第百六十一話「その後の日常」
結婚式騒動から三ヶ月後。
カーカラシカ帝国の休憩室で、マリアがテレビを見ていた。自由主義連盟系列のチャンネルをザッピングしていると、見慣れた顔が画面に現れた。
「これは……」
化粧品のCMだった。アスカが優雅な笑顔で、高級クリームを手に持っている。
『デストロイヤー夫人も愛用! 銀河最高峰の美容クリーム』
「ウケる」
マリアが珍しく笑った。いつもの無表情に、かすかな笑みが浮かんでいる。
サヤカが隣のソファでコーヒーを飲みながら、ぼんやりと呟いた。
「自由主義連盟の方に入っちゃったわねー」
完全に向こう側の人間になってしまった。かつての仲間は、今や敵対勢力の広告塔だ。
マリアが突然立ち上がり、テレビに向かってシャドーボクシングを始めた。
「アスカはもう敵」
パンチを繰り出しながら、真剣な顔でテレビのアスカと戦っている。
萌が呆れた様子で言った。
「まあ、本当にピタッと暴れなくなったみたいだし」
確かに、あの結婚式以降、デストロイヤーによる破壊行為は一切報告されていなかった。
「抑止力よ、抑止力」
萌は肩をすくめた。アスカの存在が、あの破壊者を大人しくさせているのは間違いない。
竹彦が訓練から戻ってきた。188センチの体は、さらに引き締まっている。
「何の話ですか?」
「アスカがCMに出てる」
サヤカが画面を指差した。
竹彦は少し複雑な表情を見せたが、すぐに明るい笑顔になった。
「まあ、暴れたら二人もろとも殺しますから!」
にっこりと笑いながら、物騒なことを言う。
マリアがシャドーボクシングを止めて振り返った。
「サイコパス野郎」
小声で呟く。
サヤカが深いため息をついた。
「まじで結婚しちゃうとは」
テレビでは、今度は結婚式の映像が流れていた。小規模だが、アスカとデストロイヤーが正式に結婚したというニュースだった。
「いやー……まじで人生何があるかわからんもんねー……」
しみじみとした口調で続ける。
「一年前は、アスカがデストロイヤーの奥さんになるなんて、誰が想像した?」
確かに、誰も予想できなかった展開だった。
ニーナが部屋に入ってきた。
「みんな、お茶でも……あら?」
テレビを見て、表情が複雑になる。
「アスカさん、幸せそうね」
画面の中のアスカは、確かに以前より表情が柔らかくなっているように見えた。
竹彦が母親に向き直った。
「お母さんは、僕の判断は正しかったんでしょうか?」
ニーナは息子の頭を優しく撫でた。竹彦の頭は今や母親より高い位置にあるため、背伸びをしなければならなかった。
「あなたは優しい選択をしたわ、きっとこれでよかったのよ」
マリアがテレビを消した。
「感傷的になっても意味ない。次の問題がある」
端末を操作し、銀河情勢のデータを表示する。
「自由主義連盟、加盟星系6,000突破。完全に銀河が二分された」
サヤカが眉をひそめた。
「まずいわね」
「でも、デストロイヤーは戦力外」
萌が指摘する。
「アスカがいる限り、暴れられない」
竹彦が窓の外を眺めた。
「それが、どれだけ続くか……」
静かに呟く。
マリアが冷静に分析した。
「統計的に、永遠に続く関係はない」
「身も蓋もない」
サヤカが苦笑した。
テレビは消えたが、CMの印象は残っていた。かつての仲間が、今は別の世界で生きている。
竹彦は思った。あの時の選択は、本当に正しかったのだろうか。
でも、後悔はしていない。アスカの必死な姿を見て、見逃すしかなかった。
それが、人間らしい選択だったと信じたい。




