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第十一話「オリジナルの証明」



 教室でキヨシは席に座りながら、クラスメイトたちを複雑な気持ちで眺めていた。


 二つ隣の席の女子、佐藤さん。いつも大人しくて、数学が得意な子。でも実は、ハンギャ星人だという。人間に擬態しているが、本当の姿は全く違うらしい。


 最前列の男子、田島。明るくて野球部のエース。しかし彼は、つい先週「終了処理」される羽目になり、細胞から培養された人造人間だ。記憶も完全に移植されている。本人も、両親も、友人も、誰一人として彼が「作り直された」ことを知らない。


「宇宙法的には問題ないんだ」


 昨日、部長のモリーが説明してくれた。


「宇宙空間での事故死の際には、よくやる処置でね。ただし、ポッドの限界があって、生命エネルギーの少ない個体じゃないと成立しない」


 つまり、このクラスの4人くらいは、いわゆる「スワンプマン」的存在なのだ。オリジナルと全く同じだが、オリジナルではない。


 さらに3人は地球人ではない。合計7人。クラスの約4分の1が、普通の人間ではない。


 授業中、キヨシはノートを取りながら考え続けていた。


 俺は、俺なんだろうか?


 記憶がある。家族もいる。でも、それが本物だという証拠はどこにある?


 もしかしたら、自分も知らないうちに入れ替わっているのではないか。妹の桜や姉の茜が、実はいつの間にか宇宙人と入れ替わっているとしたら?


 その夜から、キヨシは不安で眠れなくなった。


 鏡を見ても、自分が自分である確信が持てない。記憶を辿っても、それが植え付けられたものでないという保証はない。


           *


 三日目の朝、とうとう耐えきれなくなって、キヨシはアマガワ事務所を訪れた。


「どうしたんだい、キヨシ君?」


 所長のモリーが心配そうに聞く。目の下にクマができているキヨシを見て、すぐに事情を察したようだった。


「あの……俺、本物なんでしょうか?」


 キヨシは震える声で尋ねた。


「クラスメイトに偽物がいるって聞いて……もしかしたら、俺も……」


 モリーは眼鏡を外し、丁寧に拭き始めた。


「ああ、そういうことか」


 彼は優しく微笑んだ。


「君は大丈夫だよ、キヨシ君。君はエネルギーが高いからね」


「エネルギーが高い?」


「そう。安心してくれ」


 モリーは明るく言った。


「君は一回死んだら死んだっきりだよ!」


「え?」


 それはそれで不安になる答えだった。


「つまりね」


 モリーが説明を続ける。


「生命エネルギーが高い個体は、複製が作れないんだ。君のような人間を作り直そうとすると、莫大なエネルギーが必要で、現在の技術では不可能なんだよ」


 アスカがソファでタバコを吸いながら付け加える。


「要するに、あんたは替えが利かへんってことや」


「宇宙人にアブダクトされる地球人は、基本的に『特別』なんだ」


 モリーが続ける。


「普通の人間は、わざわざさらう価値がない。君がさらわれたのは、君が特別だからさ」


 マリアも無表情で頷く。


「オリジナル、確定」


「君はばっちりオリジナルだよ」


 モリーが太鼓判を押す。


「保証する」


 キヨシは複雑な気持ちだった。自分が本物だと分かって安心した反面、「死んだら終わり」という事実に新たな不安を覚えた。


「でも、クラスメイトは……」


「彼らも幸せならいいんじゃない?」


 山口萌が優しく微笑む。


「知らない方が幸せなこともあるわ」


 確かにそうかもしれない。田島は相変わらず野球部で活躍している。佐藤さんも普通に学校生活を送っている。


「ちなみに」


 サヤカが興味深そうに聞く。


「キヨシのエネルギー値ってどのくらい?」


 モリーが小さな機械を取り出し、キヨシに向けた。ピッという音と共に、数値が表示される。


「ほう、780か。一般人の平均が100だから、かなり高いね」


「それって、いいことなの?」


「良くも悪くもない」


 竹彦が答える。


「ただ、宇宙人に狙われやすいですね!」


 爽やかに恐ろしいことを言う。


「でも安心してください! 僕たちが守りますから!」


           *


 キヨシはふと思いついた質問をした。


「思うんですけど、じゃあ死んだと思っていた人が実は生きていて、コピー人間を作ったとしたら……見分ける方法は? どっちが本物なんですか?」


 部室が静まり返った。


 モリーが眼鏡を直す手を止めた。マリアも顔を上げる。山口、サヤカ、二宮、竹彦、全員が黙り込んだ。


「え?」


 キヨシは周りを見回した。すごく気まずい雰囲気が漂っている。地雷を踏んだのか?


「それは……」


 モリーが言いかけて、言葉を選ぶように続けた。


「銀河連盟でも、かなり……その、だね。回答を保留している問題なんだ」


「保留?」


「まあ、どっちも本物ということにしているんだよ」


 アスカが煙草を消しながら付け加える。


「実際に起こったケースもあってな」


「どうしたんですか?」


 モリーが苦笑いを浮かべる。


「その時は……二人を戦わせて、勝った方が本物ってことにしてある」


「戦わせる!?」


「原始的でしょ?」


 山口が困ったような表情で言う。


「でも、他に方法がないのよ」


「DNA検査とか……」


「全く同じ」


 マリアが端的に答える。


「記憶も、細胞も、全部」


「じゃあ、魂とか……」


「魂の存在、証明できない」


 部室に重い沈黙が流れた。


「まあ、滅多に起きないから!」


 竹彦が明るく言う。


「大丈夫ですよ!」


           *


 その日の部活動は、いつも通りだった。


 二宮が持ってきた「次元を超えるお茶」を飲んで、全員が一瞬だけ別次元を体験したり(キヨシには理解できない光景だった)、サヤカが宇宙通販で買った「重力反転ガム」を試して、天井に張り付いたりした。


 でも、あの質問の後の沈黙が、妙に引っかかっていた。

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