第六十二話 「キモン邸への招待」
セツナが次々と話すので、キヨシはちょっと焦ってきた。予想以上にグイグイ来る相手に、戸惑いを隠せない。
「ええっと……家の人はいいのか?」
キヨシが恐る恐る聞いた。
「ほら、なんとなくあんなこともあったし、怒るんじゃないか?」
セツナは肩をすくめた。
「お母さまはいい顔をしないけど、どうせ普段いないし。家の人は好きにさせてくれるから」
その言葉に、キヨシは複雑な家庭事情を感じ取った。
「キヨシくんの家は?」
セツナが興味深そうに聞いた。
「ええっと……まあ俺の家は自由だよ」
キヨシが曖昧に答えた。
「おじさんはなんか考えてるけど、俺にはよくわからないし……父親と母親もあんまり帰ってこないし、妹と姉は呑気にしてるし」
セツナの目が輝いた。
「党首ってお父さんじゃなかったんだ」
「うん、おじさんだよ」
「おじさんの話聞かないでこんなところに来てるんだー!」
セツナが楽しそうに笑った。
キヨシは照れながら答えた。
「バイトだから……うん」
事務所では、盗聴器を通じて聞いている女性陣たちが大興奮していた。
「甘酸っぱいー! 青春ドラマみたい!」
山口が転げ回っている。
「キヨシ、案外やるじゃない」
サヤカも興奮していた。
しかし、マリアは冷静に聞こえないと文句を言った。
「うるさい。聞こえない」
その時、セツナが突然立ち上がった。
「じゃあ、家に来なよ! お菓子とかジュースとかいっぱいあるよ!」
そして、キヨシの手をグイグイと引っ張り始めた。
事務所では竹彦が拳を握って叫んだ。
「来た!」
京介もしみじみと言った。
「展開早いな……」
そして、ふと思いついたように付け加えた。
「キヨシくんはマリアと付き合ってほしかったんだが」
その瞬間、マリアが京介をバシンと叩いた。
「余計なこと言わない」
トニーが心配そうに言った。
「家に入って大丈夫でしょうか?」
マリアが冷静に分析した。
「どのみち、この状況だとキヨシが自力で帰ってくるしかない」
「でも、危険では……」
「最終的には母親と面識を持って、カーカラシカに信用されるのを待つしかない」
キモンの屋敷は、キヨシの想像を遥かに超えていた。豪華絢爛な日本風の庭園に囲まれた巨大な屋敷で、複雑な構造をしている。歩いていると、時折家全体が軋むような音や、風が吹き抜ける音が聞こえてくる。
「すげえ家だな」
キヨシが感嘆した。
「古い家だからね」
セツナが説明した。
「地下には神火があるの」
「神火?」
「聖火のことよ。北海道の神火は、うちの地下深くにあるの」
廊下を歩きながら、キヨシは家の奥深さを実感していた。まるで迷路のような構造で、どこがどこだか分からない。
「迷子になりそうだ」
「大丈夫、慣れれば覚えられるよ」
セツナが振り返って微笑んだ。
客間に通されると、確かに豪華なお菓子とジュースが用意されていた。
「すごいな、こんなに」
「たまにお客さんが来るから、いつも準備してあるの」
キヨシはお菓子を一つ口に入れた。上品な甘さが口の中に広がる。
「美味しい」
「でしょ? カーカラシカから取り寄せてるのもあるの」
セツナが嬉しそうに説明する。その時、ふと表情が変わった。
「ねえ、七夕竹彦って知ってる?」
キヨシは咳き込みそうになった。
「あ、あぁ……知ってるけど……」
セツナが無邪気な笑いを浮かべた。
「知ってるんだ! あいつってまじで極悪人だよね!」
キヨシは内心で謝った。竹彦、すまん。
「あ、あぁ……そうだよね、うん」
キヨシは適当に話を合わせながら、小声で呟いた。
「竹彦、すまん……」
セツナが続けた。
「結構な数の人を殺してるって話よね」
事務所では、アスカが慌てて山口、サヤカ、二宮を部屋から押し出していた。
「お前ら、ちょっとマジで聞かん方がええで」
「なんで?」
山口が抵抗した。
「竹彦の昔の話は、聞かん方がええもんもあるねん」
アスカの真剣な表情に、三人は素直に部屋を出た。
残されたマリア、京介、アスカ、トニーは、重い空気の中で盗聴を続けていた。
セツナの話は、まだ始まったばかりだった。




