第二十八話「巨人と小人」
ミラノの石畳に、二人の戦士が対峙していた。
身長2メートルを超える京介。そして、150センチほどの竹彦。
まるでダビデとゴリアテ。いや、それ以上の体格差だった。
「さて」
竹彦が構えを取った。小さな体からは想像もつかない闘気が溢れ出す。
京介は無言のまま、両手を前に出した。
次の瞬間、二人は同時に動いた。
ガシッ!
手四つに組み合う。指と指が絡み合い、互いの力がぶつかり合った。
ギリギリギリ……
石畳に亀裂が走る。竹彦の足元が、じわじわと沈み込んでいく。
普通に考えれば、この体格差で竹彦に勝ち目はない。京介の腕は竹彦の太ももほどもある。
だが——
「せいやっ!」
竹彦が突然、後ろに倒れ込んだ。手を掴んだまま、バックドロップの要領で京介を投げる。
ドゴォォン!
京介の巨体が石畳に叩きつけられた。地面が陥没し、蜘蛛の巣状にひびが広がる。
だが京介もすぐに反応した。竹彦の手を掴んだまま、逆に投げ返す。
バキッ!
今度は竹彦が地面に激突。石畳が砕け散る。
「だりゃあ!」
竹彦が叫びながら跳ね起き、京介の顔面に拳を叩き込んだ。
ゴッ!
京介の巨体が大きくのけぞる。
竹彦は止まらない。連続で拳を繰り出す。顔面、腹部、脇腹。小さな体が、まるで弾丸のように動き回る。
ドガッ! ドガッ! ドガッ!
京介は防戦一方。2メートルの巨体が、150センチの小人に押されていく。
後退する京介の背中が、路上駐車の車に激突した。
ガシャーン!
車が潰れる。フロントガラスが砕け、タイヤがパンクする。
「La mia Ferrari!」
誰かが悲鳴を上げた。
竹彦はさらに追撃する。カフェのテーブルを踏み台にして跳躍し、京介の頭部に膝蹴りを叩き込む。
京介がよろめき、街路灯にぶつかった。金属の柱が、まるで飴細工のように曲がる。
「トドメだ!」
竹彦が拳を振り上げた。渾身の一撃を、京介の頭部に——
「パパー!」
その瞬間、悲痛な叫びが響いた。
空飛ぶ車の上から、マリアが身を乗り出していた。銀髪が風になびき、普段の無表情な顔に、初めて感情が浮かんでいる。
「うっ……」
竹彦の動きが、一瞬止まった。
その隙を、京介は見逃さなかった。
ドゴッ!
渾身の蹴りが、竹彦の腹部に炸裂した。
「がはっ!」
竹彦の小さな体が、まるでサッカーボールのように吹き飛んだ。10メートル、20メートル、30メートル……
ドガシャーン!
数十メートル先の噴水に激突し、水柱が高く上がった。
京介は無言のまま、後ずさりした。
そして——
ドンッ!
地面を蹴り、凄まじい跳躍力で宙に舞い上がった。ビルの屋上を飛び越え、ミラノの夜の闘に消えていく。
残されたのは、破壊された街並みと、呆然とするイタリア人たち。
そして——
「パパ……」
マリアの小さな呟きだけが、夜風に乗って消えていった。




