第八十一話 「女帝との激突」
アンドラに向かって手を振り下ろそうとした竹彦の前に、ニーナが立ちはだかった。
「私が……長だ」
かすれた声だが、その威厳は絶対的だった。
「まずは私を殺してから」
竹彦は一瞬だけニーナを見た。そして、床に散らばっていた甲冑の破片を拾い上げた。鋭く尖った金属片。それを槍のように構え、ニーナに向かって突き刺すように腕を振るった。
ビリビリビリ!
ニーナの前に電撃の壁が走った。青白い稲妻が網目状に広がり、竹彦の体を弾き飛ばす。
ドガン!
竹彦は壁に激突したが、すぐに立ち上がった。
「何が目的」
ニーナが短く聞いた。
竹彦は血の混じった唾を吐き捨てた。
「仲間を殺した二人を殺す。その後、親類も全員殺す」
その声には、一切の感情がなかった。ただ事実を述べているだけのような、冷たい声。
ニーナは振り返らずに命令した。
「ラムザとアンドラを連れて、ここから離れろ。他のみんなも」
「しかし、ニーナ様!」
エンキドゥが反発した。
「我々が戦います!」
「お前たちがいると、気を遣って戦えない」
ニーナの声に、有無を言わせない力があった。
「どこかに行け」
皇族たちは渋々ながら、傷ついたラムザとアンドラを抱えて退避を始めた。
竹彦は逃げていく彼らを睨みつけた。特にラムザとアンドラを見る目は、純粋な殺意に満ちていた。
「逃げても無駄だぞ!」
竹彦が叫んだ。
「絶対に追いついて、全員殺してやるからなあ!」
その声には、恨みと憎しみが滲んでいた。
皇族たちが完全に退避すると、広間には竹彦とニーナだけが残された。
「どちらかが死ぬしかなさそうだな」
ニーナが呟いた。
「こんなことなら、設計図ぐらい渡してやればよかった」
竹彦は答えずに突進した。ニーナの首を掴もうと手を伸ばす。
しかしニーナは素早く後ろに引いた。年齢を感じさせない俊敏な動き。
バリバリ!
電撃が竹彦を牽制する。竹彦はそれを避けながら、さらに接近を試みる。
ドガアアン!
竹彦の拳が柱を粉砕した。ニーナはギリギリで回避し、今度は雷の槍を放つ。
二人の戦いは、建物を破壊しながらエスカレートしていった。壁が崩れ、天井が落ち、まるで爆撃を受けているかのような惨状になっていく。
*
東京、アマガワ事務所。
「カーカラシカへの謝罪文、これで……」
マリアが書類を見直していた時、アスカがテレビを見ながら叫んだ。
「おい、ニュース見てみ!」
画面には、カーカラシカのニュースが映っていた。
『緊急速報です。バビロンの中央皇居で、激しい爆発と共に職員たちが一斉に退避する異常事態が発生しています』
キャスターが緊迫した声で伝えていた。
『先日の聖火祭での騒動に続き、国内でのテロの可能性が……』
その時、キャスターの背後で何かが爆発した。建物が崩れ、電撃のような光が走る。
「きゃあ!」
キャスターが悲鳴を上げて逃げ始めた。カメラマンは勇敢にも、その騒動の中心を映そうとズームした。
そこに映ったのは……
「おい、これ見ろ!」
アスカが画面を指差した。
全身が汚れ、ボロボロになりながらも、激しく戦っている小さな人影。そして、その相手は……
「竹彦だ!」
キヨシが叫んだ。
「あいつ、やっぱり生きとったんや!」
アスカが拳を振り上げた。
「ええで! そのままやってまえ!」
しかし、マリアの表情は妙に紅潮していた。
「ダイナミック国際問題」
彼女は目を輝かせながら言った。どこか興奮しているような、元気な声だった。
「産業スパイを通り越して、普通に暗殺事件」
マリアは勢いよく立ち上がった。
「早く竹彦を回収しないと」
彼女は弾むような足取りで屋上へ向かって走り始めた。
「待て、マリア!」
京介が追いかけた。
「行くで!」
アスカも走り出した。
全員が大急ぎで屋上に向かい、それぞれが車に乗り込んだ。
「到着まで10分」
マリアがエンジンをかけながら言った。
「竹彦がカーカラシカ一族を皆殺しにする前に着かないと」
京介が青ざめた。
「それは……確かに大変なことになる」
「国際問題どころじゃ済まないで」
アスカも真剣な顔になった。
車が急速に浮上し、東京の空を猛スピードで飛び始めた。




