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第六十一話 「秘密任務開始」



 出発の準備をしていると、竹彦が提案した。


「今回は女性陣の同行はやめておきましょう」


 山口が眉をひそめた。


「なんで?」


「女を口説きに行くのに女連れはありえないでしょ」


 サヤカがあっけらかんと答えた。


「なんなら他の男も不要よね」


 マリアも頷いた。


「効率を考えれば、キヨシ一人が最適」


 アスカが手を叩いた。


「そやそや! 男だらけでぞろぞろ行ったら、相手も警戒するで」


 キヨシは不安になってきた。


「でも、何かあったら困るじゃないか」


 竹彦が微笑んだ。


「大丈夫です。今日は楽しく犬の世話のバイトに行くだけですから」


「そんな軽く言うなよ……」


 その時、マリアが小さな装置を手に持って近づいてきた。


「これを首につけて」


「何それ?」


「超小型の有機盗聴器。これで状況がわかる」


 キヨシが身構えた。


「ちょっと待てよ……」


 しかし、マリアは問答無用でキヨシの首筋にプスッと装置を刺した。


「痛っ!」


「大丈夫。生体と融合するから、見た目にはわからない」


 事務所の全員がウキウキした表情で見守っている。


「この連中、人のことと思って面白がりやがって!」


 キヨシが怒った。


「まあまあ」


 トニーが宥めるように言った。


「みんな、キヨシくんの成功を祈ってるんですよ」


 竹彦が注意を促した。


「盗聴器はあくまで盗聴器です。こちらからは指示ができないから気をつけて」


 アスカが興奮していた。


「ライブ感満載やな! まるでドラマ見とるみたいや!」


 山口とサヤカも顔を見合わせて笑っていた。


「頑張って、キヨシ」


「応援してるから」


 キヨシは渋々と言った。


「わかったよ……でも、変なことになったら絶対に助けに来いよ」


「もちろんです」


 竹彦が答えた。

 こうして、キヨシは一人で北海道に向かうことになった。空飛ぶ車を運転しながら、彼は自分の人生がどんどん奇妙な方向に向かっていることを改めて実感していた。

 北海道に到着すると、キヨシは車を近くの森にこっそりと駐車した。人目につかない場所を選んで、慎重に隠した。


「よし、バレないはず」


 モイモイのいる場所に向かうと、確かに家の人間はいないようだった。静かな環境で、犬小屋の周りには誰もいない。


「ふぅー」


 キヨシは安堵のため息をついた。とりあえず、普通に犬の世話ができそうだ。

 モイモイは相変わらず犬小屋でのんびりとしていた。キヨシが近づくと、嬉しそうに尻尾を振る。数千キロ先の尻尾が振られているのだろうが、ここからは見えない。


「よしよし、元気だな」


 キヨシは持参した餌を与えながら、モイモイの頭を優しく撫でた。犬の温かい体温と、人懐っこい表情に、緊張していた心がほぐれていく。


「犬って、まじセラピーだな」


 アニマルセラピーの効果を実感しながら、キヨシは穏やかな気持ちになっていた。任務のことを忘れて、純粋に犬との触れ合いを楽しんでいる。

 その時、横から声がした。


「わかるぅ。超ストレスの時って、犬と遊ぶと癒されるよね」


 キヨシは驚いて振り返った。いつの間にか、セツナが隣に座っている。


「うおおお!?」


 セツナは屈託のない笑顔で手を振った。


「どうしたのー!? 遊びに来たのー!?」


 キヨシは心臓がバクバクしているのを感じた。予想以上に早い接触に動揺している。


「あ、あぁ……そんな感じ。ちょうどバイトで犬の世話も頼まれたし……」


 セツナの目が輝いた。


「ハブ家の跡取りでもバイトとかするんだ! 偉いねー!」


「家は関係ねえよ」


 キヨシが素直に答えた。


「楽しいからバイトしてんだ」


「へえー」


 セツナが感心したように頷いた。


「私、そういう発想なかった」


 キヨシは興味深くなって聞いた。


「キモンさんはどうなの? バイトとかするの?」


 セツナの表情が少し曇った。


「したことない……家からあんまり出たことないし……」


 その言葉に、キヨシは意外な一面を感じた。美しくて自信に満ちて見えるセツナにも、制約があるのだ。


「大変なんだな」


「うん」


 セツナが小さく頷いた。


「家の方針で、あまり学校にも行けないの。お母さまは私を守ろうとしてくれてるんだけど……」


「父親は?」


「いない」


 セツナがあっさりと答えた。


「小さい頃に亡くなったから、よく覚えてない」


 キヨシは胸が痛くなった。塩化爆弾事件のことを思い出す。メルベル・ボムという名前も。


「家の人は優しいけど」


 セツナが続けた。


「ちょっと他の家の子供を見ると羨ましくなっちゃう」


「どんなところが?」


「自由に学校行って、友達作って、バイトして……普通のことが、私にはすごく特別に見える」


 キヨシは相槌を打ちながら聞いていた。セツナの話は、思っていた以上に深刻だった。

 事務所では、全員が盗聴器を通じて会話を聞いていた。

 アスカが興奮して叫んだ。


「おお! 甘酸っぱい青春やん! これは完全にフラグ立っとるで!」


「うるさい、聞こえない」


 マリアがアスカを押し除けようとした。


「でも、これは予想以上にいい感じね」


 サヤカが分析した。

 山口も頷いた。


「相手の心を開かせるのが上手いのね、キヨシって」


 竹彦が感心していた。


「自然な会話ですね。これなら成功するかもしれません」


 モイモイの前で、キヨシとセツナの会話は続いていた。


「でも、今日は自由に出てこれたんでしょ?」


「うん、たまには大目に見てもらえるの」


 セツナが微笑んだ。


「特に、あなたみたいな特別な人と会う時は」


 キヨシは顔が赤くなった。


「特別って……俺は普通だよ」


「全然普通じゃないよ」


 セツナが首を振った。


「会議で堂々と意見を言ったり、宇宙人と戦ったり……すごくかっこよかった」


 キヨシは照れながら答えた。


「あれは……成り行きで」


 セツナが楽しそうに笑った。


「謙虚なところも素敵」


 事務所では、さらに盛り上がっていた。


「これは完全に落ちてるやん!」


 アスカが手を叩いた。


「静かにして」


 マリアが真剣に聞いている。

 こうして、キヨシの奇妙なスパイ活動は、予想以上に順調なスタートを切ったのだった。

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