第九十七話 「まりえもんの装備」
警報が鳴り響く中、技術者たちは完全にパニック状態だった。
「こんな公然とした襲撃は初めてだ!」
「どうしよう、どうしよう!」
「逃げ場がない!」
右往左往する技術者たちを横目に、マリアは冷静だった。むしろ、目が輝いているようにすら見える。
「恩の売り時」
そう言って、持参していた大きなケースを開け始めた。
「まりえもん!」
アスカが嬉しそうに叫んだ。
「でた! 何でも出てくる魔法のポケット!」
マリアは無表情のまま、装備を取り出していく。その顔は自慢げだ。
「なんでもではない、出てくるものだけ出る」
ケースの中から、次々と宇宙活動用の装備が出てくる。薄型の宇宙服、酸素ボンベ、推進装置、そして各種武器。
「短時間なら、真空でも活動可能」
マリアが説明を始めた。
「約三十分。それ以上は保証しない」
キヨシ、京介、アスカ、竹彦が装備を受け取り始めた。
その時、キヨシがハッと気づいた。
「いや待て!」
全員が振り返る。
「なんかナチュラルに俺も出ることになってるけど、俺も大概素人なんだが!?」
確かに、事務所に入って半年。いくつかの事件には関わったが、宇宙での戦闘なんて初めてだ。
サムライたちの熱い眼差しが、キヨシに突き刺さった。
「頼むぞ、キヨシ」
キヨタカが力強く言った。
「ハブ家の誇りを見せてくれ」
「日本の未来がかかっている」
マサヨシも期待の目を向ける。
「お、おい……」
キヨシは後ずさりしようとしたが、もう逃げ場はなかった。
「くそ! なんでいつもこうなるんだよ!」
頭を抱えて叫んだ。
マリアが冷たく言い放った。
「いつまでも新人ヅラは良くない」
「いや、でも……」
アスカも肩をすくめた。
「まあ、もう戦力やし」
「そんな簡単に……」
竹彦も頷いた。
「もう半年ですよね? 場数もそれなりにありますし」
キヨシは目を剥いた。
「いうほどあったかなぁ!?」
確かに、グレイ種との遭遇、ミレニオンとの戦い、カーカラシカでの騒動。色々あったが、どれも巻き込まれただけだ。自分から戦いに行ったことなんてない。
「グチグチ言わない」
マリアが宇宙服を投げつけた。
「着て」
「うわっ」
キヨシは慌てて受け取った。
仕方なく、装備を身に着け始める。薄型とはいえ、宇宙服は思ったより重い。
「これ、本当に大丈夫なの?」
山口が心配そうに見守っていた。
「大丈夫」
マリアが断言した。
「多分」
「多分かよ!」
キヨシが叫んだが、もう誰も聞いていなかった。
京介が落ち着いた様子で装備を確認している。
「推進装置の使い方は?」
「背中のボタン。押せば進む」
マリアの説明は簡潔すぎた。
「それだけ?」
「それだけ」
アスカは嬉しそうに装備を身に着けていた。
「ウチ、宇宙で戦うの初めてや!」
「楽しそうだな……」
キヨシは呆れた。
竹彦は慣れた手つきで装備を整えていた。
「大丈夫ですよ、キヨシさん」
「お前は慣れてるからいいよ」
四人が円陣を組んだ。
「よっしゃ!」
アスカが気合を入れた。
「宇宙開発の大詰めで恩を売るんや! これで将来安泰や!」
「そういう問題?」
キヨシがツッコんだが、無視された。
外では、バンディットの船がどんどん近づいてくる。鳥頭の海賊たちが、武器を構えているのが見えた。
「エアロックへ」
マリアが先導する。
サヤカと二宮、山口は心配そうに見送った。
「無事に帰ってきてね」
「死なないでよ」
「頑張って!」
ニーナとラムザは、複雑な表情で見ていた。まさか、自分たちを守るために戦ってくれるとは。
エアロックの前に立つと、キヨシの足が震えた。
「マジで行くの?」
「行く」
マリアが扉を開けた。
減圧が始まる。プシューという音と共に、空気が抜けていく。
「やばい、やばい、やばい」
キヨシが呟き続ける。
そして、外扉が開いた。
目の前に、漆黒の宇宙が広がっていた。そして、三隻の海賊船が、月面基地に向かって突進してくる。
「行くで!」
アスカが最初に飛び出した。
続いて京介、竹彦。
キヨシは一瞬躊躇したが、意を決して飛び出した。
「うわあああああ!」
叫び声は、真空の宇宙には響かなかった。
人類初の、月面での宇宙戦闘が始まった。




