第百五十九話「勝利の瞬間」
巨大なエネルギー球と黒い法力の激突は、想像を超える破壊をもたらした。しかし、デストロイヤーの怒りに任せた攻撃は、エネルギーの無駄遣いでしかなかった。
「はあ……はあ……」
デストロイヤーが荒い息をついている。対して竹彦は、冷静に次の一手を狙っていた。
「隙だらけだ!」
竹彦の拳が、デストロイヤーの脇腹に深く突き刺さった。
「ぐあっ!」
飛空挺の中で、マリアが興奮気味に叫んだ。
「勝つ! 勝てる! 竹彦が勝つ!」
普段の無表情はどこへやら、サヤカと抱き合いながらモニターを見つめている。
「私たちの研究の成果よ!」
サヤカも目を輝かせていた。新型アーティカルアームが、見事に機能している。
戦場では、形勢が完全に逆転していた。
竹彦の攻撃が次々と直撃し、デストロイヤーが後退を余儀なくされる。黒い炎を纏った蹴りが、デストロイヤーの肩を砕いた。
「ぐおおお!」
デストロイヤーはよろめきながら、信じられないという表情で竹彦を見つめた。
「こんなバカな! この俺が!」
血走った目で、必死に拳を振り上げる。
「こんなガキにぃ!」
しかし、その攻撃は単調で、竹彦には容易に読めた。
「だあっ!」
カウンターの肘打ちが、デストロイヤーの顎を跳ね上げた。続けざまに膝蹴りが腹部に突き刺さる。
「がはっ!」
デストロイヤーがふらつき、膝が震え始めた。もはや立っているのがやっとという状態だ。
竹彦は深呼吸をして、最後の一撃に全てを込めた。
「これで終わりだ!」
黒い炎を極限まで圧縮し、右拳に集中させる。そして、デストロイヤーの胸部に向かって渾身の一撃を放った。
拳が深々とめり込み、デストロイヤーの巨体が弓なりに曲がった。
「ごふっ!」
大量の血を吐き出し、デストロイヤーはついに膝をついた。その巨体がゆっくりと前のめりに倒れかける。
「勝った!」
マリアが飛び上がって喜んだ。サヤカと手を取り合い、まるで子供のようにはしゃいでいる。
「竹彦が勝った! デストロイヤーに勝った!」
しかし、飛空挺の片隅で、アスカの表情は複雑だった。
(確かに、最初は無理矢理やった……)
ウェディングドレスの裾を握りしめながら、倒れたデストロイヤーを見つめる。
(でも、あいつなりに真剣やったんも事実や……)
贈られた服、豪華な部屋、不器用ながらも優しい扱い。全てが演技ではなかったはずだ。
(どないしよ……)
竹彦が倒れたデストロイヤーに近づいた。その拳に再び黒い炎が宿る。
「今まで殺された人々の恨みだ!」
トドメを刺そうと拳を振り上げた、その瞬間。
「待て待て!」
アスカが思わず飛空挺から飛び降りた。
「アスカ?」
マリアが驚きの声を上げた。
アスカはウェディングドレスをひるがえしながら、竹彦とデストロイヤーの間に立った。
「ちょっと待てや!」
竹彦が困惑した表情で拳を止めた。
「アスカさん? どうして……」
「いや、その……」
アスカは言葉に詰まった。自分でも、なぜ飛び出したのか分からない。
デストロイヤーが血まみれの顔を上げた。霞む視界の中に、白いドレスの姿が映る。
「アス……カ……」
弱々しい声で名前を呼んだ。
アスカは振り返り、倒れたデストロイヤーを見た。
「ちょ、ちょっと、うちに任せとけ…」
竹彦は黒い炎を消し、困った顔でアスカを見つめた。
「こいつは多くの人を……」
「わ、分かってる」
アスカが竹彦を見上げた。
「でも、今は……ちょっと待って」
飛空挺から、マリアとサヤカも音声で話しかける。
「アスカ、何してるの?」
サヤカが心配そうに尋ねた。
アスカは深いため息をついた。
「自分でも分からへん。ただ……」
デストロイヤーを見下ろし、複雑な表情を浮かべた。
「このまま殺すのは、あ、あかんやろうが」
戦場に静寂が訪れた。銀河中継のカメラが、この奇妙な、そして感動的な光景を映し出している。
花嫁が、倒れた花婿を庇う。そして、花嫁を奪った男が困惑している。
視聴者たちも、この予想外の展開に息を呑んでいた。




