第百十九話「正式加盟」
銀河連盟本部の中央広場。
その広大さに、一同は息を呑んだ。東京ドームが何個入るのか見当もつかない。そして、そこを行き交う生命体の多様性たるや。
チワワほどの大きさの毛むくじゃらの生物が、小さなスーツを着てカツカツと歩いている。その横を、4メートルはあろうかという巨人が、地響きを立てながら通り過ぎる。
「うわあ……」
キヨシが呆然と呟いた。
一見すると樹木のような生物が、根を足のように使って移動している。ナメクジのような粘液質の体を持つ者が、透明なスーツに身を包んで滑るように進んでいく。
そして、その全員が自信満々に、堂々と歩いている。ここでは誰もが平等な存在なのだ。
「ここでは青い肌の人たちが主流みたいですね」
竹彦が説明した。
「アンドロメダ星の人たちです。本部の主要種族ですよ」
巨大な建物の入り口に到着すると、今度こそ本物の担当官が出迎えた。青い肌に、きちんとしたスーツ。胸には正式な身分証が光っている。
「到達おめでとうございます!」
担当官が満面の笑みでニーナと握手した。
「空港で何かトラブルがあったと聞きましたが……」
竹彦がすごい形相で睨みつけた。赤い瞳が、まるで炎のように燃えている。
担当官は慌てて手を振った。
「い、いや勘弁してくださいよ……オープンチャンネルに割り込まれたら、どうしようもないですよ!」
汗が青い額を流れ落ちた。
「忠告くらいして」
マリアが冷たく言った。
竹彦は一歩前に出た。声が低く、脅迫的になった。
「次、似たようなことをしたら、娘さんの卒業式は見れませんよ」
担当官の顔が真っ青になった。いや、元々青いが、さらに青ざめた。
「は、はい! 肝に銘じます!」
慌てて話題を変えた。
「えーっと、代表者は? 主星にいますか?」
「私が代表だが」
ニーナが前に出た。威厳のある声だった。
担当官の目が丸くなった。
「代表者さんが最初に? いやー、気合い入ってますね!」
彼は端末を取り出した。
「登録しますから、この板に手を乗せて! お名前をどうぞ」
ニーナが透明な板に手を置いた。
「ニーナ・ボム・カーカラシカ」
ピッという電子音と共に、登録が進む。空中にニーナのホログラムが浮かび上がった。立体的な姿が、ゆっくりと回転する。
「エネルギー値が凄まじいですね!」
担当官が感嘆の声を上げた。
「あ、そうだ! 一応船の航行記録を調べます。まあ、もうモニタしてたんで、意味はないんですけどね! ははは!」
乾いた笑い声が響いた。
「船はどこに?」
マリアが呆れたように息を吐いた。
「まじでバカ」
彼女は担当官を指差した。
「到着した時にそっちで保護して」
「保護?」
「竹彦が戦士連盟の倉庫に運んだ。それを調べて」
担当官は慌てて端末を操作した。
竹彦が冷たい声で言った。
「ふざけてます? 次の議会で新加盟星の安全について提出します」
「えぇ……いや勘弁……」
担当官は深々と頭を下げた。
「すいません! 提案をお待ちしております……」
完全に項垂れている。SS級指名手配犯に睨まれて、生きた心地がしないのだろう。
気を取り直して、担当官は笑顔を作った。
「これ! パンフレット! 観光案内と、ドリンクサービス券!」
次々と物を差し出してくる。
「オープンソースの端末をお渡しします!」
ピピピという音が鳴った。
「あ、審査が終わりました! 船の調査が終わりました!」
担当官の顔が明るくなった。
「これで正式な加盟星です! 新しい仲間を歓迎します!」
拍手をしながら続けた。
「サービスに関して、主星に案内を郵送します! 通信セット、後、加盟星に打ち込むオベリスク! どこに打ち込むか教えてください!」
「バビロンで」
ニーナが即答した。
「ちょっ!?」
竹彦が慌てた。オベリスクは巨大なモニュメントだ。ミサイルのように打ち込まれる。
しばらくすると、技官の一人が青い顔で駆け寄ってきた。
「何か……バビロンの大広場に……ミサイルが……」
震え声で続けた。
「落ちてきたとか……爆発はしなかったようですが……」
「危なかった……」
マリアが額を拭った。もし人がいたら大惨事だった。
「誰か死んどらんか?」
アスカが心配そうに尋ねた。
担当官は明るく笑った。
「ははは! まさか! 最近は気を遣ってますからね! 昔じゃないですから!」
(昔は死人が出てたのか……)
全員が同じことを考えた。
「議会席は、この番号です!」
担当官は薄いパネルを差し出した。
「控えの住所はここに記載しておきました! いつでも出入りできますよ!」
ニーナはパネルを受け取り、不思議そうに眺めた。透明な板に、文字が浮かび上がっている。地球の技術では考えられない代物だ。
彼女はカメラに向けて、パネルを見せた。地球の人々に、この歴史的瞬間を共有するように。
「じゃあ、そこに行きましょう!」
竹彦が言うと、全員でゾロゾロと移動を始めた。
担当官は感慨深げに呟いた。
「いやー、いつ見ても、新しい加盟星の人が初々しい反応をするのはいいもんだなあ」
一行が去っていく姿を見送りながら、満足そうに頷いていた。




