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第五十二話 「神火の剣と報道陣」



 飛行機のファーストクラスの座席で、キヨシは窓の外に広がる雲海を眺めていた。こんな贅沢な座席に座るのは生まれて初めてだった。普通なら興奮してもおかしくないのに、今の心境では素直に喜べない。

 隣に座ったキヨタカが、ふと口を開いた。


「キヨシ、剣は使えるか?」


 キヨシは京介から受けた指導を思い出した。基本的な構えや振り方、足の運び方など、確かに何度か教わった記憶がある。でも、実戦で使えるレベルかと言われると、正直自信がない。


「まあ、ちょっとだけ……基本みたいなものを習った程度ですけど」


 キヨタカは頷くと、座席の下から長い包みを取り出した。機内に持ち込んだのかと思うと、キヨシは目を丸くした。


「おじさん、これって……」


「銃刀法違反って知ってる?」と言いかけたが、キヨシは口を閉じた。自分だって宇宙人相手に大暴れして、銀河連盟に指名手配されている身だ。人のことを言える立場ではない。

 キヨタカは包みを開いて、美しい刀を取り出した。鞘から抜かれた刀身は、機内の照明を受けて神秘的な輝きを放っている。


「会議ではどうなるか分からないからな」


 キヨタカの表情が真剣になった。


「これで身を守れ」


 その温かい言葉に、キヨシは色んな意味で泣きそうになった。おじさんの優しさが身に染みると同時に、自分がそんな危険な状況に巻き込まれていることへの絶望感も湧いてくる。


「もう、あの時の何も知らない平凡に退屈していた頃に戻りたい」


 キヨシはしみじみと思った。数学のテストで田中に負けたとか、そんなくだらないことで悩んでいた日々が、遠い過去のように感じられる。ほんの二ヶ月かそこら前の出来事なのに、まるで別の人生のようだった。


「これは神火で鍛えた剣でな」


 キヨタカが説明を続けた。


「我がハブ家に代々伝わる名刀じゃ。神火のエネルギーが込められておる」


「神火って、聖火のことですよね?」


「そうじゃ。九州の神火で鍛え上げられた特別な刀じゃ。普通の刀とは訳が違う」


 キヨシは刀を受け取りながら、その重みを感じた。物理的な重さだけでなく、歴史と責任の重さも一緒に背負うことになったような気がした。


「うんうん」


 と相槌を打ちながら聞いていたが、内心はもうヤケクソだった。


「もう何でもいいや。どうにでもなれ」


 飛行機が羽田空港に着陸すると、機外には予想以上の騒ぎが待っていた。報道陣が大挙して押し寄せ、カメラのフラッシュが激しく光っている。


「うわあ、マジか」


 キヨシは慌てて、キヨタカの後ろにせめてもの抵抗として顔が隠れる角度に身を潜めた。しかし、そんな努力は無駄だった。あらゆる角度からカメラが向けられ、容赦なくシャッターが切られていく。


「今回の会合はどういった経緯で開催されるんですか!?」


「何が話し合われるんですか!?」


「サムライ組織の現代的な意義について、どうお考えですか!?」


 報道陣からの質問が矢継ぎ早に飛んでくる。

 キヨタカは慣れた様子で答えた。


「ちょっと顔合わせじゃ。昔からの付き合いでな」


「具体的な議題については?」


「まあ、色々とな。詳しいことは言えんが」


 キヨシは後ろでうつむき加減になっていたが、それでも顔はバッチリと撮影されてしまった。明日には間違いなく、新聞やニュースサイトに自分の写真が掲載されるだろう。


「学校、どうしよう」


 もう普通の高校生活に戻ることは不可能だった。クラスメイトたちがこの映像を見たら、どんな反応をするだろうか。田中は「お前、まじでヤバイ奴だったんだな」とか言うかもしれない。

 空港から出ると、さらに多くの報道陣が待ち構えていた。テレビカメラも複数台設置されており、まるで大物政治家の到着を待つような騒ぎだった。


「ハブ家の若き後継者について、一言お願いします!」


「キヨシさん、今のお気持ちはいかがですか!?」


 急に自分の名前が呼ばれて、キヨシは驚いた。いつの間に名前まで知られているのだろう。

 キヨタカが手で制した。


「今日のところは、これで勘弁してくれ」


 報道陣は不満そうだったが、それ以上は追求してこなかった。しかし、カメラは最後まで回り続けていた。

 黒塗りの車に乗り込んでから、キヨシは深いため息をついた。


「おじさん、なんでこんなに注目されてるんですか?」


「最近、宇宙人関連の騒ぎが増えとるじゃろう?」


 キヨタカが苦い表情を浮かべた。


「政府は『宇宙人などいない』と言い続けとるが、ミレニオンが壊滅してから目撃情報の統制ができんくなっとる」


「公然の秘密って感じですか」


「そういうことじゃ。みんな薄々気づいとるのに、表向きは知らんふりをしとる。それで、我々のような組織にも注目が集まっとるんじゃ」


「そういうことか」


 キヨシは理解した。アマガワ事務所での活動が、思わぬ形で自分の出自にも影響を与えていたのだ。

 車は東京の街を走り続けた。車窓から見える景色は、いつもの東京と変わらない。しかし、自分を取り巻く状況は、もう元には戻らないのだろう。

 腰に差した刀の重みを感じながら、キヨシは京都での会議に向かって行った。神火で鍛えられた刀と、報道陣の注目を背負って。

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