第四十九話 「聖火の真実」
アマガワ事務所の会議室には、ミレニオンから押収した膨大な資料が山積みになっていた。分厚いファイルから溢れ出す書類、暗号化されたデータディスク、そして数え切れないほどの研究報告書。マリアは端末の前に座り、青白い画面の光に照らされながら、一心不乱にデータを解析していた。
「これは……」
彼女の指がキーボードを叩く音だけが、静寂を破っていた。科学少女としての天才的な頭脳が、複雑なデータの関連性を次々と読み解いていく。
竹彦は窓際に立ち、外の景色を眺めながら待っていた。
「マリア、何か分かった?」
「驚愕の事実よ」
マリアが振り返った。その無表情な顔に、珍しく動揺の色が浮かんでいる。
「宇宙人たちが地球に集まる真の目的が判明した」
山口、サヤカ、二宮も身を乗り出した。
「地殻深くに眠る『聖火』と呼ばれるエネルギーの奔流」
マリアは画面に表示されたデータを指差した。
「そして、RVウイルス。これらの争奪戦が、本当の目的だった」
アスカが眉をひそめた。
「聖火って、なんや?」
「地球のエネルギーコアから噴出する、特殊なエネルギー流。これが地球人の異常な戦闘力の源だった」
マリアの説明が続く。
「法力使いの能力も、サムライの超人的な身体能力も、全てこの聖火の影響」
京介が腕を組んだ。
「それで宇宙人どもが群がってきてるのか」
「ミレニオンの真の目的も判明した」
マリアは別のファイルを開いた。
「地球代表として銀河連盟入りを目指し、聖火の噴出場所を制圧しようとしていた。RVウイルスの開発も、その一環」
トニーが深刻な表情で頷いた。
「それで、組織が壊滅した今は?」
「宇宙人の監視が激減している」
マリアの声に緊張が走った。
「世界各地で混乱が勃発し始めてる。アンナムが早急にミレニオンの代替わりをしなければ、大変なことになる」
竹彦が振り返った。
「具体的には?」
「聖火の噴出場所が無防備になる。宇宙人たちが直接制圧に乗り出すかもしれない」
会議室に重い沈黙が落ちた。事態の深刻さが、全員の胸に重くのしかかる。
「でも、世界中の守護者たちとは連絡が取れてるんでしょ?」
山口が希望を込めて聞いた。
マリアは少し安堵の表情を見せた。
「そう。ヨーロッパ、アメリカ、アジア各地の守護者組織とは何とか連絡が取れた。資金援助の継続も約束した」
「一安心だな」
アスカがほっとした様子で言った。
しかし、サヤカが首を傾げた。
「そういえば、ニホンってどうなってるの? 他の国は大丈夫だけど、日本の状況がよく分からないわ」
マリアは困ったような表情を浮かべた。
「ちょっと、よく分からない」
京介が苦笑いした。
「サムライはかなり気難しいからな。ミレニオンも、アンナムも、資金援助くらいに留めていたらしい」
「つまり、他の国と比べて独立性が高いってこと?」
二宮が聞いた。
「そういうことだ」
京介が頷いた。
「日本のサムライたちは、外部からの干渉を嫌う。特に、宇宙人関連の組織との関わりには慎重だった」
竹彦が考え込んだ。
「それって、今回の件で僕たちと敵対する可能性もあるってこと?」
「可能性はある」
京介の表情が厳しくなった。
「ミレニオンを倒したことで、間接的に日本の守護システムに影響を与えてしまった。彼らがそれをどう受け取るかは……」
マリアがデータを見直していた。
「日本には五つの聖火噴出場所がある。北海道、東京、京都、四国、九州」
「キヨシの故郷も入ってるじゃないか」
山口が驚いた。
「ハブ家は九州の守護者だった」
京介が説明した。
「おそらく今頃、サムライたちの間で会議が開かれているだろう」
「そういえば、キヨシが休みを取ったのって、もしかしてこの騒ぎで実家から呼び出されてたりして!」
山口が冗談めかして言った。
一同は最初笑ったが、マリアは無表情のまま答えた。
「なんで笑う? 多分そういうこと」
笑い声が急に止まった。
「え……マジで?」
サヤカが驚いた。
「ハブ家は九州の守護者だから、緊急会議に呼ばれてても不思議じゃない」
マリアが淡々と説明した。
「巻き込まれちゃったのは確かね」
マリアは再びキーボードを叩き始めた。
「とりあえず、世界情勢の把握が最優先。各地の守護者との連携を強化して、宇宙人の動向を監視する必要がある」
「僕たちにできることは?」
竹彦が聞いた。
「今のところは、いつも通りの業務を続けること」
マリアが答えた。
「ただし、緊急事態に備えて準備を整えておく必要がある」
京介が立ち上がった。
「俺も、古い仲間に連絡を取ってみる。サムライのネットワークは複雑だが、情報収集には有効だ」
「お願いしますね!」
竹彦が頷いた。
会議室の外では、東京の夕日が沈みかけていた。普段と変わらない平和な光景だが、その裏では地球規模の争いが始まろうとしている。
マリアは画面を見つめながら呟いた。
「地球って、思ってたより複雑な星だったのね」
「地球は大変、価値のある星ですからね! 狙う宇宙人は多いですよ!」
その時、トニーの携帯電話が鳴った。慌てた様子で電話に出る。
「はい、アマガワ事務所です……え? 東京湾に未確認の宇宙船? 分かりました、すぐに向かいます」
全員の視線がトニーに集まった。
「早速、始まったようですね」
トニーが緊張した面持ちで報告した。
竹彦が立ち上がった。
「稼ぎ時です! あんまり危なくないところで、お金をたくさん稼ぐ時ですよ!」
「おっしゃあ!」
アスカが拳を鳴らした。




