第三十九話「脱出」
突然、船全体が大きく揺れた。
「なんだ!?」
京介が周囲を見回して驚愕した。銀河連盟の宇宙船の内装は、彼の理解を超えていた。
「なんだこれは? 文字が宙に浮かんでるぞ……」
ホログラムの表示や、異星の技術に満ちた通路。6年前の記憶には存在しない光景だった。
竹彦がキヨシの背中でぐったりしながら答えた。
「来る途中でエネルギー炉をちょっと壊してきたので……多分、もうすぐ落ちちゃいます……」
「エネルギー炉?」
京介は訳が分からないという顔をした。
「一体何の話だ?」
アスカが叫んだ。
「船が爆発するで! はよ小型艇かなんかで逃げな!」
彼女は走り出した。京介はマリアを抱え上げ、その後を追った。マリアは父の腕の中で、安心したように身を委ねていた。
「パパ、あっちよ」
マリアが格納庫への道を指差した。
一行は必死に走った。船の揺れはどんどん激しくなり、あちこちで爆発音が響く。
「ここや!」
アスカが小型艇の格納庫を見つけた。数隻の脱出艇が並んでいる。
キヨシが操縦席に滑り込んだ。
「俺に任せろ! VR講習で免許取ったんだ!」
「頼むで!」
アスカが竹彦を艇内に運び込む。
京介はマリアと共に乗り込みながら、まだ状況を把握しきれていない様子だった。
「これは……宇宙船なのか?」
「説明は後や!」
アスカが叫んだ。
「キヨシ、発進!」
キヨシは巧みに操縦桿を操作した。小型艇が格納庫から飛び出す。
背後で、巨大な宇宙船が火を噴き始めた。制御を失い、地球の重力に引かれて落下していく。
「やばい、やばい、やばい!」
キヨシが必死に操縦した。
爆発の衝撃波が小型艇を揺らす。キヨシは歯を食いしばりながら、なんとか体勢を立て直した。
窓の外で、銀河連盟の巨大宇宙船が大気圏に突入し、炎に包まれながら落ちていく。ドカンドカンと爆発を繰り返し、黒煙を上げながら地表へと墜落していった。
「ふう……」
キヨシは額の汗を拭った。
「なんとか逃げ切った」
操縦しながら、背後から聞こえる声に耳を傾ける。
「パパ、大丈夫? 怪我してない?」
「マリア……本当にマリアなのか……大きくなったな……」
親子の感動的な再会。キヨシは邪魔をしないよう、黙って操縦に集中した。
しかし、その感動も長くは続かなかった。
「あかん!」
アスカが叫んだ。
「こいつ死ぬで!」
竹彦が大量の血を流し、顔面蒼白になっていた。意識も朦朧としている。
「薬はどこや! 止血剤! なんでもええ!」
アスカが小型艇の中を必死に探し回る。
京介が竹彦を見て、驚いた。
「この少年は……」
「竹彦や」
アスカが答えた。
「戦士連盟の0級。さっきまであんたと戦ってた」
京介は困惑した表情を浮かべた。
「戦士連盟? 0級?」
マリアが説明しようとした。
「パパ、実は……」
「説明は後!」
アスカが医療キットを見つけた。
「まず止血や!」
京介は自分の記憶を整理しようとした。最後に覚えているのは、ミレニオンに捕まった時。それから……空白。
「私は……どれくらいの間……」
「6年や」
アスカが止血しながら答えた。
「6年間、あんたは記憶失って、ミレニオンの殺人マシンやった」
京介の顔が青ざめた。
「6年……」
その間、自分は何をしていたのか。誰を殺したのか。考えるだけで吐き気がした。
マリアが京介の手を握った。
「大丈夫よ、パパ。もう終わったから」
キヨシが操縦席から振り返った。
「とりあえず地球に戻ろう。竹彦も治療が必要だ」
小型艇は、地球へと向かって飛行を続けた。
遠くで、墜落した宇宙船の残骸が、まだ黒煙を上げているのが見えた。




