第五十五話 「五家会議の開幕」
エレベーターが静かに上昇していく。キヨシは表示される階数を見ながら、どんどん地上から離れていく感覚に不安を覚えた。三十八階で止まると、扉が開いて豪華絢爛な廊下が現れた。
「うわあ……」
廊下の両側には古い甲冑や名刀が展示され、まるで博物館のような雰囲気。天井の装飾も見事で、現代的なビルの中とは思えない荘厳さだった。
会議室の扉は重厚な木製で、両開きの大きなもの。扉が開かれると、そこには円形に配置された席が見えた。まるで国連の会議場を思わせる造りで、各家の席には家紋が刻まれた銘板が置かれている。
「さあ、キヨシ。堂々と歩け」
キヨタカに促されて、キヨシは会議室に足を踏み入れた。
円形のテーブルには五つの区画があり、それぞれの家の代表者たちが着席していく。最上位の席には京都ホウジョウ家が座り、時計回りに東京トクガワ家、四国チョウソカベ家、九州ハブ家、そして北海道キモン家の順だった。
まず、議長を務めるホウジョウ家の当主が立ち上がった。
「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。京都ホウジョウ家当主、ホウジョウ・マサヨシと申します」
マサヨシは六十代と思われる威厳のある男性で、白髪を美しく整えている。その隣には息子らしき男性が座っていた。
「こちらは息子のマサヒロです」
続いて東京トクガワ家の紹介が始まった。
「東京トクガワ家当主、トクガワ・ヨシナオです」
ヨシナオは五十代前半と思われる精悍な男性。先ほどキヨシと対立した山田も、この家の傘下だったのだろう。隣には若い男性が座っている。
「息子のヨシアキです」
四国からは、日焼けした逞しい体格の男性が立ち上がった。
「四国チョウソカベ家当主、チョウソカベ・モトチカです」
モトチカの隣には、同じく日焼けした若い男性がいた。
「息子のモトヤスです」
九州の番になり、キヨタカが立ち上がった。
「九州ハブ家当主、ハブ・キヨタカです」
そして、キヨシの方に手を向けた。
「こちらは甥のキヨシです。次期当主として参加させていただきました」
キヨシは立ち上がって頭を下げた。
「ハブ・キヨシです。よろしくお願いします」
場内がざわめいた。他の家はすべて当主とその息子という組み合わせなのに、ハブ家だけ甥と当主という構成だった。しかも、キヨシは明らかに最年少だった。
最後に、北海道キモン家の番になった。しかし、立ち上がったのは意外にも女性だった。
「北海道キモン家当主、キモン・ユキヒメです」
ユキヒメは四十代と思われる美しい女性で、金髪を優雅にまとめている。威厳があるが、どこか冷たい印象も与える。
「娘のセツナです」
セツナが軽やかに立ち上がって手を振った。
「みなさん、よろしくー!」
他の家の代表者たちが、その軽い調子に眉をひそめた。
マサヨシが咳払いをして、会議を始めた。
「それでは、本日の議題に入らせていただきます。まず第一に、ミレニオン組織壊滅後の新体制について」
「第二に、各地の聖火管理体制の見直し」
「第三に、増加する宇宙人への対応策」
「そして最後に、アンナム・ファミリーとの今後の関係について」
キヨシは議題を聞きながら、すべてが自分に関わることだと気づいた。ミレニオンを壊滅させたのも、アンナムと関係を築いたのも、宇宙人と戦ったのも、すべて自分が関わっている。
「まず、ミレニオン壊滅の経緯について、詳細を把握したいと思います」
マサヨシが続けた。
「この件に関して、ハブ家のキヨシ殿から直接お話をお聞かせいただけますでしょうか」
突然名前を呼ばれて、キヨシは慌てた。
「え……僕が?」
キヨタカが小さく頷いた。
「堂々と話せ」
キヨシは立ち上がったが、足が震えそうになった。円形のテーブルを囲む五家の代表者たち、そしてその後ろに控える幹部たち。総勢百人近い視線が自分に注がれている。
「え……えーっと……」
喉が渇いて、うまく声が出ない。
「落ち着いて、ゆっくりでいいぞ」
マサヨシが優しく声をかけた。
キヨシは深呼吸をして、北海道でのモイモイとの出会いから始まって、アマガワ事務所でのバイト、マリアとの友情、京介の救出、そしてミレニオンとの戦いまでを、時系列順に説明していった。
話が進むにつれて、会議室の空気が変わっていくのを感じた。最初はざわめいていた参加者たちも、次第に静かに聞き入るようになった。
「……そして、京介さんが記憶を取り戻して、ミレニオンの幹部たちを……」
キヨシが話を終えると、会議室は静寂に包まれた。
ヨシナオが口を開いた。
「つまり、君一人の行動が、世界規模の組織を壊滅させることになったということか」
「い、いえ……僕一人じゃありません。仲間みんなで……」
「しかし、きっかけを作ったのは君だ」
キヨシは返す言葉が見つからなかった。確かに、すべての始まりは自分がアマガワ事務所でバイトを始めたことだった。
モトチカが低い声で言った。
「結果的に、我々の資金源と情報網を断つことになったな」
「申し訳ありません……」
キヨシが頭を下げようとした時、ユキヒメが涼しい声で割って入った。
「でも、面白いじゃない」
一同の視線がキモン家に向けられた。
「ミレニオンなんて、所詮は金で我々を縛ろうとしていただけ。それが壊滅したところで、何も困らないわ」
ヨシナオが苛立ったように言った。
「資金援助がなくなれば、聖火の管理にも支障が出る」
「それなら、自分たちで何とかすればいいでしょ」
ユキヒメが冷然と答えた。
「いつまでも他人に頼っているから、こんなことになるのよ」
会議室の雰囲気が一気に険悪になった。
セツナが手を挙げた。
「あのー、お母様の意見に賛成です」
ユキヒメが娘を見やり、小さく頷いた。
「今までの日和見が今の状況を招いたんでしょ?」
セツナが続けた。
「無礼者の宇宙人をどうしようが勝手だと思うけど」
マサヨシが眉をひそめた。
「君の発言は軽率では……」
「でも、キヨシくんの話を聞く限り、ミレニオンってろくでなしの組織だったんでしょ?」
セツナは堂々と言い切った。
「人体実験とか、記憶消去とか、普通に考えて悪い奴らじゃん。ハブ家のキヨシくんは悪くなくね?」
ヨシナオが反論しようとした。
「しかし、結果として……」
「結果として悪い組織が潰れたんだから、良かったじゃん」
セツナが遮った。
「それより、いつまでもお金もらって言いなりになってた方が問題でしょ」
会議室が再び静寂に包まれた。
キヨシは心の中で叫んだ。
「誰か助けて……」




