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第十八話「戦士連盟0級」



 ポポロッカ星の都市外れ、人目につかない広場で、一行はようやく落ち着いて集合できた。


 竹彦は適当に拾ったらしいヘルメットを被っていた。サイズが合っていないのか、頭がすっぽりと隠れて、まるで着ぐるみのようだった。


「すいません、お騒がせしました」


 ヘルメットの奥から、いつもの朗らかな声が聞こえる。山口萌を地面に降ろすと、軽く一礼した。


「じゃあ、僕はこれで」


 そう言うや否や、竹彦は地面を蹴った。


 ドン、という衝撃音と共に、その体が空中に舞い上がる。10メートル、20メートル、30メートル……まるで重力が存在しないかのように、そのまま50メートルほど跳躍し、隣のビルの屋上に着地。さらにそこから跳んで、都市の彼方へと消えていった。


「……」


 キヨシは呆然と、その軌跡を目で追っていた。


 今まで学校で見ていた竹彦。確かに変わり者だとは思っていた。暴力的で、サイコパスで、東京一危険な男。でも、ここまでとは。


「なあ」


 キヨシが口を開いた。


「あいつ、本当に人間か?」


 金属製のロボットを素手で引き裂き、50メートルを軽々と跳躍する。そんなことが、人間に可能なのか。


「いや、でも……」


 キヨシは記憶を辿った。歴史の授業で習ったことがある。カーカラシカ帝国時代、法力使いと呼ばれる超人的な戦士たちがいたと。軍隊にも、ああいう化け物じみた連中がいるという話も聞いたことがある。


「お腹すいた」


 マリアが唐突に言った。


「帰る」


 山口萌の袖を掴み、歩き始める。まるで今の騒動など、日常茶飯事だと言わんばかりの態度だった。


「いやー、すごかったねー!」


 サヤカが能天気に笑った。


「萌ちゃん、本当に銀河で有名なのね。女王様まで立ち上がってたし」


「え、えへへ……」


 山口萌が照れたように頬を染めた。学校では見せない、年相応の表情だった。


「でも」


 キヨシが疑問を口にした。


「あのロボット、一体何だったんだ?」


「バンディット」マリアが答えた。「宇宙海賊」


 サヤカが補足する。


「鳥頭の連中が主格になってる集団よ。あちこちで悪事を働いてる。誘拐、強盗、密輸……まあ、宇宙のゴロツキね」


「地球でも萌を狙った」マリアが付け加えた。「一年前のコンサート」


「ああ!」キヨシが思い出した。「あの時の変な演出って……」


「演出じゃないわよ」


 山口萌が苦笑した。


「ガチで襲われたの。竹彦くんがいなかったら、今頃どこかの奴隷市場で売られてたかも」


「奴隷市場……」


「萌ちゃんはね」


 二宮がにこにこしながら説明した。


「『非力で美しい地球人の歌姫』って、すごく商品価値が高いんですよ〜。だから狙われやすい」


「だから私たちがプロデューサー」マリアが胸を張った。「保護しながらドサ回り。お金も稼げる」


 山口萌が頭を掻いた。


「竹彦くんには、本当に頭が上がらないのよねぇ……何度助けられたか」


「そういえば」


 キヨシが核心を突いた。


「竹彦が指名手配犯って、どういうことなんだ?」


 サヤカが肩をすくめた。


「銀河連盟もね、一枚岩じゃないのよ。『連盟』だから、色んな星の寄せ集め。で、竹彦のやつ、気に入らない連中を片っ端からぶちのめして回ったらしくて」


「ぶちのめした?」


「文字通りよ。惑星の軍隊とか、宇宙マフィアとか、腐敗した政治家とか。全員病院送り」


「……マジか」


「結果、あちこちから恨まれまくり。指名手配もされてるけど、逆に感謝してる星もあるから、ちょっとややこしいのよね」


 マリアが口を開いた。


「戦士連盟について説明する」


 キヨシは耳を傾けた。


「銀河の人材派遣組織。危険な星の開拓、紛争の調停、要人警護。表向きは、そういう仕事」


「表向き?」


「実際は、合法的な暴力装置」


 マリアの言葉は端的だった。


「ランクは5級から0級まで。数字が小さいほど強い。0級は……」


 マリアが少し間を置いた。


「銀河全体で5人だけ。竹彦はその一人」


「5人……」


 キヨシは息を呑んだ。銀河には何兆という知的生命体がいるはずだ。その中のトップ5。


「だから有名」マリアが締めくくった。「悪い意味でも、良い意味でも」


 一行は会場の近くまで戻ってきた。ポポロッカ人の係員が、まだ騒然とした様子で後片付けをしている。


 マリアが前に出て、流暢なコアラ語で話し始めた。


「グルル、コロロ、ムゥムゥ〜」


 相手のポポロッカ人も、最初は警戒していたが、徐々に納得したような表情になった。そして、懐から何かカードのようなものを取り出す。


 マリアはそれを受け取ると、端末にかざした。ピッという電子音と共に、ホログラムディスプレイに数字が表示される。


 マリアの頬が、かすかに紅潮した。


「コロロ〜」


 お礼を言って、係員と別れる。


「報酬?」キヨシが聞いた。


「そう」マリアが頷いた。「山口には、事務所で渡す」


「へぇ、ちゃんとギャラ出るんだ」


「当然」


 一行は駅へと向かい始めた。地球への帰路につくためだ。


「そういえば」


 キヨシが思い出した。


「竹彦はどうやって帰るんだ?」


 サヤカが不敵に笑った。


「あいつなら、適当に密輸船でも分捕って帰ってくるわよ」


「分捕る……」


「『すいません、ちょっと借ります』って言いながら、操縦席から引きずり出すのよ。で、地球に着いたら『ありがとうございました』って返す」


「それ、強盗じゃ……」


「でも礼儀正しいでしょ?」


 キヨシは頭を抱えた。


 銀河最強の戦士にして、最悪の指名手配犯。そして、異常に礼儀正しいサイコパス。それが七夕竹彦の正体だった。


 駅に向かう道中、キヨシはふと空を見上げた。三つの太陽が、それぞれ違う角度から街を照らしている。


 東京の、たった一つの太陽しか知らなかった自分には、まだまだ理解できない世界が広がっている。


 でも、不思議と恐怖はなかった。


 むしろ——


「なんか、楽しくなってきたな」


 小さく呟いた言葉は、ポポロッカ星の風に乗って、どこかへ消えていった。

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