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# 第四部 第百二十七話「銀河の五怪物」



 食事を終えて、空になった皿を眺めながら、竹彦がぽつりと呟いた。


「僕、0級の中では一番格下なんですよ」


 あまりにもあっさりとした告白に、ニーナが驚いて顔を上げた。息子が銀河最強の五人の一人だということは知っていたが、その中での序列など考えたこともなかった。

 アスカが渋い顔で首を捻る。


「せやろか? さっきのジジイより弱いとは思えへんけど」


 マリアがフォークを置いて、淡々と説明を始めた。


「他は、まず話が通じない」


「連盟としては、竹彦に困ったことを頼むことが多い。だから議長になった」


「議長って、そんな理由で?」


 ニーナが思わず聞き返すと、竹彦が苦笑いを浮かべた。


「消去法ですよ。他の連中は……まあ、聞いてもらえばわかります」


 彼は水を一口飲んでから、語り始めた。


「0級は僕と、あの粘土みたいなメジャイのマスター以外に、三人います」


 指を折りながら数える。


「まず一人目は、『預言者』と呼ばれる魔女です」


 竹彦の表情が、明らかに嫌そうになった。


「戦闘力は低いんですが、問題はそこじゃない。彼女が口にしたことは、何をどうしても必ず現実になるんです」


「必ず?」


 ニーナが聞き返すと、竹彦は重々しく頷いた。


「予言というよりは、言ったことが現実を書き換える能力だと思います。だから連盟は、彼女を人前に出さないし、何もさせないようにしている」


 マリアが付け加える。


「困ったことに、『情報爆発』という宇宙の危機を言ったのも彼女」


「情報爆発?」


「宇宙が何かエネルギーの奔流で壊滅的な被害を受ける、という予言です」


 竹彦が疲れた顔で続けた。


「連盟は、これを回避するために色々と画策してるんですが……彼女は一度予言したことを撤回しないんです」


「後で説明する、光る変なやつの出現を言ったのも彼女」


 マリアの無表情な顔に、珍しく呆れの色が浮かんだ。


「完全に藪蛇だった」


 アスカが身震いした。


「言ったことが現実になるって、恐ろしすぎやろ……」


「だから誰も近づきたがりません」


 竹彦は肩をすくめて、次の説明に移った。


「二人目は、『デストロイヤー』」


 その名前を口にした瞬間、彼の顔が露骨に嫌そうになった。


「僕よりもさらに始末に負えない怪力バカです」


「お前より?」


 アスカが目を丸くする。竹彦の戦闘力を知っている彼女にとって、それは想像を絶する話だった。


「正直、力の差はかなりあります」


 竹彦が苦い表情で認めた。


「僕を子供とすると、あいつは大人。そのくらいの開きがあるんです」


 ニーナの顔が青ざめた。息子でさえ子供扱いされる存在がいるなんて。


「宇宙空間も単独で移動できます。生身で」


「は?」


 全員が絶句した。


「気ままに暴れて、星を壊して、大変な騒ぎを起こして……基本的に叫んだりするだけで、話が通じない筋肉バカです」


 竹彦は頭を抱えるようなジェスチャーをした。


「前に一度、取っ組み合いになったんですが、一方的にボコボコにされました。悔しいですけど、全然歯が立たなかった」


 ニーナが心配そうに息子を見る。そんな化け物と戦っていたなんて。


「最後の一人は……」


 竹彦の表情が、困惑に変わった。


「人というか……何か、光ってる人形?」


「人形?」


「たまに『ピピピー』とか、そういう音を出すんです」


 全員が顔を見合わせた。意味がわからない。

 マリアが補足する。


「生き物じゃなくて、情報生命体だと言われてる」


「本当に意味不明なんですよ」


 竹彦が両手を広げて、お手上げのポーズを取った。


「何年も微動だにしない時もあれば、突然議会に現れて、誰も理解できない小難しい話をして、どこかに去っていく」


「この前は、素数について三時間演説してた」


 マリアの付け足しに、アスカが頭を抱えた。


「なんやそれ……銀河最強が、そんなんでええんか……」


 竹彦は苦笑いを浮かべた。


「でしょう? だから僕みたいな、多少は話が通じる奴が重宝されるんです」


 彼は椅子の背にもたれかかった。


「そういう連中と、多少はやり合える僕は、議会としてはありがたい存在らしくて」


「竹彦の助けを必要とする星が多い」


 マリアが淡々と言う。


「竹彦は『パニッシャー』と呼ばれてる」


「処罰者……」


 ニーナが呟く。その呼び名に、複雑な感情が湧き上がった。息子は、銀河の秩序を守るために、どれほどの重荷を背負ってきたのだろう。


「でも、僕は所詮五番目です」


 竹彦が自嘲的に笑う。


「予言者の言葉は止められないし、デストロイヤーには勝てないし、光る奴は理解不能だし、さっきのジジイは不死身みたいなもんだし」


「でも」


 ニーナが口を開いた。


「あなたが一番、人間らしいじゃないですか、みんなから頼りにされているという話も頷けます」


 竹彦が驚いたように顔を上げた。


「話が通じて、理性があって、正義感がある。それって、とても大切なことだと思います」


 アスカも頷いた。


「せやな。強さとかより、話が通じる方がよっぽど大事や」


 マリアも小さく頷く。


「だから議長になれた」


 竹彦は照れくさそうに頭を掻いた。


「そう言ってもらえると、ちょっと救われます」


 ニーナは息子の横顔を見つめながら思った。この子は、たった一人で、こんな化け物たちと渡り合いながら、地球の平和を守ってきた。誇らしさと、申し訳なさが入り混じった複雑な感情が、胸に広がっていく。


「ところで」


 アスカが首を傾げた。


「その光る奴って、今どこにおるん?」


 竹彦が肩をすくめた。


「さあ? 前に見た時は、どこかの星の公園で、ずっと鳩に餌をやってましたけど」


 全員が、また顔を見合わせた。

 銀河最強の一人が、鳩に餌やり。


「……銀河って、変なところやな」


 アスカの呟きに、全員が深く頷いた。

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