第百三十九話「銀河の新秩序」
ベテルギウス星代表の執務室では、緊急会議が開かれていた。青い肌の代表が、ホログラムで映し出された同盟星の代表たちと話し合っている。
「ポルポテーンが死んだ今がチャンスだ」
代表が拳を握りしめた。
「メジャイ評議会は瓦解寸前。バンディットへの追及を一気に進めるべきだ」
シリウス第三惑星の代表が頷いた。
「同感です。トロン星への制裁も検討すべきでしょう」
「待て、それは慎重に行くべきだ」
別の代表が異議を唱える。
「地球が急速に力をつけている。彼らとの関係を考慮しなければ」
「パニッシャーか……」
全員が沈黙した。あの炎を纏った戦士の姿は、銀河中に配信されていた。0級を単独で倒した男。しかも今は完全に健康体だという。
*
一方、トロン星の議員控室では、鳥頭の議員たちが慌てふためいていた。
「どうする? メジャイとの繋がりがバレたら……」
「証拠を隠せ! 全部だ!」
羽をバタバタさせながら、データの削除に必死になっている。
「いや、もう遅い。調査委員会が動き出した」
若い議員が震え声で報告する。
「地球への賠償を考えた方がいいかもしれない」
「馬鹿を言うな! 我々が人身売買に関わった証拠はない!」
しかし、全員が不安そうに視線を交わしていた。
*
地球、東京。
日本政府の緊急対策室は、連日の会議で騒然としていた。
「宇宙人の存在が公式に確認されました」
外務省の役人が報告する。
「しかも、我が国の代表が銀河連盟で英雄扱いされているとは……」
「社会的影響は計り知れません」
内閣府の分析官が続ける。
「株価は乱高下、宗教団体は混乱、教育現場からは対応を求める声が……」
「とにかく、カーカラシカ国との協力を深めるしかない」
首相が決断を下した。
「彼らが実質的に我々を銀河に導いてくれた。今更、手を切ることはできない」
*
カーカラシカ国、月面基地。
ラムザが通信画面に向かって叫んでいた。
「姉さん、すぐに戻ってきてください!」
画面の向こうで、ニーナが不満そうな顔をしている。
「でも、メルとまだ……」
「地球の開発が急務なんです! 銀河中が注目してます!」
ラムザの隣で、イシュタル家のエンキドゥも頷く。
「ニーナ様なしでは、交渉が進みません」
「そうよ、ニーナ」
ナブ家の老婦人も口を添える。
「あと二、三年なんて、いくら何でも無理よ」
ニーナは大きくため息をついた。息子との時間を十六年分取り戻したかったのに。
「……わかりました」
渋々といった様子で頷く。
「でも、メルも一緒に連れて行きます」
「それは構いませんが……」
*
アンドロメダ、居住区画。
竹彦は通信を切ると、深く息を吐いた。
「地球に戻るのか」
正直、ほっとしていた。ニーナの過剰な愛情は嬉しいが、さすがに疲れる。毎日、幼児扱いされては堪らない。
「おう、聞いたで」
アスカが部屋に入ってきた。
「地球に戻るんやろ?」
「はい、急遽そういうことに」
「ちょうどええわ。うちも仕事が山積みや」
アスカは肩を回しながら言う。
「お前のおかげで、地球も銀河デビューや。これから忙しくなるで」
竹彦は窓の外を見た。アンドロメダの街並みが広がっている。ここに来てから、人生が劇的に変わった。新しい体、新しい家族、そして銀河での新しい立場。
「準備しないと」
立ち上がりかけた時、ドアが勢いよく開いた。
「メル!」
ニーナが飛び込んできた。
「地球に一緒に行きましょう! 向こうでもたくさん一緒に……」
「お母さん、落ち着いて」
竹彦は苦笑いを浮かべた。
「仕事もありますから、そんなにベッタリは……」
「何を言ってるの! 十六年分よ! 十六年!」
ニーナの勢いに、竹彦は押され気味だった。
アスカが笑いながら見ている。
「ええやん、親子やし、っちゅーか、竹彦お前は皇子ってことなんやろ? 向こうでなんかいろいろあるんちゃうか?」
「その通りです!」
渡りに船とばかりに、ニーナがアスカに乗っかる。いわれてみれば、自分の息子として色々とさせるべきことがある。
「わかりました、お母さん」
竹彦が観念したように言った。
「でも、銀河連盟の仕事の時は別ですよ?」
「もちろんよ!」
ニーナが嬉しそうに抱きついてきた。竹彦は、なんとなくその、母親の体の温かさをどこか遠いようなものとして感じていた。




