第百二十話「鳥頭との遭遇」
控えの住所に案内された一行は、その豪華さに息を呑んだ。
「うわー……」
キヨシがソファーに触れた。指が沈み込むほどふわふわしている。
「これ、雲みたいだ」
恐る恐る座ってみると、体全体が包み込まれるような感触だった。
ニーナも珍しく子供のような反応を見せていた。回転椅子に座ると、くるくると回して遊び始めた。金髪が広がって、一瞬、少女のような表情を見せた。
「最下層ランクの部屋でこれか」
ラムザが壁の装飾を眺めながら呟いた。
「上のランクはどうなってるんだ……」
技官たちはカメラを回しながら、地球への中継を続けていた。歴史的瞬間の全てを記録するために。
一通り部屋を堪能した後、観光に出かけることにした。
巨大なロビーを歩いていると、奇妙な一団と遭遇した。
鳥のような頭部に、人間に近い体。羽毛に覆われた腕と、鋭い爪を持つ足。彼らは高級そうな衣装を身に纏い、傲慢な態度で歩いていた。
「おや、新入りか」
鳥頭の一人が、甲高い声で言った。
「地球の猿どもか」
その言葉に、アスカの顔が一瞬で変わった。
「なんやて?」
マリアが前に出た。無表情だが、声は氷のように冷たかった。
「脳容量の少ないバカ鳥」
鳥頭たちの羽が逆立った。
「なんだと!」
「インチキでオープンソースを盗み見たり、技術支援を受けて加盟国入りしたバカども」
マリアは淡々と事実を列挙した。
アスカも負けていなかった。
「骨スカスカの、ウンコ漏らしやすいバカは、鳴き声ばかり大きくてやかましいわ」
「貴様ら!」
鳥頭のリーダーが前に出た。
「我々はトロン星の正式代表だ! 地球人ごときが……」
竹彦が一歩前に出た。
「地球は正式な加盟国入りをした」
赤い瞳が、炎のように燃えていた。
「一年もしたら、お前らの星に乗り込んで、今までの借りを返してやれるな」
普段は礼儀正しい竹彦が、珍しく好戦的だった。
マリアが説明を始めた。
「トロン星人。宇宙海賊バンディットの主要メンバーを輩出している種族」
彼女は指を折りながら続けた。
「今まで加盟国でなかった地球で、好き勝手してきた連中」
トロン星人のリーダーが、計測器を取り出した。ニーナとラムザのエネルギー値を確認すると、少し顔色が変わった。
「ふん、地球人は数が少ない。戦える奴も少ないだろう」
だが、強がりは明らかだった。
「そのうち捕まえて、処刑してやるぞ」
トロン星人のリーダーが竹彦を指差して脅した。
その瞬間、ニーナが前に出た。
「ほう」
バチバチと青い電撃が彼女の周りで踊り始めた。息子を脅す者への怒りを露わにしている。
「今捕まえた方が早い」
マリアが提案した。
「ここなら治外法権エリア。決闘すればいい」
トロン星人たちは慌てて後ずさりした。
「き、貴様は……SS級指名手配犯の……」
ようやく竹彦の正体に気づいたようだった。
「お前は俺たちの星系で悪逆非道の限りを尽くした!」
リーダーが震え声で叫んだ。
「発掘用の星を襲撃したり、船を沈めたり、重要な政治家をさらったり、殺したり!」
アスカが嘲笑った。
「無許可で地球人をさらって鉱山送り、奴隷船に乗せる」
彼女は銃の柄に手をかけた。
「それを許可したお前らのバカの鳥頭政治家をぶっ殺しただけや。なんか悪いことでもしたか?」
トロン星人たちは言葉を失った。
「これからはウチらも加盟国」
アスカはニヤリと笑った。
「もういいようにされへんぞ。覚悟しいや」
竹彦の額に青筋が浮かんだ。
「今までは加盟星の傘で手が出せなかったが、今日からは遠慮なく殴れそうだな」
その殺気に、トロン星人たちは完全に怯えた。
ニーナは息子の「活躍」を聞きながら、心の中で決意していた。
(この鳥どもは、銀河進出の際に全員奴隷にしてやる)
母親として、息子を苦しめた者たちへの怒りは頂点に達していた。でも、同時に誇らしくもあった。息子は地球人を守るために戦ってきたのだ。
マリアが不気味な笑みを浮かべた。
「次会う時は、美味しいパリパリ焼き鳥にしてあげる」
アスカもニヤリと笑った。
「前からうまそうな連中やと思てたわ」
トロン星人たちの羽が逆立った。
「な、何を言ってるんだ?」
震え声で尋ねる彼らに、竹彦が淡々と説明した。
「地球で一番飼育されて食材になっている生き物は、鶏という鳥系の生き物なんだ」
彼は指を折りながら続けた。
「焼き鳥、唐揚げ、親子丼……調理法は数百種類ある」
トロン星人たちの顔が真っ青になった。いや、元々青い羽毛だが、さらに青ざめた。
「なんて野蛮な連中だ!」
慌てて後ずさりし、逃げるように立ち去った。
技官の一人が心配そうに尋ねた。
「あんなに挑発して大丈夫ですか?」
竹彦は肩をすくめた。
「基本全員ヤクザです」
マリアが補足した。
「礼儀正しい加盟星はほとんどない。このくらいしないとすぐに調子に乗る」
ニーナは息子たちの姿を見つめていた。
(メルが……こんなにも頼もしい仲間に囲まれている)
誇らしさと安心感が胸に広がった。




