モノローグ
美しくありたいと、願った。
ただ、ひたすらに、心から、純粋に。
蒼穹の遥けき彼方まで自由に飛ぶ鳥のように。
ひらひらと鮮やかに宙を舞う蝶のように。
悠久の大地を、勇壮で華麗に駆ける白馬のように。
純粋な永遠の愛を誓い合う恋人同士のように。
牧歌的な風景の中で咲き誇る、彩り豊かな花々のように。
精緻に象られた艶やかな女神像のように。
流麗に奏でられ、紡がれて心を奪われる音楽のように。
それらに並び立てるような存在へと。
そう思うに至ったきっかけは、ある一枚の絵画を目にした事だった。
あれは、まだ僕が七歳だった頃。
母親に連れられて、一緒に街の美術館を訪れた時。
僕は、そこに飾られていた一枚の絵画を見た瞬間、全身に電流が走ったような感覚に襲われた。
一人の若く美しい女性が、その端正な横顔を覗かせながら、楚々《そそ》として佇んでいる様が描かれている。
そんな何気ない瞬間を区切りとった一枚。
その絵画に、蠱惑的な美女に秋波を送られる初心な青年のように魅入られてしまった僕。
時間を彼方の向こうに追いやって、呆れる母親をよそに、食い入るように閉館間際まで鑑賞を続けた。
作者とタイトルは覚えていない。そんなものは、ただのノイズに過ぎない。
それ以来、僕は、熱病に侵されたように、あらゆるものに”美しさ”を求めるようになった。
人物、物、風景、文化──。
対象は何でもよかった。
それは、俗に言う唯美主義というやつだろう。
その中でも、最も興味を引いたのが、創作物だった。
作中では、魅力的な登場人物達が、作り込まれた世界観の下、素敵な物語を紡いでいた。
その幻想の中にある世界は、ただただ美しかった。
僕にとって、他の何にも代えがたい、唯一で無二になった。
もちろん、取るに足りない駄作も多いけれど、それは取捨選択すればいいだけの事だ。
そうしている内に、僕の中に、ある願いが芽生えた。
自分もこんな風に美しく生きてみたい、と。
しかし、この現代社会は、多くの雑多な柵に絡め取られて自由に身動きが出来ず息苦しい。
その中で、そんな拘りを抱いた生き方など、望める訳がない。
仮にそういう動きを少しでも見せようとしたとしよう。
途端、排他主義な輩によって、攻撃され、枠外に弾かれる事になってしまうのがオチだ。
とても嘆かわしい事に。
かと言って、それが現実である以上、甘んじて受け入れるしかない。
この世界は、剣と魔法が織りなす美しい異世界で紡がれる壮大なファンタジーとは違うのだから。
その為、何も特筆する事のない人並みな青春時代を過ごし、大学を卒業した後は、普通に会社に就職した。
そして、三十歳の誕生日を迎えた日──。
「ああ、美しく生きたかった⋯⋯」
若くして病床に伏せる中、その言葉を最期に残して、僕は汚れの多かった人生に幕を降ろした。




