表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/144

第三十一話「ファミリーの記憶」



 銀河連盟の巨大宇宙船、その最下層にある牢獄は、まるで中世の地下牢のような陰鬱な雰囲気を漂わせていた。金属製の壁は冷たく、わずかな光源が三人の影を長く伸ばしている。


 キヨシ、マリア、アスカの三人は、狭い独房に押し込められていた。尋問は終わったが、判決はまだ下されていない。ミレニオンの賄賂がどこまで効いているのか、誰にもわからない状況だった。


「なあ、マリア」


 キヨシが壁にもたれながら口を開いた。


「さっきから気になってたんだけど、アンナムって一体何なんだ? ミレニオンとの関係も、京介さんのことも、全然わからねえ」


 マリアは膝を抱えて座っていた。銀髪が薄暗い光を反射している。


「……話す」


 短い沈黙の後、マリアは無表情のまま語り始めた。


「わたしの本名は、マリア・アンナム」


 アスカが振り返る。


「アンナムって、組織の名前やないの?」


「ファミリーの名前。そして、わたしの名前」


 マリアは淡々と続けた。


「父の名は、ジョヴァンニ・アンナム。母は、ルチア・アンナム」


 キヨシは身を乗り出した。


「じゃあ、アンナムってのは……」


「わたしの家族が作った組織。イタリアで三百年続く、ファミリー」


 マリアの瞳に、わずかに感情の色が浮かんだ。


「父と母は、組織を近代化しようとしていた。宇宙との取引、新しい技術の導入。でも、古い考えの幹部たちは反対した」


「その幹部の一人が……」


 アスカが察した。


「マルコ・ジョルダーノ」


 マリアの声に初めて怒りが滲んだ。


「父の右腕だった男。信頼していた。家族同然だった」


 キヨシは息を呑んだ。


「裏切ったのか」


「他にも三人。ヴィンチェンツォ・ロッシ、アントニオ・ベルトーニ、そしてルカ・サントス。四人の幹部が手を組んで、ミレニオンを作った」


 マリアは立ち上がり、鉄格子を握りしめた。


「あの夜、わたしは八歳だった。パパ……京介が、わたしを抱えて逃げた。後ろで、父と母の叫び声が聞こえた」


「京介さんは……」


「母の元恋人」


 マリアは振り返った。


「でも、父と京介は親友だった。マルコとも、三人は兄弟のようだった」


 アスカが低く唸った。


「兄弟が、裏切ったんか」


「京介は母を愛していた。でも、母が父を選んだとき、京介は身を引いた。そして父の右腕として、ファミリーを支えた」


 マリアの表情は変わらないが、その声には深い悲しみが滲んでいた。


「わたしが生まれてから、京介はずっとわたしを可愛がってくれた。本当の娘のように。『マリア、お前は俺の宝物だ』って、いつも言ってた」


 キヨシは拳を握りしめた。


「それを、ミレニオンの連中が……」


「襲撃の日、京介は必死で戦った。でも、四人の幹部が用意した改造兵士には勝てなかった。RVウイルスの試作品を使った、化け物たち」


 マリアは牢獄の天井を見上げた。


「京介は捕まった。わたしは、アスカに助けられた」


 アスカが頷いた。


「あん時は、まだ殺し屋やったけどな。マリアを殺す仕事やったんや。でも、子供を殺すのは……できへんかった」


「それで竹彦に会った」


 マリアが続けた。


「空港で、ミレニオンの追手と戦ってるところに」


 キヨシは深いため息をついた。


「全部繋がってたのか」


「ヴィンチェンツォは薬物担当、アントニオは武器、ルカは人身売買。そしてマルコが全体を統括」


 マリアの声が冷たくなった。


「あいつら、ファミリーの掟を破った。仲間を裏切り、血を流した」


「だから、復讐するんか?」


 アスカが聞いた。


 マリアは首を横に振った。


「復讐じゃない。ファミリーを取り戻す。京介を取り戻す。それが、アンナムの娘としての、わたしの義務」


 その時、牢獄の扉が開いた。ミミズ頭の看守が、にやりと笑いながら入ってきた。


「おい、アンナムの小娘。判決が出たぞ」


 マリアは振り返りもせずに答えた。


「ミミズは黙ってて。どうせ金で買った判決」


 看守の顔が歪んだ。


「生意気な……まあいい。お前たちは明日、ミレニオンに引き渡される。『保護観察』という名目でな」


 キヨシとアスカが立ち上がった。


「なんだと!?」


「ふざけんな!」


 看守は高笑いした。


「マルコ・ジョルダーノ様が、お前たちを『更生』させてくださるそうだ。特に、アンナムの小娘はな」


 マリアはゆっくりと振り返った。その瞳は、氷のように冷たかった。


「マルコに伝えて。『アンナムの血は、裏切り者を許さない』って」


 看守は鼻で笑った。


「威勢がいいのも今のうちだ。明日の朝、迎えが来る」


 扉が閉まり、再び三人だけになった。


 アスカが壁を殴った。


「くそっ! このままやと、全員殺されるで!」


 キヨシは歯を食いしばった。


「竹彦は……竹彦はどこにいるんだ」


 マリアは静かに座り直した。そして、小さく呟いた。


「パパ……」


 銀河連盟の巨大宇宙船は、暗黒の宇宙を進み続ける。明日の朝まで、あと十時間。三人の運命は、風前の灯火だった。


 しかし、マリアの瞳には、まだ諦めの色はなかった。アンナムの血を引く者として、ファミリーの誇りを胸に、彼女は静かに次の一手を考えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ