表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/162

第七十話 「メルベルと千年王」



 セツナは刀を構え直しながら、観客に向かって朗々と語り始めた。


「この聖火祭は、建国の父メルベルが千年王ギシュガルを倒した日を祝う日でもあるのよ」


 観客たちが歓声を上げた。確かに、祭りのあちこちで剣戟の演舞が行われている。


「あなたが千年王の役ってわけ」


 セツナは竹彦に向かって刀を向けた。


「最後は千年王役が死んだ演技をして終わるから、よろしくね」


 次の瞬間、容赦ない斬撃が竹彦を襲った。

 竹彦は素早く身をかわし、近くの大道芸人からステッキを奪い取った。しかし、セツナの鋭い刃の前では、ステッキなど棒切れも同然だった。

 シュッ!

 ステッキが真っ二つに切断された。竹彦は残った半分を投げ捨て、別の芸人から新しい小道具を奪う。

 観客たちが囁き合っていた。


「どっちがメルベル様役?」


「伝説だと、メルベルは褐色の肌だったはず……」


「じゃあ、あの小さい方がメルベル役?」


 確かに、竹彦の褐色の肌は伝説のメルベルを彷彿とさせた。一方、千年王ギシュガルは3メートルを超える怪物として語られているため、演舞では通常、小柄な方がメルベル役を演じる。

 セツナは激しく剣を振るった。上段、中段、下段、変幻自在の攻撃が竹彦を襲う。

 しかし、竹彦の動きは人間離れしていた。

 床を蹴って5メートル跳躍し、空中で身を捻って着地。セツナの斬撃を紙一重でかわしながら、隙を見て反撃に転じる。


「すごい!」


「これ、本当に演技?」


 観客たちが興奮して、スマートフォンで写真や動画を撮り始めた。

 セツナは内心で焦り始めていた。


「おかしい……私も人間を超えた動きができるはずなのに」


 彼女の攻撃は確実に竹彦を追い詰めているように見えた。しかし、決定打が入らない。それどころか……

 ドン!

 竹彦の蹴りがセツナの脇腹に入った。


「ぐっ……!」


 セツナが数メートル吹き飛ばされた。観客からどよめきが起こる。

 セツナは素早く立ち上がったが、内臓にダメージが残っていた。


「格が違う……?」


 彼女は信じられない思いだった。カーカラシカの血を引き、幼い頃から鍛え上げられた自分が、なぜ……

 バシッ!

 今度は竹彦の拳がセツナの肩を打った。刀を持つ腕が痺れる。


「くっ……!」


 セツナは後退しながら、竹彦を睨みつけた。

 竹彦は静かに構えていた。その姿は、まるで本当に伝説のメルベルのようだった。

 離れた場所で、アスカが双眼鏡で戦いを見ていた。


「竹彦、手加減しとるな」


 京介も頷いた。


「本気なら、とっくに終わってる」


 マリアが無線で指示を出した。


「竹彦、適当に負けて撤退。時間稼ぎは十分」


 しかし、竹彦からの返事はなかった。

 セツナは荒い息をしながら、刀を構え直した。


「なぜ……なぜあなたみたいな化け物が……」


 竹彦は悲しそうな表情を浮かべた。


「僕は化け物じゃないですよ…」


 その言葉には、偽りのない本音が込められていた。

 観客たちは、二人の迫真の演技に息を呑んでいた。これが作り物だとしても、あまりにもリアルすぎる。

 セツナは震える手で刀を握りしめた。復讐のはずだった。簡単に終わるはずだった。なのに……


「まだ……まだ終わってない!」


 セツナが最後の力を振り絞って突進した。

 竹彦は静かにそれを待ち構えた。

 聖火の炎が、二人を赤く照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ