第百六十二話「情報爆発の予兆」
銀河連盟本部、緊急会議室。
円形のテーブルを囲んで、各星系の代表と科学者たちが深刻な表情で座っていた。中央のホログラムには、銀河全体のエネルギー分布図が表示されている。
「諸君、状況は深刻だ」
議長のモルモノアが重い口を開いた。青い肌が緊張で濃くなっている。
「過去三ヶ月で、銀河全体に異常なエネルギーの乱れが観測されている」
ホログラムが切り替わり、赤い点が無数に表示された。
「これらは全て、エネルギー結晶鉱石の新規発見地点だ」
ベテルギウス星の科学者が立ち上がった。
「我が星系だけで、通常の500倍の産出量です。経済的にはバブル状態ですが……」
「問題はそこではない」
別の科学者が割って入った。
「これは、予言の『情報爆発』の前兆ではないか」
会議室がざわめいた。
トロン星の代表が羽を震わせた。
「まさか、あの予言が現実に……」
「さらに奇妙な報告がある」
モルモノアがホログラムを切り替えた。銀河地図上に、金色の光点が複数表示される。
「0級戦士ブリオンが、同時多発的に目撃されている」
「同時に? 不可能だ」
「だが事実だ。アンドロメダ銀河の東端と西端で、全く同時刻に目撃されている」
さらに奇妙な映像が映し出された。光る人型が、突然四足歩行の生物に変形し、また人型に戻る様子が記録されている。
「形態が安定しない。まるで……」
「情報そのものが不安定になっているようだ」
重い沈黙が流れた。
やがて、一人の老科学者が震え声で言った。
「もし情報爆発が起きた場合、どうなるのか」
別の科学者が端末を操作した。シミュレーション映像が流れ始める。
「我々の計算では、銀河全体のエネルギー構造が崩壊します」
映像では、銀河が白い光に包まれ、全ての文明が消滅していく様子が描かれていた。
「文明は石器時代まで後退。いや、それ以前かもしれない」
「生物は?」
「エネルギー値1000以下の生命体は、即座に死滅します」
会議室が凍りついた。
「それは……銀河の生命体の99.9%ではないか」
「その通りです。生態系は事実上ゼロに戻ります」
トロン星の代表が叫んだ。
「対策はないのか!」
「現時点では……」
科学者たちは顔を見合わせた。
その時、会議室の扉が開き、光る人型が入ってきた。ブリオンだった。
「ピピピー」
電子音のような声を発する。
議長が慌てて立ち上がった。
「ブリオン! 何か知っているのか」
ブリオンは中央に立ち、急に人間の言葉を話し始めた。しかし、その内容は支離滅裂だった。
「時間は円環する。始まりは終わりであり、終わりは始まりである。情報の海が溢れる時、全ては一つに還る」
「何を言っている?」
「エントロピーの逆転。秩序の崩壊。だが、それは新たな秩序の誕生でもある」
ブリオンの体が激しく明滅し始めた。
「警告する。準備せよ。選別が始まる」
「選別?」
「強き者のみが、新たな世界への切符を得る。弱き者は、情報の海に還る」
そう言うと、ブリオンは突然消失した。まるで最初からそこにいなかったかのように。
会議室に重い沈黙が降りた。
モルモノアが震える声で言った。
「緊急調査委員会を発足する。全星系の科学者を動員し、対策を見つけ出す」
「時間はあるのか?」
「分からない」
別の代表が立ち上がった。
「0級戦士たちに協力を要請すべきでは」
「パニッシャーか……」
「彼とデストロイヤー、そして予言者。彼らなら生き残れるかもしれない」
「だが、彼らが協力するかどうか……」
議論は深夜まで続いた。
窓の外では、普段より明るい星々が輝いていた。エネルギー結晶の影響で、宇宙そのものが発光しているかのようだった。
美しくも不吉な光景だった。
科学者の一人が呟いた。
「これが、終わりの始まりか」
銀河は、史上最大の危機に直面していた。




