第三十話「銀河連盟の尋問」
銀河連盟の巨大宇宙船内部。
取調室は、地球の警察署とは全く違っていた。壁は有機的な曲線を描き、天井からは謎の光が降り注いでいる。テーブルも椅子も、まるで生き物のように微かに脈動していた。
向かい側に座るのは、ミミズのような頭部を持つ取調官。ぬめぬめした肌から、独特の臭いが漂ってくる。
「地球人、七夕竹彦との関係を述べよ」
取調官の声は、湿った音だった。
「ミミズ頭は黙ってて」
マリアが即座に返した。無表情のまま、しかし明らかに挑発的だ。
キヨシは慌てた。
「おい、マリア!」
「なんだと?」
取調官の体が震えた。
「我々は銀河連盟の正式な——」
「口臭がクソ臭い。下水道の匂い」
マリアは鼻を摘まむ仕草をした。実際には無表情のままだが。
アスカも青ざめた。
「ちょ、マリアちゃん、あかんて!」
取調官の顔色——もともと土色だが——がさらに悪くなった。
「貴様……誘拐事件の共犯者の分際で……」
「共犯者?」
マリアが初めて表情を変えた。眉を少し上げる。
「ミレニオンこそ裏切り者。ファミリーを裏切った屑」
「ファミリー?」
「アンナム。私たちの組織」
マリアは淡々と続けた。
「宇宙人の分際で、地球の、イタリアの問題に首を突っ込まないで」
キヨシは頭を抱えた。この子、本当にマフィアのボスの娘だ。
別の取調官が入ってきた。今度は昆虫型だ。カマキリのような頭部に、複眼がギラギラと光っている。
「ミレニオン社の代表が証言を提出した」
ホログラムが空中に浮かび上がった。
スーツを着た、いかにも紳士的な中年男性。ミレニオンの現CEO、マルコ・ジョルダーノだった。
『私どもは、観光客の皆様を保護しようとしただけです』
録画された証言が流れる。
『地元のギャング、アンナムが観光客を誘拐していたのです。我々の警備員である京介は、彼らを救出しようとして……』
「嘘」
マリアが呟いた。
『証拠もあります』
画面が切り替わる。京介が、丁寧にエイリアンたちを「保護」している映像。明らかに編集されている。
「これは……」
キヨシが言いかけた。
「捏造。下手くそ」
マリアが断言した。
『七夕竹彦は、アンナムに雇われた傭兵です。彼こそが主犯です』
マッテオの証言は続く。
『我々ミレニオンは、銀河連盟の理念に賛同する、善良な企業です。この度の事件で、多大な損害を被りました』
カマキリ取調官が、書類をテーブルに置いた。
「ミレニオン社から、正式な告発状が提出されている」
そこには、竹彦の写真と、「極めて危険」という文字が踊っていた。
「また、多額の寄付金も……いや、これは関係ない」
取調官が慌てて書類をしまう。
賄賂だ、とキヨシは直感した。
「で、君たちの弁明は?」
別のミミズ頭が聞いてきた。
「弁明?」
マリアが首を傾げた。
「ミレニオンは、ファミリーを裏切った。父と母を殺した。パパを攫った」
「パパ?」
「京介。私の育ての親」
マリアの声は、感情がないように聞こえるが、その奥に怒りが滲んでいた。
「復讐する。当然の権利」
「復讐だと!?」
カマキリが声を荒げた。
「銀河法では私的制裁は——」
「銀河法?」
マリアが初めて、小さく笑った。冷たい笑みだった。
「地球の、イタリアの、ファミリーの掟が優先」
「なんという野蛮な……」
「野蛮?」
マリアが立ち上がった。小さな体だが、不思議な威圧感があった。
「親を殺され、家族を奪われ、黙っているのが文明的?」
取調官たちが顔を見合わせた。
「とにかく」
ミミズ頭が咳払いをした。
「君たちは、七夕竹彦の共犯者として——」
ドアが開いた。
入ってきたのは、別の銀河連盟職員だった。
「緊急連絡です。ミレニオン社から追加の証拠と……寄付金が」
厚い書類の束を置く。その下に、明らかに別の何かが見えた。
キヨシとアスカは絶望的な顔を見合わせた。
マリアは相変わらず無表情だったが、小さく呟いた。
「腐ってる。宇宙人も地球人も、みんな腐ってる」
そして付け加えた。
「でも、ファミリーは違う。ファミリーは裏切らない」
取調官たちは、不快そうな顔をしながら書類を確認し始めた。
状況は、最悪の方向に向かっていた。




