第百二十二話「拒絶」
マリアが端末を見つめながら、静かに言った。
「竹彦が本当に連盟星の代表の身内だとすると、議会のバランスもかなり混乱する」
彼女は顔を上げた。
「どうなるか自分でも予想がつかない」
「どういうことだ?」
ラムザが尋ねた。
「竹彦は昔、短期間、議長をしたことがある」
マリアの言葉に、全員が驚いた。
「議長!?」
キヨシが目を丸くした。
「戦士連盟がかなり発言力がある時期があって」
マリアは淡々と説明した。
「その時、比較的まともな0級の竹彦が議長になった。他の0級は、興味がないか、話が通じないか、狂っている」
アスカが頷いた。
「確かに、他の0級はヤバい奴ばっかりやからな」
「加盟星の代表が母親だと」
マリアは続けた。
「いくら杜撰な銀河連盟でも、色々と思惑が生じる」
彼女は全員を見回した。
「この話は他の星の連中にはあまりしないように」
扉が開き、竹彦が戻ってきた。
「船、借りられました」
彼は疲れたように言った。
「けど、チャーター代はかなり高いですよ。二日借りて、二千万円くらいになります」
ニーナは即座に答えた。
「構わない。すぐに手配する」
二千万など、彼女にとっては端金だった。息子と一緒にいられるなら、いくらでも払う。
「ところで」
ラムザが慎重に切り出した。
「竹彦君、君の体のことなんだが」
竹彦の表情が一瞬で変わった。警戒心が瞳に宿る。
「治療を受けてみないか?」
「必要ありません」
竹彦は即答した。
「僕は元気です」
「でも、健康診断の結果は……」
京介が言いかけたが、竹彦は首を振った。
「臓器培養には母体の組織が必要です」
彼の声は諦めに満ちていた。
「母親がいないから、どうせ無理なんです」
ニーナの心が引き裂かれた。
(ここにいる……私がここにいるのよ、メル!)
心の中で叫んだが、声には出せない。ただ俯いて、震える手を握りしめた。
「それに、移植手術なんて」
竹彦は拳を握りしめた。
「誰かの体のものを奪うことになる。そんなことはしたくない」
「落ち着け、竹彦」
アスカが竹彦の肩に手を置いた。
「誰もお前を騙そうとしてへん」
京介も優しく言った。
「みんな、君のことを心配してるんだ」
マリアが口を開いた。
「最近、新しい技術ができた」
彼女の声は、いつもの無表情な調子だった。
「母体組織なしでも可能な培養法」
それは嘘だった。だが、マリアの表情からは何も読み取れない。
「人工的にゼロから臓器を作る。誰からも奪わない」
竹彦が顔を上げた。
「本当に?」
「嘘はつかない」
マリアは断言した。技術的には嘘ではない。母体組織を使うことを隠しているだけだ。
「まず、簡単な検査から始める」
彼女は続けた。
「血液検査と、体組織の一部を調べるだけ。寝る必要もない」
竹彦は迷っていた。
ニーナが震える声で言った。
「お願い……」
言いかけて、慌てて言い直した。
「お願いします。あなたには、恩があります。せめて、恩返しをさせてください」
竹彦は困ったような顔をした。
「でも……」
「頼む」
ラムザも頭を下げた。
「我々のせいで、君の体が悪くなったのかもしれない。責任を取らせてくれ」
長い沈黙が流れた。
竹彦はため息をついた。
「……検査だけなら」
小さく呟いた。そして、少し考えてから続けた。
「事務所の皆さんがそこまで心配してるなら、僕もやります」
竹彦は肩をすくめた。
「おかしいと思ったら、すぐに終わりにしますけど」
その言葉に、ニーナの目から涙がこぼれそうになった。
息子が、自分を恐れている。当然だ。あんなことをしたのだから。
「大丈夫」
マリアが言った。
「私が全て管理する。カーカラシカの医師は使わない」
竹彦は少し安心したような顔を見せた。
「アンナムのお医者にはよく世話になってますからね」
小さな一歩だった。でも、ニーナにとっては大きな希望だった。




