第三十八話「血の制裁」
京介の突然の裏切りに、全員が凍りついた。
「な、なんだこれ……」
キヨシが呆然と呟いた。
マリアも信じられないという表情で、京介の戦いを見つめていた。
京介は容赦なく幹部たちに斬りかかった。ヴィンチェンツォが腕を斬り落とされ、絶叫する。
「ぐああああ!」
しかし、RVウイルスで強化された体は、すぐに再生を始めた。腕が生え直そうとする。
アントニオとルカも、それなりに応戦した。彼らも改造されており、常人離れした動きで京介の剣を避ける。
「裏切り者め!」
アントニオが叫んだ。
京介は冷たく答えた。
「よく言えたものだな」
彼の声は氷のようだった。
「ファミリーの掟は知ってるな?」
次の瞬間、京介の剣がアントニオの胴体を両断した。
「裏切り者には、死の制裁。忘れたわけじゃないだろうな」
ルカが背後から襲いかかるが、京介は振り返りもせずに剣を突き刺した。
「しかも、親殺しは重罪だ」
京介は容赦なく幹部たちをめった斬りにしていく。首を飛ばしても、RVウイルスのせいで生きている。生首が宙に浮いたまま、恨めしそうに京介を睨む。
「まだ生きてるのか」
京介は素早い斬撃で、空中の首も細切れにした。血が噴水のように吹き上がる。
その間に、アスカは落ちていた銃を拾い上げた。
「よっしゃ! 反撃や!」
彼女は残った警備員やRVウイルス兵器と戦い始めた。
竹彦はぐったりとしながらも、安堵の息を漏らした。
「た、助かった……」
キヨシが竹彦を担ぎ上げた。
「おい、何があったんだよ!」
竹彦は首を傾げた。
「さ、さあ……マリアの歌で、何か思い出したみたいだけど……」
戦場と化した通路の端で、マルコ・ジョルダーノだけが戦いに参加していなかった。
彼は壁にもたれて、タバコに火をつけた。RVウイルスで改造されていない、生身のままの体。かつての親友が全てを破壊していく様子を、どこか諦念したような、そして嬉しそうな表情で眺めていた。
煙をゆっくりと吐き出す。
京介が最後の幹部の首を切り落とし、周りが血の海になった頃、マルコが口を開いた。
「お前、どうやってあそこから復活したんだ?」
タバコを指で弾きながら続ける。
「昔から頑固な奴とは思ってたがな。見くびってたよ」
京介は血まみれの剣を下ろし、マルコに向き直った。
「二人の仇だ」
京介は静かに言った。
「日本の諺で、因果応報という。吐いた唾は自分に返ってくる」
マルコは苦笑した。
「出たな、ことわざ博士」
彼は深く息を吸い、タバコを床に落として踏み消した。
「……今回で最後か」
「ああ」
京介は剣を構えた。
マルコは目を閉じた。
「みんなに謝ってこい」
京介の剣が、マルコの胸を貫いた。
一瞬の静寂。
マルコは血を吐きながら、それでも小さく笑った。
「京介……マリアを……頼んだぞ……」
そして、崩れ落ちた。
京介は剣を引き抜き、血を振り払った。振り返ると、マリアが涙を流しながら立っていた。
「パパ……」
京介は剣を捨て、マリアに歩み寄った。そして、優しく抱きしめた。
「すまなかった、マリア。遅くなった」
親子の再会を、血の海が静かに見守っていた。




