第四十一話「祝宴と指名手配」
アンナム家の屋敷は、ミラノ郊外の丘の上にそびえていた。
広大な庭園には、色とりどりのランタンが灯され、長いテーブルが並べられている。ファミリーの再生を祝う盛大な宴が開かれていた。
キヨシは上機嫌だった。
「いやー、イタリア旅行もさせてもらったし」
彼はワイングラスを傾けながら、隣に座る地元の美女に笑いかけた。
「まあ、学校のことは気になるけど、ちょっとくらいいいよな!」
「シニョール・キヨシ、もっと飲んで!」
褐色の髪の女性が、キヨシのグラスにワインを注ぐ。
「へへ……ありがとう」
キヨシは完全に浮かれていた。
少し離れた席で、京介がキヨシを興味深そうに眺めていた。
「あの少年、キヨシと言ったか」
京介はロベルトに尋ねた。
「はい、日本人だそうです」
「ほう」
京介は立ち上がり、キヨシの元へ歩いていった。
「君、出身はどこだ?」
キヨシは振り返った。
「え? あ、九州です。鹿児島」
京介の目が輝いた。
「鹿児島か! サムライの土地だな」
「まあ、うちの爺さんも昔はサムライだったって言ってましたけど」
「苗字は?」
「ハブです」
京介の表情が変わった。驚きと、そして敬意が混じった表情。
「ハブ家……まさか、あのハブ家か」
彼は深く頷いた。
「私の実家から見て、上の家格だ。素晴らしい血筋じゃないか」
マリアがそれを聞いて、眉をひそめた。パパが他の男に注目している。しかも、相手を褒めている。
「パパ」
マリアが京介の袖を引いた。
「料理、冷める」
「ああ、すまない」
京介はマリアの頭を撫でた。
「でもな、マリア。彼は法力の才能もある。将来有望だ」
マリアは無表情のまま、キヨシを睨んだ。
キヨシは冷や汗をかいた。
「あの……マリアさん?」
「……別に」
マリアはそっぽを向いた。
アスカが笑った。
「おお、嫉妬か? かわいいやんけ」
「違う」
マリアは即座に否定した。
竹彦も包帯姿のまま、椅子に座って料理を楽しんでいた。
「いやー、本場のイタリア料理は美味しいですね」
庭の一角には、大きなプロジェクターが設置されていた。音楽やニュースが流れ、宴を盛り上げている。
陽気なイタリア音楽が流れる中、ファミリーの男たちが立ち上がった。
「さあ、踊ろう!」
「ファミリーの再生を祝って!」
腕を組み合い、輪になって踊り始める。タランテラの軽快なリズムに合わせて、足を踏み鳴らす。
「キヨシも来い!」
男たちがキヨシを引っ張り込む。
「え、ちょっと、踊れないって!」
しかし、有無を言わさず輪の中に入れられた。
その時、プロジェクターの画面が切り替わった。
『緊急ニュース』
銀河連盟のニュースキャスターが、深刻な顔で原稿を読み上げる。
『本日、銀河連盟の大型地球巡航船が、地球の暴力団組織により撃墜されました』
踊りが止まった。全員が画面を見つめる。
『犯行グループは、イタリアを拠点とする犯罪組織アンナムと、その協力者たちです』
画面に顔写真が次々と表示される。
マリア・アンナム——危険度S級
大文字京介——危険度S級
七夕竹彦——危険度SS級(最重要指名手配)
アスカ——危険度A級
そして……
キヨシ・ハブ——危険度B級
「なんで俺まで!?」
キヨシが絶叫した。
画面にはさらに詳細が表示される。
『アンナム組織は、本日より銀河連盟公認の地球指定暴力団に認定されました』
ファミリーの男たちは、一瞬の沈黙の後、爆笑した。
「はははは! これで箔がついたな!」
「銀河規模の暴力団だぞ!」
「ドンナ・マリア万歳!」
キヨシは青ざめた。
「いや、笑い事じゃないでしょ!」
彼は必死に訴えた。
「賄賂って、宇宙規模だとどの程度必要なんですか!?」
マリアが冷静に答えた。
「大したことない。すぐに抱き込める」
「ほら見ろ!」
ロベルトが叫んだ。
「ドンナ・マリアは事情通だ!」
男たちがグラスを掲げた。
「カンパーイ!」
「アンナムは安泰だ!」
音楽が再開され、さらに激しい踊りが始まった。
誰かが呼んできた本場の歌手が、オペラを歌い始める。演奏隊も加わり、屋敷は完全な祝祭モードになった。
キヨシは頭を抱えた。
「俺、もう日本に帰れないじゃん……」
竹彦が肩を叩いた。
「大丈夫ですよ。なんとかなります」
「なんとかなるって、SS級指名手配犯が言っても説得力ないよ!」
アスカが豪快に笑った。
「ええやん! 人生一度きりや!」
彼女もワインを飲みながら踊りに加わった。
京介はマリアと並んで座り、騒ぎを静かに見守っていた。
「懐かしいな」
京介が呟いた。
「昔もこんな風に騒いだものだ」
マリアは小さく頷いた。
「覚えてる。パパはいつも、端で見てた」
「君の父と母は、いつも輪の中心だった」
京介の目に、過去の光景が蘇る。
「でも今は、君が中心だ」
マリアは無表情のまま、でも少し嬉しそうに答えた。
「パパも、一緒」
夜は更けていき、宴は続いた。
銀河指名手配犯となった一行だが、今夜だけは、全てを忘れて楽しむことにした。
明日からの問題は、明日考えればいい。
今は、ファミリーの再生を祝う時だった。




