第百四十話「地球改造計画」
カーカラシカ国、バビロン大ホール。
世界中から集まった企業家、政治家、科学者たちが、巨大なホログラムディスプレイを見つめていた。壇上に立つのは、金髪のハリウッドスター風の男、モリー・イシュタル。アンナム・ブロードバンド社の代表として、これから地球の運命を左右する発表を行おうとしていた。
「皆様、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」
モリーの朗々とした声が響く。しかし、その内容は深刻だった。
「単刀直入に申し上げます。地球に残された時間は、一年です」
会場がざわめいた。
巨大なホログラムが起動し、銀河の三次元マップが浮かび上がった。地球の位置が赤く点滅している。
「銀河連盟に参加した以上、我々は一人前として扱われます。保護はありません」
モリーが手を振ると、ホログラムがトロン星系を映し出した。
「バンディットの本拠地、トロン星。彼らは今、議会で非難されています。しかし、それも長くは続かない。おそらく一年以内に、彼らは地球への侵攻を開始するでしょう」
日本の財閥代表が手を挙げた。
「つまり、防衛力を持てということですか?」
「その通りです」
モリーがスイッチを押すと、地球の立体映像が現れた。そして、その外殻に無数の構造物が追加されていく。
「地球改造計画。これが我々の提案です」
多重構造の防衛網、軌道エレベーター、宇宙港、工業プラント。地球が要塞都市へと変貌していく様子が、リアルタイムでシミュレーションされる。
「太陽系の採掘、地球の工業力強化、そして最低限の防衛能力。これらを一年で構築します」
アメリカの代表が立ち上がった。
「馬鹿げている! そんなことが可能なわけがない!」
「可能です」
モリーが別のホログラムを起動する。見たこともない建築機械が映し出された。
「銀河標準の建築プリセット機材。これ一台で、一日に東京ドーム規模の構造物を建設できます」
会場が静まり返った。
「アンナム・ブロードバンドは、カーカラシカ国の下請けとして、この計画を実行します。出し惜しみはしません。我々が握っていた全ての技術情報を、今ここで解放します」
データが次々と表示される。ワープドライブ、エネルギーシールド、レーザー兵器。地球の科学では百年先の技術が、惜しげもなく公開されていく。
しかし、ヨーロッパの代表が反発した。
「つまり、カーカラシカを地球の盟主として認めろということか!」
「はい、その通りです」
モリーはあっさりと認めた。
「これは選択です。参加するか、しないか」
新たなホログラムが、不参加地域のシミュレーションを映し出した。防衛網の穴となった地域に、赤い光が集中する。
「参加しなかった地域は、防衛網の弱点となります。敵はそこを集中的に攻撃するでしょう」
爆発、炎上、壊滅。リアルすぎる映像に、会場から悲鳴が上がった。
「その地域は侵入口となり、周辺も巻き込まれて壊滅します」
中東の代表が怒りを露わにした。
「脅迫か!」
「いいえ、事実です」
モリーは冷静に答えた。
「未開発の惑星は、連盟の保護下にあります。しかし、加盟した瞬間、その保護は失われる。自分の身は自分で守る。それが銀河の掟です」
日本のハブ家当主、キヨタカが立ち上がった。
「我々は参加します」
続いて、ホウジョウ家、トクガワ家、チョウソカベ家の代表も立ち上がる。
「日本のサムライは、この構想に全面的に協力します」
アジアの国々も、次々と参加を表明し始めた。
しかし、アメリカとヨーロッパの代表たちは、まだ渋い顔をしていた。
「一年で、本当に可能なのか?」
「ご覧ください」
モリーが最後のホログラムを起動した。カーカラシカが月面基地を建設した時の記録映像だった。
「三ヶ月で、これだけの施設を建設しました。地球全体なら、一年で十分です」
ニーナが壇上に上がってきた。
「皆様、私からもお願いします」
地球代表として、銀河で戦った女性。その存在感は圧倒的だった。
「私の息子、パニッシャーは言いました。『地球を守る』と。でも、彼一人では限界があります。地球全体が団結しなければ」
会場が静まり返った。
「トロン星の鳥たちは、今まで地球人を奴隷として売買してきました。力がなければ、また同じことが起きます」
アメリカの代表が、ようやく口を開いた。
「……検討の時間を」
「三日です」
モリーが即答した。
「それ以上待てば、計画に遅れが生じます」
重い空気が会場を包んだ。地球の運命を決める三日間が、始まろうとしていた。
竹彦は、会場の隅でその様子を見ていた。
(地球が、変わっていく)
良くも悪くも、もう後戻りはできない。銀河の一員として生きるか、滅びるか。選択の時が来ていた。




