第二十七話「ミラノの激闘」
ミラノの街は、前代未聞の光景に包まれていた。
様々な形態の宇宙人たちが、イタリアの石畳を駆け抜けていく。そして、その後ろから——
「助けてえええ!」
アスカが全速力で走っている。追いかけるのは、ズボンが破れて下半身が露わになった京介。
「どや!」
アスカは走りながらドヤ顔を作った。
「ウチの色気も大したもんやろ!」
「今それどころじゃねぇだろ!」
キヨシが叫ぶ。この奇天烈な状況で、なぜ自慢できるのか。
「アスカさん! 携帯のバッテリーまだあります!?」
「おう! バッチリや!」
アスカは走りながら携帯を取り出し、竹彦に電話をかけた。
「もしもし! 今ミラノのドゥオーモ広場の近くや! カフェ・ミラノの前!」
詳細な位置情報を伝える。プロの殺し屋だった経験が、こんな時に役立つとは。
「エイリアンはどうすりゃいいんだ!」
キヨシが聞くと、電話の向こうからマリアの声が聞こえた。
『そこら辺に捨ててきて』
見ると、確かにエイリアンたちは既にてんでんばらばらに逃げ去っていた。カバたちは噴水に飛び込み、触手系は路地裏に消えていく。
京介のターゲットは、完全にアスカ一人に絞られているようだった。
「よーし!」
アスカが急に立ち止まった。
「あいつをこの場でぶちのめして、連れ帰ったるわ!」
キヨシは慌てて携帯で京介の写真を撮り、マリアに転送した。
電話の向こうで、マリアの困惑した声が聞こえる。
『なんで……フルチン?』
しかし、すぐに声のトーンが変わった。
『でも、確かにパパ』
アスカは戦闘態勢に入った。
「よし! 来い! フルチン男!」
拳を構える。キヨシも覚悟を決めて構えた。
京介も、さすがに走り回って興奮が収まったのか、慌てて逸物をズボンの中に押し込んでから、こちらに向かってきた。
無表情のまま、拳を構える。
次の瞬間——
ドガッ!
京介の拳が、路上の石畳を砕いた。アスカが間一髪で避ける。
「速い!」
反撃のキック。だが京介は軽々と受け止め、アスカの足を掴んで投げ飛ばした。
ガシャーン!
路上駐車していた車のフロントガラスが砕ける。
「Mamma mia!」
イタリア人たちが叫びながらも、スマホで動画を撮り始めた。
キヨシが横から飛び込んだ。渾身のタックル。
だが京介は微動だにしない。逆に腕を掴まれ、振り回される。
「うわああああ!」
キヨシの体が宙を舞い、カフェのテーブルに激突した。
エスプレッソが飛び散る。
「La mia macchina!」
車の持ち主が泣き叫んでいる。
アスカが立ち上がり、連続パンチを繰り出した。プロの殺し屋としての技術を全て注ぎ込む。
だが京介の動きは、まるで水のように流れるようだった。全ての攻撃を最小限の動きで避け、カウンターを返してくる。
そして——
ドスッ!
アスカが組み伏せられた。マウントポジションを取られる。
「やば——」
ゴッ!
京介の拳が、アスカの顔面に炸裂した。意識が飛ぶ。
「アスカさん!」
キヨシは必死に立ち上がり、後ろから京介の後頭部に蹴りを入れた。
ゴンッ。
鈍い音。だが京介は振り返りもしない。
裏拳が飛んできた。
「ぐはっ!」
キヨシの体が吹き飛び、ブティックのショーウィンドウに突っ込んだ。
ガラスが派手に砕け散る。マネキンと一緒に倒れ込んだ。
京介は気絶したアスカを肩に担ぎ上げた。そして、のしのしと歩き始める。
「待て……」
キヨシが必死に手を伸ばすが、体が動かない。
その時——
ブゥゥゥン!
上空から、聞き慣れたエンジン音が響いてきた。
空飛ぶ車が急降下してくる。そして、ドアが開いた瞬間——
竹彦が飛び降りた。
10メートルの高さから、まるで重力を無視したように落下。
そして——
ドゴォ!
渾身の飛び蹴りが、京介の側頭部に炸裂した。
京介の巨体が大きくのけぞる。肩からアスカが転げ落ちた。
「間に合いましたね」
竹彦が着地しながら、いつもの朗らかな声で言った。
だが、その目は笑っていなかった。




