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第百四十二話「太陽系要塞化」



 地球改造計画開始から八ヶ月後。


 月面、新設された統合司令部。巨大なホログラムディスプレイに、太陽系全体の立体図が映し出されていた。青い光点が防衛システム、緑が採掘施設、黄色が居住区を示している。


「火星の第三採掘場、稼働開始しました」


 オペレーターの報告に、ラムザが頷いた。


「予定より二週間早いな。いいペースだ」


 隣でニーナがデータを確認している。


「木星の衛星基地も順調ね。エウロパの地下都市は来月には完成予定」


 八ヶ月前は夢物語だった計画が、現実になっていた。地球の外殻には三重の防衛網が構築され、月には巨大な軍事基地が建設された。火星では資源採掘が本格化し、木星の衛星群は前線基地として整備されつつある。


「アメリカ区画から報告です」


 通信士が振り返った。


「第七防衛網、稼働テスト成功。エネルギーシールド、出力共に正常」


「ヨーロッパ区画は?」


「同じく成功です。ただ、少し出力が不安定とのこと」


 ニーナが指示を出す。


「技術班を派遣して。早めに調整を」


 最初は反発していた欧米諸国も、今では必死だった。トロン星の偵察が日に日に大胆になっている。もう時間がないことを、誰もが理解していた。


            ◇


 日本、東京。


 坂の上高校の屋上で、キヨシが白兵兵装の訓練を指導していた。カーカラシカ製のパワードスーツは、法力を増幅させる優れものだ。


「もっと腰を落として! 法力は丹田から!」


 生徒たちが必死に動きを真似る。もう高校生も戦力として計算されている。


「キヨシ先輩!」


 後輩が駆け寄ってきた。


「竹彦先輩は? 今日も来ないんですか?」


「ああ……あいつは事務所にこもってる」


 キヨシは複雑な表情を浮かべた。銀河の英雄が、なぜか東京の片隅でぼんやりしている。理解できないが、無理強いもできない。


            ◇


 イタリア、アンナム本部。


 マリアとサヤカが、新型兵器の開発に没頭していた。


「この出力なら、トロン星の戦艦も撃墜できるはず」


 サヤカがシミュレーション結果を見せる。


「でも、エネルギー消費が」


「改良の余地あり」


 マリアが淡々と計算を始める。


「効率を15%上げれば実用レベル」


 アスカが部屋に入ってきた。


「おーい、メシやで」


「今忙しい」


 二人は画面から目を離さない。


「竹彦から連絡は?」


「ない」


 マリアの返事は素っ気ない。


 アスカはため息をついた。


「あいつ、いつまであそこにおるんやろな」


            ◇


 カーカラシカ国、バビロン。


 政府の会議室では、連日激論が交わされていた。


「もっと武装を強化すべきだ」


 イシュタル家のエンキドゥが主張する。


「いや、これ以上は経済が持たない」


 ナブ家の代表が反論する。


「トロン星の本格侵攻まで、あと四ヶ月」


 ベオルブ家のシャマシュが冷静に指摘した。


「準備は順調だが、実戦経験がない」


 全員が沈黙した。確かに、ハードウェアは揃いつつある。しかし、それを使う人間の練度は低い。


            ◇


 宇宙空間、地球─月間軌道。


 巡回中の護衛艦「雷神」の艦橋で、日本人クルーが緊張した顔で計器を見つめていた。


「艦長、また偵察機です」


「今度は三機か……」


 若い艦長が唇を噛んだ。トロン星の偵察は、日を追うごとに大胆になっている。


「警告射撃」


 レーザーが虚空を切り裂く。偵察機は今回も逃げていったが、その動きには余裕があった。まるで、防衛網の穴を探しているかのように。


            ◇


 東京、アマガワ事務所。


 竹彦は相変わらず、一人で座っていた。


 窓の外では、防衛網の建設が最終段階に入っている。空には軍事訓練の飛空艇が飛び交い、街には白兵兵装を着た兵士が巡回している。


 平和だった東京は、もう戦時下の様相を呈していた。


 電話が鳴った。


「はい」


『竹彦』


 ニーナの声だった。最近は一日三回は電話してくる。


『防衛システムの稼働式があるの。来て』


「そうですね……」


 竹彦は窓の外を見た。防衛システムはほぼ完成している。そして、彼の見立てでは、トロン星はもう手出しはほとんどできないだろう。


(人類が共通の敵に晒されて、急ピッチで団結しつつある)


 八ヶ月前はバラバラだった地球が、今は一つになろうとしている。すべての地球の歴史が、昔のもとになろうとしていた。


『お願い。あなたがいないと』


 ニーナの声には、切実さがあった。


「わかりました。行きます」


 竹彦は立ち上がった。


(それに……)


 頭に浮かぶのは、予言者が口にした「情報爆発」のことだった。そして、いずれ来るデストロイヤーとの戦い。


(カーカラシカ国に行って、あの強そうな装備を借りてきた方がいいかもしれない)


 アーティカルアームのことを思い出す。ラムザが使っていた、あの最強の個人兵装。


 電話の向こうで、ニーナの喜ぶ声が聞こえた。


 竹彦は事務所を見回した。記憶の中の松子さんは、相変わらず優しく微笑んでいる。竹彦は少し肩を落として重い足取りで、事務所を出ていった。


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