんたには、俺がこの手で罰を与えてやる」
残虐者モードに移行する。こんな外道を相手に慈悲は要らない。
「はっ! 十歳かそこらの餓鬼に何が出来るというのだ!」
「〈加速せよ〉」
僕は、鼻で笑うマタイにはかまわず、速度を上げる魔法を唱えた。
そうするとともに、その目で追うのがやっとというような速さで瞬きの内に肉薄。
腰に提げていた片手剣を素早く引き抜き、驚愕に目を見張るマタイの右腕に振り抜いた。
「ぎゃぁああああっ!」
肩から先が切断され、右腕が宙を舞い、傷口から鮮血が迸る。
「無様だな。醜悪で美しくない」
激痛に両膝を地面について苦悶に顔を歪めるマタイを見下ろしながら、罵る。
「貴様あっ! 許さんぞ! よくもこのマタイ様の右腕を! すぐに後悔させてやる!」
マタイは激昂して叫ぶと、残された左手で、懐から一本の暗紫色の液体が入った瓶を取り出した。




