第八十話 「血の報復」
中央宮殿の大広間に、竹彦が現れた。
床を突き破って飛び出してきた彼の姿は、もはや人間とは思えなかった。全身から耐え難い異臭が漂い、血と汚物にまみれた衣服がボロボロに垂れ下がっている。しかし、その赤い瞳だけは、恐ろしいほど鮮明に輝いていた。
「来たか……!」
ラムザは即座にアーティカルアームを展開した。黒い甲冑が彼の腕と脚を包み込み、戦闘態勢が整う。
竹彦は無言でラムザに向かって突進した。その速度は、目で追うのがやっとだった。
ガシッ!
二人は手四つに組み合った。ラムザの顔に余裕の笑みが浮かぶ。
「バカが! 同じ手は……」
しかし、その笑みはすぐに凍りついた。
ギリギリギリ……
アーティカルアームから異音が聞こえ始めた。竹彦の力が、前回とは比較にならないほど強い。
「なんだと……!?」
シュウウウウ!
甲冑から白い煙が噴き出し始めた。過負荷の警告。システムが限界を超えている。
バキッ!
竹彦の手が、ラムザの手首を甲冑ごと握り潰した。金属が飴細工のように変形し、砕け散る。
「ぐあああ!」
ラムザの絶叫が響いた。しかし竹彦は容赦しなかった。
ドゴォ!
竹彦の拳がラムザの頭部を直撃した。ラムザは咄嗟に腕で防御したが、その腕ごと吹き飛ばされた。体が宙を舞い、壁に激突して石材が砕け散る。
「ラムザ様!」
皇族の戦士たちが一斉に動いた。
「法力展開!」
エンキドゥが両手を前に突き出した。青白い炎が竹彦に向かって放たれる。
マルドゥクは雷撃を、ドゥムジは氷の槍を、それぞれ同時に放った。
しかし竹彦は、それらをまるで見えているかのように回避した。体を捻り、跳躍し、時には手で叩き落とす。法力攻撃が床や壁に着弾し、爆発と破壊音が響き渡る。
「速すぎる……!」
次の瞬間、竹彦が消えた。
ドガッ! ドガッ! ドガッ!
戦士たちが次々と地面に叩きつけられていく。竹彦の動きは速すぎて、もはや残像すら見えない。
「きゃああ!」
女性たちの悲鳴が上がった。
竹彦は立ち止まった。その視線の先には、アンドラがいた。
竹彦の顔に、憎悪が浮かんだ。純粋な、混じりけのない憎しみ。アンドラを睨みつけながら、ゆっくりと歩き始める。
「アンドラを守れ!」
男たちが立ちはだかった。ウトゥ、ニヌルタ、ニンギシュジダ、エンリル。若い戦士たちが必死に壁を作る。
竹彦は立ち止まることなく、ただ腕を振った。
ドン!
最初の一撃で、ウトゥが横に吹き飛んだ。
バキッ!
二撃目で、ニヌルタの腕が不自然な方向に曲がった。
三撃目、四撃目……
瞬く間に、若い戦士たちは蹴散らされた。床に転がり、呻き声を上げている。
アンドラは恐怖で震えていた。錫杖を構えようとするが、手が震えて上手く持てない。
「た、助け……」
竹彦がアンドラの前に立った。その小さな体からは想像もつかない威圧感が放たれている。
ニーナが静かに立ち上がった。しかし、動こうとはしなかった。ただ、じっと見つめている。
セツナは母親の袖を掴んでいた。体が震えていた。一週間前、自分が子供扱いした相手が、今や皇族の戦士全員を圧倒している。
竹彦がゆっくりと手を上げた。アンドラに向かって。
その時だった。




