第百三十三話「母を救え」
メジャイ評議会の飛空挺内で、ニーナは必死に抵抗していた。
「離せ! 下郎!」
粘土のような腕に捕まったまま、身をよじる。しかし、ポルポテーンはにやにやと笑いながら、その頬に顔を近づけてきた。
ベロリ。
粘着質な舌が、ニーナの頬を舐め上げた。
「ぶち殺す!」
ニーナの怒りが爆発した。法力が使えないもどかしさに、歯を食いしばる。
「エネルギー値20000!?」
ポルポテーンが計測器を見て興奮した。
「こりゃすごい子供が生まれそうだ!」
「腹を破ってでも、絶対に産まんからな!」
ニーナが吐き捨てるように言う。その気迫に、周りの騎士たちが怯んだ。
「ははは! 心配するな」
ポルポテーンは余裕の笑みを浮かべた。
「パニッシャーは、あと30分は起きない! 一人は産ませられるぞ」
「貴様……!」
ニーナは法力封じの首輪を、爪で引っ掻いて破壊しようとした。血が滲むほど強く掻きむしるが、特殊合金製の首輪はびくともしない。
突然、操縦席から叫び声が上がった。
「マスター! 後方から追跡してきます!」
「何だと?」
「異常にエネルギー値の高い反応が!」
騎士が震え声で報告する。
「2000と3000……そして……80000の反応が!」
「80000!?」
ポルポテーンの顔から、血の気が引いた。そんな数値、聞いたことがない。
慌ててモニターを確認する。そこには、飛空挺に乗った竹彦の姿があった。開け放たれたハッチから身を乗り出し、殺気を放っている。
「不可能だ! まだ起きるはずが……」
「撃ち落とせ!」
パニックになりながら命令する。
即座にミサイルが発射された。数発のミサイルが、竹彦たちの飛空挺へ向かっていく。
しかし、銃座からアスカの正確な射撃が放たれ、ミサイルは次々と空中で爆発した。
「くそっ!」
ポルポテーンは舌打ちした。
「メジャイ本部には、10000の息子たちがいる! そこに行けば勝てる!」
飛空挺がメジャイ本部上空に到着した。巨大な要塞のような建物が、眼下に広がっている。
「行くぞ!」
ポルポテーンはニーナを抱えたまま、飛空挺から飛び降りた。粘土の体を変形させて、衝撃を吸収しながら着地する。
一方、竹彦たちの飛空挺は、まだ少し離れた位置にいた。
「マリア!」
竹彦が叫んだ。
「ミサイルを本部に向かって撃って!」
「は?」
マリアが振り返る。竹彦は既にミサイル発射口の前に立っていた。
「僕がミサイルに捕まるから!」
「正気?」
「いいから!」
竹彦がミサイルの弾頭部分にしがみついた。新しい体は、このくらいの無茶に耐えられる。いや、耐えなければならない。
「撃て!」
マリアが発射ボタンを押した。
轟音と共に、ミサイルが発射された。竹彦はその弾頭にしがみついたまま、猛スピードで本部へ向かっていく。
風圧で顔が歪む。でも、手は離さない。
着弾直前、竹彦は跳躍した。ミサイルは本部の建物に激突し、大爆発を起こす。その衝撃波に乗って、竹彦は広場に着地した。
「来たか、化け物め!」
メジャイの騎士たちが、一斉にビームサーベルを抜いた。数百人はいるだろうか。全員がポルポテーンの息子や孫たちだ。
竹彦も腰のビームサーベルを抜いた。青白い光の刃が、唸りを上げる。
「死ねええええ!」
一人目の騎士が斬りかかってきた。竹彦は、その攻撃を紙一重で避けると、カウンターの蹴りを叩き込んだ。
「がはっ!」
騎士の胸部が陥没し、そのまま吹き飛んでいく。
「だりゃあああ! 全員ぶっ殺してやる!」
竹彦の怒りの咆哮が響いた。ビームサーベルを振るい、突進してくる騎士たちを次々と斬り伏せていく。
「お前らの親父に言っとけ! 地獄で待ってろってな!」
右から来た騎士の首を刎ね、左から来た騎士の胴を両断。血しぶきが噴水のように舞い上がる。
「化け物!」
「人間じゃない!」
騎士たちが恐怖の声を上げるが、竹彦は止まらない。
パンチ一発で頭蓋骨を砕き、蹴り一発で脊椎を折る。新しい体から溢れ出る力は、想像を絶するものだった。
「全員あの世行きにしてやる!」
怒りに任せて、騎士たちを殺戮していく。もはや戦闘ではない。一方的な虐殺だった。
「ひいいい!」
若い騎士が逃げ出そうとする。竹彦は跳躍して、その背中にビームサーベルを突き立てた。
「地球代表はどこだ!」
生き残った騎士の襟首を掴んで、問い詰める。
「本部の……最上階……」
「そうか」
竹彦は騎士を壁に叩きつけて、建物へ向かった。
正面玄関を蹴り破る。中にいた騎士たちが、慌てて武器を構えた。
「来るな! 来るなああ!」
恐怖に駆られた騎士が、めちゃくちゃに銃を乱射する。しかし、竹彦は弾丸の雨を避けながら、あるいは体で受け止めながら前進した。
「きくか!」
騎士の頭を掴む。そのまま握り潰した。
階段を駆け上がる。途中で出会う騎士は、全て殺した。容赦はない。慈悲もない。あるのは、母を取り戻すという意志だけ。
「ポルポテーン! 今日こそ殺してやる!」
最上階へ続く扉を蹴り破る。木片が飛び散り、壁が砕けた。
そこには、ニーナを抱えたポルポテーンと、残った騎士たちがいた。
「来たな、パニッシャー」
ポルポテーンが引きつった笑みを浮かべる。
「ニーナさんを離せ! クソ野郎!」
竹彦の声は、怒りで震えていた。
「メル!」
ニーナが叫んだ。息子の名を、初めて口にした。
竹彦の目が、一瞬だけ戸惑った。しかし、すぐにポルポテーンを睨みつける。
「今すぐ離せ! さもないとお前の息子も孫も、全員地獄送りだ!」




