第百三十四話「人質と演技」
「動くな!」
ポルポテーンがビームサーベルをニーナの喉元に突きつけた。青白い光の刃が、彼女の首筋すれすれで震えている。
「この女が死んでもいいのか?」
竹彦の動きが止まった。拳を握りしめたまま、歯を食いしばる。
「卑怯者……」
「卑怯? これは戦術だよ、パニッシャー君」
ポルポテーンが下卑た笑みを浮かべた。
「さあ、武器を捨てろ」
竹彦は舌打ちしながら、ビームサーベルを床に落とした。カラン、と金属音が響く。
「よろしい」
ポルポテーンが手にしていたもう一本のサーベルを振り上げた。
「では、少しお仕置きが必要だな」
刃が竹彦の肩を切り裂いた。
「ぐっ……」
竹彦が膝をつく。血が床に広がっていく。
「いやああああ!」
ニーナが悲鳴を上げた。息子が無抵抗で傷つけられる姿に、心が引き裂かれそうだった。
「メル! 私のことは見捨てて! 戦って!」
必死の叫び。しかし竹彦は動かなかった。
「だそうだ、どうするね? いやあしかし、君のことはどこか木の股から生まれたくらいに思っていたが、意外だったね」
ポルポテーンが興味深そうに呟きながら、もう一太刀。今度は竹彦の脇腹を斬りつけた。
「がはっ……」
血が噴き出す。しかし、不思議なことに傷は浅い。エネルギー値の高い戦士には、エネルギー武器は効きづらいのだろうか。とはいえ、重症には違いない。
「どうした? 反撃しないのか?」
嘲笑いながら、ポルポテーンは次々と竹彦を切りつけていく。腕、足、背中。あっという間に全身が傷だらけになった。
その時、屋上に飛空挺が着陸する音がした。
(来た……)
竹彦は内心で安堵した。マリアとアスカが、こっそりと階段から顔を覗かせているのが見える。
(時間を稼がないと)
竹彦は、わざと大げさに呻き声を上げた。
「うぅ……もう、やめてください……」
「ほう? 謝罪か?」
ポルポテーンが勝ち誇った笑みを浮かべる。
「そうだ! 土下座しろ! そうすれば、この女の命は助けてやろう」
竹彦はゆっくりと膝をついた。そして、額を床につけた。
「お願いします……ニーナさんを……解放してください……」
「ははは! 銀河最悪の男が土下座とは! これは傑作だ!」
ポルポテーンが高笑いする。完全に油断していた。
アスカとマリアが、音もなく近づいていく。
竹彦が顔を上げた。
「ところで、ポルポテーン様」
「なんだ?」
「あなたの息子たち、全員地獄に送ったんですが、寂しくないですか?」
「何だと!?」
ポルポテーンの顔が怒りで歪む。
「下で全員ぶち殺しました。血の海ですよ。見ます?」
「貴様ああああ!」
激怒したポルポテーンが、サーベルを振り上げた瞬間。
アスカが飛び出した。
「今や!」
素早くニーナを掴み上げて、ポルポテーンから引き離す。同時に、マリアが二挺拳銃を構えた。
「撃つ」
銃弾が、ポルポテーンの手にあったサーベルを弾き飛ばした。
「なっ!?」
その隙を、竹彦は見逃さなかった。
「だりゃああああ!」
渾身の拳が、ポルポテーンの顔面に叩き込まれた。粘土の顔が大きく変形し、そのまま壁まで吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」
壁にめり込んだポルポテーンが、苦痛の声を上げた。
「くそ! 騙すとは卑怯な!」
よろよろと立ち上がりながら、予備のサーベルを抜く。
「卑怯?」
竹彦が床に落ちていたサーベルを拾い上げた。
「人質を取った奴が言うセリフじゃないだろ」
青白い刃が唸りを上げる。竹彦の目に、殺意の炎が宿っていた。
「お前みたいなクズは、今日ここで終わりだ」
ポルポテーンも構えを取った。粘土の体を変形させて、腕を刃のように鋭くする。
「私は不死身だ! お前ごときに殺せるものか!」
そう言いながら、ポルポテーンは粘土の体を人型に戻した。ビームサーベルを正眼に構える。その姿勢は、三百年の戦闘経験が生み出した、隙のない達人の構えだった。
「いくぞ……」
竹彦も構えを取った。
「やっと本気か」
二人が同時に踏み込んだ。
一方、アスカに抱えられたニーナは、息子の傷だらけの姿に涙を流していた。
「メル……ごめんなさい……私のせいで……」
階段から、大勢の足音が響いてきた。
「増援か!」
メジャイの騎士たちが、次々と最上階に駆け上がってくる。
アスカが舌打ちした。
「ちっ、面倒なのが来たな」
素早くニーナの拘束を素手で引きちぎる。特殊合金の手錠が、アスカの怪力であっさりと破壊された。
「ニーナさん、連中と戦うんや!」
法力抑制の首輪も、力任せに引き剥がす。
「これで電撃使えるやろ!」
ニーナが頷いた瞬間、騎士たちが雪崩れ込んできた。
「竹彦、急いでくれ!」
アスカが叫びながら、銃を乱射する。マリアも二挺拳銃で応戦を始めた。
最上階に、緊張した静寂が広がった。
ポルポテーンは、ビームサーベルを優雅に旋回させた。青白い光の軌跡が、円を描く。三百年の戦闘経験が生み出す、美しくも恐ろしい剣舞。攻撃のタイミングを慎重に図りながら、じりじりと間合いを詰めていく。
竹彦は低く構えた。重心を落とし、いつでも跳躍できる体勢。全身の筋肉が、弦を張った弓のように緊張している。相手の動きを読もうと、一瞬たりとも目を離さない。
二人の間の空気が、ピリピリと張り詰めていく。




