第百十八話「戦士連盟の護送」
マリアが空港の通信機を手に取った。
「清掃を頼む」
簡潔な一言で済ませた。
数分後、ずんぐりとした体型の緑色の宇宙人が、清掃用の制服を着てやってきた。四つの腕を器用に使い、死体を次々と清掃車に放り込んでいく。
「ちょっと待て!」
ラムザが叫んだ。
「死体をそんな風に……」
清掃員は振り返りもせず、洗剤を撒き始めた。青い液体が血溜まりに染み込んでいく。そして、ブラシのついた機械を取り出すと、ウィーンという機械音と共に床を磨き始めた。
まるで、こぼれたジュースを掃除するような手際の良さ。人権も尊厳も、そこには微塵も感じられなかった。
竹彦は慌てたようにラムザたちの注意を逸らそうとした。
「あちらが空港です!」
大げさに指を差した。
「あそこに浮かんでいるのが、最近できたデパート! いろんな主要連盟星のお土産を買うことができますよ!」
まるで観光ガイドのような口調だった。必死に清掃の光景から皆の目を逸らそうとしている。
「あの死体は……あれでいいのか?」
ラムザは信じられないものを見る目で呟いた。外交官として様々な文化を見てきたが、これは理解を超えていた。
「襲われたから、正当防衛」
マリアが淡々と答えた。
「生与奪が成り立つ」
「いや、そうじゃなくて」
ラムザは頭を抱えた。
「あんなゴミみたいな扱いでいいのか?」
「実際ゴミ」
マリアは肩をすくめた。
「誰も悲しまないし、恨まれるのは竹彦。気にしないで」
凄まじいことを、まるで天気の話でもするような口調で言った。
ガシャン、ガシャン。
清掃車の中で何かが圧縮される音が響いた。骨が砕ける音のようにも聞こえる。技官たちの顔が青ざめた。
「宇宙って、厳しいところと杜撰なところの差が異常だよな……」
キヨシが震え声で言った。
「真ん中がないというか……」
「地球も似たようなもんやろ」
アスカがあっけらかんと答えた。
「殺し屋もウロウロしとるし、交通事故で死ぬ奴もおるやろ」
「それとこれとは全然違う……」
ラムザは青い顔で首を振った。
「俺がおかしいのか?」
誰も答えなかった。ただ、清掃車が立ち去っていく音だけが響いていた。
十分ほど何とか間を持たせていると、空に影が差した。
「来た来た」
アスカが上を見上げた。
物々しいガンシップが三機、低空飛行で近づいてくる。黒い装甲に覆われた戦闘用の輸送機だ。武器がこれでもかと搭載されている。
ドシン!
重い着地音と共に、誰かが目の前に降り立った。
頑丈なアーマーに身を包んだ巨体。顔を見ると、人間のようだが、顔面の三分の一が機械になっている。左目の辺りは赤いカメラのゴーグルに置き換えられ、不気味な光を放っていた。アメコミの悪役のような、典型的なサイボーグだった。
「お待たせ、竹彦」
機械的に歪んだ声が響いた。
「ボルゴさん!」
竹彦が嬉しそうに手を振った。そして、カメラに向かって説明した。
「戦士連盟の会員のボルゴさんです! ニーナ様を本部まで安全に連れて行ってくれます!」
ボルゴが軽く頷いた。すると、上空の二機からワイヤーが降りてきて、似たような格好のサイボーグたちが次々と降下してきた。
「おい、何してる!」
技官の一人が叫んだ。
サイボーグたちが、カーカラシカの宇宙船にワイヤーを取り付け始めたのだ。
「な、何をしているんだ!?」
ラムザが慌てた。
「ほら、盗まれると困るやろ」
アスカが説明した。
「戦士連盟の倉庫で面倒見てもらったほうがええ」
「ちょっと待て!」
だが、もう遅かった。宇宙船はふわりと浮き上がり、ガンシップに牽引されて飛んでいく。
「あぁー……」
ラムザは呆然と見送った。地球の命運をかけた船。莫大な予算と時間をかけた、何億メラベルもする宝物が、まるで違法駐車のレッカー車のように運ばれていく。
「大丈夫大丈夫!」
竹彦が慌てたように言った。
「後で返してもらえますから! じゃあ皆さん、船に乗って!」
ガンシップの後部ハッチが開いた。内部は武器庫のようだった。壁には様々な武器が整然と並び、サイボーグたちが待機している。
一行が乗り込むと、サイボーグの一人が竹彦に話しかけた。
「地球人? ボスと同じ?」
「そうですよ」
竹彦が答えると、サイボーグは何か計測器のようなものを取り出した。ラムザに向けると、ピピピという電子音が鳴った。
「うおー、すげー! エネルギー値6000か!」
サイボーグが興奮した声を上げた。
「1級間違いなしだな!」
続いてニーナに計測器を向ける。
「20000!?」
サイボーグが目を見開いた。いや、機械の目だが、驚きは伝わってきた。
「お嬢さん、やばいな」
慌てて端末に何かを打ち込み始めた。
「ボルゴさん、早くお願いします」
竹彦が急かした。
「了解!」
ボルゴが操縦席に座った。
「本部までの空の旅をお楽しみください」
凄まじい機械音と共に、ガンシップが離陸した。窓から見える景色が、どんどん小さくなっていく。
ニーナは息子の横顔を見つめていた。この世界で、竹彦がどれだけ特別な存在なのか、改めて実感した。そして、それを誇らしく思った。
(私の息子は、銀河でも特別なのね)
母の顔に、満足そうな笑みが浮かんでいた。




