第七十八話 「銀河連盟からの警告」
バビロンの中央宮殿、通信室。
カーカラシカの皇族たちが息を詰めて見守る中、ラムザが月面基地との中継を通じて、銀河連盟への通信を試みていた。
「理論が正しければ……」
技術官の一人が震える声で呟いた。ハイパージャンプ通信。光速を超える通信技術。これが成功すれば、カーカラシカは銀河の仲間入りを果たすことになる。
ラムザは深呼吸をして、通信装置のボタンを押した。
一瞬の静寂。
そして――
「つながった!」
ラムザの叫び声に、室内が沸いた。
「おお!」
「やった!」
「ついに……ついに!」
しかし、ラムザが「しっ!」と手を上げて皆を制した。
スピーカーから、妙にレトロな音が流れてきた。
ジリリリリ……ジリリリリ……
「何この音?」
セツナが首を傾げた。
「地球の古い電話の着信音に似てるわね」
イナンナが呟いた。
ガチャッ。
受話器を取るような音がした。そして、宇宙公用語で声が聞こえてきた。
『はい、アンドロメダ宇宙銀河連盟、受付です』
室内に歓声が上がった。本当につながったのだ。
『あ〜? なんですかこの番号……』
受付の声は、どこか退屈そうだった。事務的な、日常業務の一環という感じだった。
『あ〜、地球の方? オープンチャンネルでよくかけれましたね……』
驚きが声に混じった。
『通信はできるようになったわけですか。こりゃすごい』
ラムザは胸を張って答えた。
「我々はカーカラシカ国、地球の盟主です。今、代表してお電話しています」
『あ〜、おめでとうございます! 偉大な一歩ですね! ちょっと担当者と代わりますので!』
そして、妙な音楽が流れ始めた。
テレレー、テレレレー、テレレレレ……
「なんだこの音楽は……」
エンキドゥが困惑した表情を浮かべた。
「待ち受け音というやつでは?」
マルドゥクが推測した。
全員が微妙な顔をしながらも、辛抱強く待った。歴史的瞬間なのだから、多少の不便は我慢できる。
やがて、別の声が聞こえてきた。
『代わりました。連盟加入窓口です。地球代表の方? 初めまして』
ラムザは咳払いをしてから、丁寧に挨拶した。
「初めまして。我々カーカラシカ国は、ハイパージャンプの理論と推進力の理論を完成させました。近々、そちらに伺えるようになります」
『あ〜、はいはい。ちょっと待ってくださいね……』
キーボードを叩くような音が聞こえた。
『衛星に発射場を……なるほど。物質変換を制御して動力と推進力にしているんですか』
ラムザは驚いた。こちらは何も詳細を説明していないのに。
『なんで塩化ナトリウムなのかは分かりませんが、まあ地球は塩水がふんだんにありますからね。こっちの方が制御しやすいんですかね?』
「どうして分かるんです?」
ラムザが聞いた。
『あ〜、こちらに到着したら、オープンソースを提供しますので、それで分かりますよ。到着が楽しみですね』
担当者の声は、本当に楽しそうだった。
『エネルギー結晶も併用していると……いや、ユニークですね。こりゃ面白いや』
会場から歓声が上がった。
「やったぞ!」
「我々の技術が認められた!」
技術官たちも抱き合って喜んでいる。ニーナも満足そうに頷いていた。
ラムザはふと思い出した。
「そういえば、そちらの指名手配犯を捕まえているのですが、引き取ってくれますか?」
『あ〜、通信もすごいあれだな、めちゃくちゃユニークだなこれ。絶対に独力だな』
担当者は通信技術に感心しているようだった。
『そうそう、通信方法に関してや会話内容は記録しますのでご了承を……これによって準加盟星になりました……で? 誰ですか? まあ引き取る分にはいいですよ。誰ですか?』
ラムザは咳払いをした。
「そちらでいう戦士連盟の0級、七夕タケヒコというやつです」
一瞬の沈黙。
そして、受付が爆笑した。
『彼を捕まえたんですか!? どうやって?』
笑い声には信じられないという感情が混じっていた。
『酒でも飲ませて、寝ているのを捕まえたというのはナシですよ! それとも美女で釣ったとか?』
ラムザは少し不快になった。
「いえ、制圧しました。今、拘束しています」
『……』
長い沈黙が流れた。
『本当に?』
「我々は恒星間移動の技術は未熟ですが、兵装に関しては発達していると思います。今、牢屋です。私が捕まえました」
ラムザは胸を張った。室内の皆も誇らしげな表情を浮かべている。
担当者が何かを操作する音が聞こえた。
『あ〜……どうも本当に捕まえたようですね』
声に驚きが混じっていた。
『なぜ殺さないんですか?』
「死んだら賞金額が減るのでは?」
『確かに多少は減りますがね』
担当者の声が急に真剣になった。
『悪いことは言わないので、すぐに殺した方がいいですよ。あと、その状態の彼の引き取りはできないので、殺してから引き取ります。彼が暴れると非常に厄介ですから』
ラムザは自信満々に答えた。
「我々なら制圧できますよ」
担当者は再び爆笑した。しかし、今度の笑いには哀れみが混じっていた。
『彼とは何度か話したことがありますよ。これは個人的な忠告ですが、彼は最初は手加減するんですよ。なんでかは分かりませんがね』
室内の空気が変わった。皆が不安そうに顔を見合わせる。
『まあ、ひどい地雷というか……彼を捕まえて調子に乗った連中がどんな目に遭ったのか……』
担当者の声は、まるで恐怖を思い出しているかのようだった。
『まあ、今からでも謝れば、その状態からでも許してくれるかもしれないな……ところで、仲間を殺したりはしてませんよね?』
ラムザは周りを見回した。皆が困惑している。会話の流れが、想定とは全く違う方向に進んでいた。
「戦っている最中に二人ほど……おそらく」
一瞬の静寂。
そして――
『すぐに逃げるんです!』
担当者が叫んだ。
『それか殺さないと全員殺されます!』
パニックが声に滲んでいた。
『うわ、もう最悪や。これだから新参者は嫌なんだ。このシステム絶対に変えた方がいいよ』
ぶつぶつと愚痴が聞こえてくる。
『彼を捕まえてから何日経ってますか?』
「い、一週間です」
ガチャン。
電話が切れた。
室内に困惑した沈黙が流れた。
「なんだ?」
ラムザが首を捻った。
「どういう意味だ?」
その時、ラムザの携帯が鳴った。地下牢からの緊急連絡だった。
「はい……何?」
ラムザの顔が青ざめていく。
「例の囚人が……脱獄……?」
電話の向こうから、何かが激しく壊れる音が聞こえてきた。爆発音、悲鳴、そして――
「警備が……警備が全滅です!」
震える声が叫んだ。
「化け物だ! あいつは本物の化け物だ!」
通信が途切れた。
室内の皆が、凍りついたように動けなくなっていた。




