第百二十三話「検査と準備」
銀河連盟の医療施設。
マリアが手配した最新鋭の設備が整った建物は、まるで未来の病院のようだった。壁は透明な素材でできており、機械が静かに稼働している。
「ここなら安心」
マリアが無表情で言った。
「アンナムの息がかかった医師団」
青い肌の医師が前に出てきた。四つの腕を器用に使いながら、機器を操作している。
「0級の体を調べられるなんて、こりゃ貴重な体験だ」
医師が興奮気味に言った。
マリアは眉をひそめた。
(どうも信用ならない……)
研究対象として見ているような言い方が気になった。だが、竹彦は特に気にしていない様子で、素直に検査台に横たわった。
「じゃあ、始めますよ」
様々な機器が竹彦の体をスキャンしていく。青い光が体を包み、データが次々と画面に表示される。
「ニーナ様も参考データとして検査を」
別の医師が案内した。
「カーカラシカ人の標準的なデータが必要でして」
ニーナは頷いて、別室へ向かった。本当の目的は母体組織の提供だが、竹彦には内緒だ。
別室で、ニーナは腕から組織を採取された。小さな痛みも、息子のためなら何でもない。
(私の体が、メルの役に立つ)
安堵と喜びが胸に広がった。十六年間、何もしてやれなかった。でも今、ようやく母親として何かができる。
医師が採取した組織を慎重に保管していく。
「これで培養準備を開始できます」
小声で告げられた。ニーナは深く頷いた。
検査室に戻ると、医師たちが竹彦のデータを見て首を捻っていた。
「なんで、これでちゃんと生きてるのかなあ」
四つ腕の医師が呟いた。
「遺伝子の損傷は思った以上に深刻だ。普通なら数ヶ月もしたら腫瘍まみれの肉団子になってそうなもんだけど」
竹彦が不安そうな顔をした。
「そんなに悪いんですか?」
「悪いというか……奇跡的というか……」
医師は頭を掻いた。いや、四つの手で同時に頭を掻いた。
「とにかく、治療は急いだ方がいい」
マリアが説明を始めた。
「培養には2週間かかる」
「2週間も滞在するんですか?」
竹彦が驚いた。
「2週間で肝臓が作られる」
マリアは指を折りながら続けた。
「それを入れ替えて、回復ポットに入れて治す。これを繰り返す」
「繰り返す?」
「腎臓、腸、順番に入れ替える」
竹彦は青い顔をした。
「そんなに……」
キヨシが軽く言った。
「アンドロメダの観光でもしながら、あそこでダラダラしてればいいんじゃないか?」
彼は伸びをした。
「俺はもう戻る。学校もあるし」
「ウチは残るで」
アスカが言った。
「誰かついてないと心配や」
京介も頷いた。
「僕は一旦戻る。マリアの仕事の整理もある」
ラムザも同意した。
「私も地球に戻って、報告しないと」
結局、残るのはニーナ、マリア、アスカ、そして竹彦となった。
「私もこの際だから、本部で色々勉強してから戻る」
マリアが端末を見ながら言った。
ニーナは竹彦に向き直った。
「あの……もしよければ、議会がどんな様子か案内してもらえませんか?」
彼女は緊張しながら続けた。
「元議長なら、誰よりも詳しいでしょうから」
竹彦は少し考えてから頷いた。
「まあ、いいですよ。議会が始まるまで、のんびりしましょう」
その言葉を聞いた瞬間、ニーナの心の中で小躍りしたい衝動が湧き上がった。
(2週間! メルと2週間も一緒にいられる!)
表面上は冷静を装いながら、内心では喜びが爆発していた。
「地球の代表をしっかりエスコートしてこい」
アスカが竹彦の背中を叩いた。
「任せてください」
竹彦は真面目な顔で答えた。
帰る者たちが船に乗り込んでいく。キヨシが手を振った。
「じゃあ、また2週間後!」
「元気でな」
京介も優しく言った。
「無理するなよ」
船が離陸していく。
残された四人は、医療施設の前に立っていた。
「さて」
竹彦が振り返った。
「観光でもしますか」
ニーナは嬉しそうに頷いた。息子との時間が、今始まろうとしていた。




