第百六話 「明日の真実」
カーカラシカ皇居の会議室。
四大家の長老たちが集まり、重い雰囲気の中で話し合いを続けていた。
「やはり、ガランさんに似てるよな」
イシュタル家のエンキドゥが腕を組みながら呟いた。
「いや、ガランさんという以前に、メル君に似てるよなあ……」
ベオルブ家のシャマシュが深いため息をついた。彼女はメルが幼い頃をよく覚えている。あの無邪気な笑顔が、今の竹彦と重なって見える。
「もし本当にメルだったら、どうする?」
ナブ家の老当主が杖を握りしめながら問いかけた。
ラムザは頭を抱えた。
「政治的には……あまり関係ないだろう。皇帝は基本的に女性だし」
「今はそれも象徴的なものだしな」
エンキドゥが肩をすくめた。
「けど、神殿とのやり取りは重要だろう」
シャマシュが反論した。
「宗教的権威としての女帝の存在は大事だ。これから銀河進出を考えると、アイデンティティも曖昧になる。宗教での一致は重要になってくる」
「確かに」
ラムザが頷いた。
「ニーナ様には女児がいない。仮にメルだったとしても、継承権には関係ない。次の女帝は四大家から出すという仕組みがあるから」
「まあ、次はアンドラだろうな」
エンキドゥが言った。
「ボム家が優先権を持ってるし、ニーナ様が退位する頃にはアンドラも成人してるだろう」
「関白は誰がいい?」
「いや、今はその話はやめよう」
ラムザが手を振った。
「時代も変わるわけだし、今は議会制になってる。銀河連盟のことで忙しいからな」
シャマシュが提案した。
「ニーナ様には星海連盟の会長職についてもらって、女帝位はアンドラに譲る。関白は……まあ、適齢期の女性の誰かでいいだろう」
「また女ばっかりに面倒押し付けるのね」
彼女は苦笑いを浮かべた。
「これだから男は……」
ナブ家の老当主が咳払いをした。
「メル君だとすると、再発見は……まあ、おめでたい話ではあるけどな……」
彼の顔は複雑だった。ナブ家は伝統的に血が遠いため、後継者指名からは外れがちだ。今まで女帝を出したことはない。
ラムザが重い声で言った。
「数週間前に、大変なことをしてしまった。ニーナ様も困っているだろうな」
「結果はいつ出るんだ?」
エンキドゥが尋ねた。
「明日だ」
「それは急だな……」
シャマシュが眉をひそめた。
「けど、もしメルじゃないと出たとしても、どこか四家の血筋だろう? 見た目があれだからな」
「一見元気そうだが、体はもうかなりボロボロなんだろう?」
ナブ家の老当主が心配そうに言った。
「可哀想に……」
ラムザは顔を覆った。
「本当に後悔してるよ。骨を折って、牢屋に飲まず食わずで一週間。最悪だ……」
「ああ、俺たちも殺されかけたし」
エンキドゥが苦笑いした。
「今から『実は家族です』とは言いにくいな」
「まあまあ、結果次第だ」
シャマシュがなだめるように言った。
「それから考えればいいだろう」
*
迎賓館の一室。
山登りを満喫した女子組が、大きなお風呂から上がってきた。
「スッゲー広かった!」
サヤカが目を輝かせていた。髪をタオルで拭きながら、ベッドにどさっと倒れ込む。
「マリアちゃんのところに就職もいいけど、カーカラシカも捨てがたいわね……」
山口が苦笑いした。
「いやいや、こんな部屋あてがわれるわけないでしょ」
「でも夢見るのは自由よね〜」
二宮がニコニコしながら、トランプを取り出した。
隣の部屋では、キヨシとマリアとセツナがボードゲームに興じていた。
「また負けた!」
セツナが悔しそうに叫んだ。
マリアは無表情のまま、淡々と言った。
「クソザコ」
「なんですって!?」
セツナが頬を膨らませた。
「もう一回! 絶対勝つから!」
キヨシが苦笑いした。
「セツナ、もう5回連続で負けてるぞ」
「うるさい! 次は絶対勝つの!」
*
街のゲームセンター。
竹彦は現地の不良少年たちと一緒にいた。
「面接うまくいったよ。ありがとう、お守りのおかげだ」
竹彦は嬉しそうに言った。ここでの口調は、彼らに合わせてくだけたものになる。
「そうか! よかったな、ガラド!」
リーダーが竹彦の肩を叩いた。
「これ、お礼」
竹彦は包みを差し出した。皇族の帽子、金のネックレス、宝石のついた指輪。
不良たちは目を丸くした。
「おいおい、これ……なんかすごい金目のものな感じがするんだけど」
「本物みたいだけど、金メッキか?」
リーダーが指輪を光に透かして見た。
「この帽子、どこで被ればいいんだ?」
別の少年が帽子を被ってみる。妙に豪華すぎて場違いだ。
「ネックレス、なにこれ? 真ん中の石、ガラスか?」
「多分レプリカだよ」
竹彦は笑った。
「でも、結構いいやつだから」
「まあ、気持ちが嬉しいよ」
リーダーが竹彦の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「俺たちの友情の証だな」
「ああ!」
竹彦は満面の笑みを浮かべた。こういう普通の友達関係が、今の竹彦には何より嬉しかった。
*
女帝の寝室。
ニーナは暗闇の中で、ベッドに丸まって震えていた。
「違う……違うに決まってる……」
ぶつぶつと、壊れた機械のように同じ言葉を繰り返している。
扉がノックされた。
「姉上、夕食ですけど……」
ラムザの心配そうな声が聞こえる。
「いらない……」
ニーナの声は、昔の孤児だった頃のように、卑屈で小さかった。
「でも、何か召し上がらないと……」
「いらないと言ってるでしょう!」
急に声を荒げたかと思うと、また小さくなる。
「……ごめん。今は一人にして」
ラムザは扉の前で立ち尽くした。姉がこんなに取り乱すのは、エリドゥの悲劇以来だ。
「……わかりました。でも、水だけは置いておきますから」
足音が遠ざかっていく。
ニーナは枕を抱きしめた。明日、全てがわかる。もしあの少年が本当にメルだったら……
同じ頃、竹彦はゲームセンターで大はしゃぎしていた。
「よっしゃ! ハイスコア更新!」
「すげえな、ガラド!」




