第百二十四話「銀河議会」
銀河連盟議会場。
巨大なボウルを逆さにしたような構造の建物に入ると、その壮大さに圧倒された。何千という議席が、壁面に沿って螺旋状に配置されている。それぞれの席は浮遊する円盤になっており、種族ごとに形や大きさが異なっていた。
「これが……」
ニーナが息を呑んだ。
「銀河議会か」
地球に割り当てられた円盤は、比較的新しく、まだピカピカに輝いていた。四人が乗り込むと、円盤がふわりと浮き上がり、指定された位置へと移動した。
「地球の議席に初めて座った!」
マリアが珍しく興奮していた。いつもの無表情が少し崩れ、目が輝いている。
「地球初! 歴史的瞬間!」
「うちも何気にこれ、歴史的な感じなんちゃうか?」
アスカが周りを見回しながら呟いた。
「なんか、こんな普段着で来て申し訳ないな」
確かに、他の種族の代表者たちは、それぞれの正装らしき衣装を身に纏っていた。鱗が虹色に光る魚人、触手に宝石を巻きつけたタコ型生命体、金属の装甲で身を固めた機械種族。
ニーナは興味深そうに辺りを見渡していた。
「ほー、結構広い空間だな」
様々な見た目の生き物が席に座ってワイワイと議論している。まるで、宇宙規模の学級会のようだった。
竹彦が議題を確認した。
「今日の議題は……第三惑星、食用コオロギの毒性、薬用抽出の規制……」
「どういうこと?」
アスカが首を傾げた。
「クソどうでもいい」
マリアが即答した。
その時、議場の中央で激しい口論が始まった。カエルのような緑色の生命体と、例のトロン星の鳥頭たちが、身振り手振りを交えて言い争っている。
「我々の星では、コオロギは主食なのだ!」
カエル型生命体が大きな口を開けて叫んだ。
「輸入制限など認められない!」
「だが、最近の研究で毒性が確認されただろう!」
鳥頭の代表が羽をバタバタさせながら反論した。
「我々の雛への影響を考えろ!」
「それは君たちの体質の問題だ!」
「なんだと!」
マリアが解説した。
「主食の輸入の覇権争い」
「我々で言うところの、小麦の輸入のような話か」
ニーナが理解を示した。
激論は続いた。コオロギを生産している惑星の代表者たちも、必死に資料を調べ、データを提示している。ホログラムでグラフが次々と表示され、数値が飛び交う。
「銀河規模になると、打ち出の小槌でも需要を満たすのに間に合わない」
マリアが説明した。
「彼らにとって死活問題ではある」
竹彦が懐かしそうに呟いた。
「最近地球で暮らしてたから忘れてたけど、こんな感じだったな」
彼は退屈そうに頬杖をついた。
「規模デカすぎて、大抵意味不明なんだよな」
次の議題は「恒星間航路での光害対策」だった。
ある星系の代表が立ち上がった。三つの目を持つ細長い生物だ。
「我が星系を通過する船舶の光が、我々の睡眠サイクルを乱している!」
「だが、それは主要航路だ」
別の代表が反論した。
「迂回すれば燃料が30%増加する」
「我々の健康より燃料の方が大事だというのか!」
また激論が始まった。
アスカが欠伸をした。
「これ、いつまで続くん?」
「議題が127個ある」
竹彦が端末を見ながら答えた。
「今3個目」
「マジか……」
アスカは頭を抱えた。
ニーナは息子の隣に座れることに幸せを感じながら、退屈な議論を聞いていた。時々、竹彦が小声で解説してくれる。その距離の近さに、胸が高鳴った。
(これも母子の時間……きっと、普通の親子なら、学校の行事とかで一緒に退屈することもあったのかな)
そんなことを考えながら、ニーナは幸せな退屈を噛みしめていた。
次の議題は「人工知能の結婚権について」だった。
機械種族の代表が主張した。
「愛に有機物も無機物もない!」
「だが、法的な問題が……」
別の代表が慎重に反論する。
マリアが呟いた。
「次は『宇宙ゴミの芸術的価値』について……」
全員が同時にため息をついた。
長い、長い一日になりそうだった。




