第百十二話 「宇宙船の中で」
宇宙船の中は、月への巡航船より明らかに狭かった。
ハイパージャンプが始まり、窓の外には奇妙な薄暗い虹色の空間が広がっている。まるで、オーロラを液体にして撹拌したような、不思議な光景だった。
「なあ竹彦」
アスカが竹彦の肩を叩いた。
「これからは、カーカラシカの皆さんは上客や。ようしてもらわなあかん」
彼女は盆に飲み物を載せて、竹彦に手渡した。
「しっかり接待するんやで」
「はい……」
竹彦は少々渋りながらも、盆を受け取った。かくして、上客のお世話係に任命されたのだった。
「僕、こういうの苦手なんですけど……」
「文句言わん! 仕事や!」
アスカは竹彦の背中を押して、カーカラシカの皇族たちがいる区画へ送り出した。
その後ろ姿を見送りながら、アスカは京介に小声で話しかけた。
「いつ話すんやろな?」
京介は腕を組んだ。
「向こうから、時期が来たらと聞いている」
薄暗い会議室で、ラムザがアスカと京介、所長のトニーを前に、重々しく封筒を取り出した。
「これを見てほしい」
アスカは親子鑑定の書類を手に取ると、舐め回すように読み始めた。
「99.9999%……」
彼女の目が見開かれる。
「うそやろ……竹彦が……」
次の瞬間、アスカは慌てたように姿勢を正した。
「いやあ! 前々からただもんじゃないとは思ったんですよ!」
微妙に媚を売るような口調になる。
「あの法力、あの強さ、やっぱりカーカラシカの血筋やったんですな!」
京介は健康診断の結果を見て、顔を青ざめさせた。
「これは……」
医師の所見が並んでいる。『即入院が必要』『人工透析の検討』『複数臓器不全の兆候』『継続的な投薬治療が不可欠』
「片肺欠損、肝機能は正常値の30%、腎機能も…………どうやって戦ってるんだ、いや、むしろよく今まで生きてこられたな」
所長のトニーは震える手でメガネを外した。
「竹彦君が、ニーナ女帝の息子さん……」
ラムザは深く頭を下げた。
「信じられないかもしれないが、事実だ」
彼は顔を上げて、真剣な眼差しで三人を見た。
「君たちから、メル君に……いや、竹彦君に、ニーナ様に優しくするように言ってほしい」
アスカが身を乗り出した。
「もちろんですとも! うちの大将の親御さんなら、そりゃもう大切にしますわ!」
「見ての通り、彼の体は限界に近い」
ラムザは診断書を指差した。
「透析も必要だし、臓器移植も検討しなければならない。こちらで最高の治療を受けさせる」
京介が慎重に尋ねた。
「でも、本人には……いつ伝えるんですか?」
「時期を見て、私たちから」
ラムザの顔は苦渋に満ちていた。
「今はまだ……あの子は我々を憎んでいる。当然だ。あんなことをしてしまったのだから」
アスカは神妙な顔で頷いた。
「一週間、飲まず食わず、トイレも行かせんかったんですよね……」
「最悪の再会だった」
ラムザは拳を握りしめた。
「だから、まずは関係を修復したい。」
*
アスカは竹彦が飲み物を配っている姿を眺めながら、ため息をついた。
「まあ、竹彦が連中を嫌うのもしょうがないわな」
彼女は顔をしかめた。
「ウ○コを一週間垂れ流しにされて、身動きできなかったんやろ? だいぶコテンパンにされたそうやし」
京介も苦い顔をした。
「運がなかったな、彼らは」
「まさか自分の息子やったなんてな」
アスカは首を振った。
「最初は配膳係くらいからでいいんじゃないか?」
京介が提案した。
「少しずつ、距離を縮めていけば」




