第百二十一話「母の告白」
一通り観光地を巡った後、居住の部屋に戻ってきた一行は、それぞれソファに腰を下ろした。
「議会は定期的にある」
マリアが説明を始めた。
「けど、今やれることはないと思う」
アスカがソファに寝転がりながら肩をすくめた。
「何が何だかわからんやろうしな。ウチもよー知らん」
マリアが端末を操作しながら続けた。
「アンナムから、なんとかツテのありそうな加盟星のリストを渡すから、そこから交流して」
彼女は画面を見つめた。
「銀河のパワーバランスを学んでいって」
「帰りはどうするんだ?」
ラムザが尋ねた。
「普通に定期便で帰れば、安全に二日くらいで戻れる」
マリアは顔を上げた。
「まあ、ここに誰か置いて行ってもいいけど」
技官たちが手を挙げた。
「自分たちが残ります。記録を続けないと」
竹彦が立ち上がった。
「僕は、戦士連盟に用があるんですよね……ちょっと話をしてから戻ろうかな」
その言葉を聞いた瞬間、ニーナの心臓が跳ね上がった。
(メルが行ってしまう……)
「私も残る」
ニーナは即座に言った。理由など考えていない。ただ、息子と離れたくなかった。
ラムザも頷いた。
「姉上が残るなら、私も」
「なんや、みんな残るんかい」
アスカが呆れたように言いながら、クッションを抱きしめた。
マリアが提案した。
「カーカラシカには金はあるから、プライベートの船で戻った方がいい。こちらで換金する」
彼女は竹彦を見た。
「竹彦、戦士連盟の船をついでに借りてきて」
「了解」
竹彦は軽く手を振って、部屋を出て行った。
扉が閉まると、ニーナは技官のカメラに向かった。
「では、これで通信を終わる」
技官は頷いて、カメラの電源を切った。地球への中継が終了する。
ニーナは扉を見つめながら言った。
「本当に助かった」
そして、振り返った。
「彼の体を治療しないといけない。いい方法はないか」
「なんのこと?」
マリアが首を傾げた。
京介とアスカが顔を見合わせた。
「竹彦の体が、見た目に反してかなり悪いんだ」
京介が説明した。
「片肺欠損、内臓機能不全……」
アスカが資料を取り出した。
「これ、健康診断の結果や」
マリアは資料を受け取ると、目を見開いた。
「遺伝子情報がここまで損傷しているのに、なぜ元気なのかわからない」
彼女は頭を抱えた。
「治療は可能だが、彼の親族の情報が必要だと思う」
キヨシが言った。
「けど、親はいないんだろ? 孤児だって聞いたぞ」
静寂が流れた。
ニーナは震える手でグラスを握った。そして、深呼吸をした。
「親は……」
言葉が詰まった。でも、言わなければならない。
「自分だ」
キヨシが飲んでいた水を吹き出した。
「はぁ!?」
奇妙な顔で、ニーナと竹彦が出て行った扉を交互に見た。
「え、ちょっと待って……どういうこと?」
マリアは興味深そうに顎に手を当てた。
「面白い話」
そして、いつもの無表情で続けた。
「息子を一週間トイレにも行かせずに縛り上げて、なますぎりにする母親は銀河でも珍しい」
ゴン!
京介の拳がマリアの頭に落ちた。
「痛い」
マリアが頭を押さえた。
「バカちんが!」
アスカも怒った。
「デリカシーってもんがないんか!」
「え? なに?」
キヨシはまだ混乱していた。
「まじな感じの話してます? 竹彦がニーナ様の……息子?」
ニーナは俯いたまま言った。
「十六年前、塩化爆弾で死んだと思っていた。でも、生きていた」
彼女は顔を上げた。赤い瞳に涙が滲んでいる。
「どうすればいい? 治療の方法は?」
マリアは少し考えてから、真面目な顔になった。
「かなりお高い」
彼女は指を折りながら説明した。
「培養した臓器移植で、代えられるだけ変えてからの方がいい」
「高品質の蘇生用ポットで一気に体を蘇生させるのは、かなり非効率」
マリアは続けた。
「培養の装置は、そこそこの値段で買えるから、そこから始めた方がいい」
「母体の組織があれば、比較的移植用の臓器の培養も楽」
ニーナは即座に腕を差し出した。
「私の組織を使って」
「ちょっと待て」
ラムザが止めた。
「メル……いや、竹彦はまだ知らないんだろう?」
ニーナは震えながら頷いた。
「言えない……あんなことをした後で、今更母親だなんて……」
「エネルギー値の低い人間なら、丸ごとクローンで作った方が早いけど」
マリアが付け加えた。
「竹彦はエネルギー値が高いので、うまくいかない」
キヨシはまだ頭を抱えていた。
「ちょっと待って……整理させて……」
彼は深呼吸をした。
「竹彦が、ニーナ様の息子で、十六年前に死んだと思ってて、でも生きてて、それを知らずにあんなことになって……」
「そう」
アスカが頷いた。
「めちゃくちゃな話やけど、事実や」
ニーナは立ち上がった。
「治療の準備を始める。費用はいくらでも出す」
彼女の声は決意に満ちていた。
「息子を、健康にしてやりたい」
母の愛が、十六年の時を超えて溢れ出していた。




