第百三十七話「銀河議会審問」
## 三週間後
竹彦は朝の光を浴びて目覚めた。
世界が、クリアだった。肺も腸も新しくなって、全身に酸素と栄養が行き渡る。朝の目覚めが異様にスッキリとして、まるで世界が新しく生まれ変わったような気分だった。
「体調はどうですか?」
医師が検査結果を持って入ってきた。
「最高です」
竹彦は素直に答えた。
「心臓の件ですが……」
医師がデータを見せる。
「幸い、損傷はほとんどありません。移植のリスクを考えると、まあ、しなくていいんじゃないかと」
「そうですか」
竹彦が安堵の息をついた時、ドアがノックされた。
「竹彦さん、議会からの召喚状です」
*
## 銀河議会議事堂
巨大なボウル状の議場に、約一万の議席が埋まっていた。中央の証言台に立つ竹彦を、無数の目が見つめている。
議長席には、青い肌のアンドロメダ星人が座っていた。
「議事番号7849、ポルポテーン殺害に関する審問を開始します」
木槌が打ち鳴らされた。
「被告人、七夕竹彦。まず事実関係を確認します。あなたはポルポテーンを殺害しましたか?」
竹彦は堂々と答えた。
「はい、殺害しました」
議場がざわめいた。
「理由を述べてください」
竹彦は深呼吸をして、説明を始めた。
「ポルポテーンは、人身売買と性的搾取を目的として、地球代表とその部下の女性たちを誘拐しました」
証言台の横のスクリーンに、医療施設の監視映像が映し出された。
「私は治療を受けている最中でしたが、現場に居合わせたため、人質の保護を目的として追跡しました」
「そして?」
「彼は抵抗し、人質の生命を脅かしたため、やむなく殺害に至りました」
トロン星の議員が立ち上がった。
「異議あり! それは過剰防衛だ!」
「却下します」
議長が即座に言った。
「証人を呼びます。地球代表、ニーナ・ボム」
ニーナが証言台に立った。
「私は確かに誘拐されました」
凛とした声が議場に響く。
「ポルポテーンは私に対して、極めて下劣な発言を繰り返し、実際に暴行を加えようとしました」
スクリーンに、メジャイ本部での映像が流れる。
「次の証人、アスカ」
アスカが前に出た。
「えー、その……」
緊張で関西弁が出そうになるのを必死に抑える。
「私は現場で戦闘に参加しました。ポルポテーンの部下たちが、数十人で襲いかかってき……きまして」
「きまして?」
「あ、いや、襲撃してきました! ほんまに……じゃなくて、本当に危険な状況でした」
マリアも証言台に立った。
「事実のみ述べます」
いつもの無表情で淡々と話す。
「ポルポテーンは法力抑制装置を使用し、地球代表を無力化。その上で『お嫁さんにしてやる』『子供を産ませる』等の発言をしました。録音データもあります」
録音が再生され、議場に嫌悪の空気が広がった。
医療施設の医師たちも次々と証言した。
「我々も脅迫されました」
「ポルポテーンは以前から、患者の個人情報を不正に入手しようとしていました」
「今回も、竹彦さんの医療情報を金で買おうとしてきました」
議長が咳払いをした。
「では、各星の代表から意見を聞きます」
ベテルギウス星の代表が立ち上がった。
「我が星は、ポルポテーンによる人身売買で、三千人の女性が被害に遭っています。竹彦氏の行動を全面的に支持します」
拍手が起こった。
しかし、トロン星の代表が反論した。
「だが、殺害は行き過ぎだ! 逮捕して裁判にかけるべきだった!」
「ふざけるな!」
小さな星の代表が叫んだ。
「お前らはポルポテーンと組んで、俺たちの星から女を攫ってたじゃないか!」
「証拠はあるのか!?」
「メジャイの記録を調べればすぐ分かる!」
議場が騒然となった。
「静粛に!」
議長が木槌を打つ。
「投票に移ります。竹彦の行為を正当防衛と認めるか否か」
電子投票が始まった。画面に数字が表示されていく。
賛成:6,847
反対:2,156
棄権:997
「賛成多数により、七夕竹彦の行為は正当防衛と認定されます」
歓声と怒号が入り混じった。
「さらに!」
議長が続けた。
「ポルポテーンの協力者に関する調査委員会を設置します」
トロン星やバンディットに関係する星の代表たちが、青ざめた。
「恥を知れ!」
被害を受けた星の代表たちが叫ぶ。
「協力者を全員吊し上げろ!」
「メジャイ評議会を解体しろ!」
竹彦は証言台から降りながら、ほっとしていた。
(これで、地球への脅威が一つ減った)
ニーナが近づいてきて、そっと手を握った。
「お疲れ様、メル」
「ありがとう……お母さん」
まだぎこちないが、少しずつ自然に「お母さん」と呼べるようになってきていた。
アスカが駆け寄ってきた。
「やったな! 完全勝利や!」
興奮のあまり、完全に素の関西弁に戻っている。
マリアも小さく頷いた。
「メジャイの脅威、排除完了」
議場の外に出ると、報道機関が殺到していた。
「パニッシャー! 一言お願いします!」
竹彦はカメラの前に立った。
「厳しい決断でしたが、皆さんの理解を得られてありがたく思います」
落ち着いた口調でコメントする。
その横で、アスカが胸を張っていた。
「ドヤ! うちの大将は偉いやろうが!」
報道陣に向かって叫ぶ。
「これが地球の正義や! 文句あるかい!」
マリアも自分のペースで宣伝していた。
「アンナム・ファミリーをよろしく」
無表情のまま、しかし確実にカメラに映るポジションを確保している。
ニーナは各星の議員たちと握手を交わしていた。
「正義の地球人、パニッシャーを応援してくださいね」
誇らしげに、息子の活躍を宣伝する母親の顔だった。
多くの星の代表たちが、竹彦に握手を求めてきた。
「ありがとう、パニッシャー」
「我々の娘たちを救ってくれた」
「これで安心して暮らせる」
新しい体と、新しい家族。
そして、銀河での新しい立場。




