第百四話 「女子部屋の夜」
カーカラシカの迎賓館、三階の一室。
豪華なシャンデリアの光が、テーブルに散らばったトランプカードを照らしている。サヤカ、山口萌、二宮の三人は、パジャマ姿でくつろいでいた。
「はあ……このままだと本当に豚になりそう」
山口が自分のお腹をつまみながら、ため息をついた。ベッドの上に仰向けになって、天井を見上げている。
「毎日フルコースなんて、もう胃が限界よ」
サヤカはカードをシャッフルしながら笑った。
「でも美味しいから断れないのよね。昨日のデザート、あれ絶対太るやつだったけど、三個も食べちゃった」
「私も〜」
二宮がニコニコしながらカードを配っていく。その手つきは慣れたもので、まるでプロのディーラーのようだった。
「でもね、明日は舞台劇を見せてくれるんですって。カーカラシカの古典演劇。なんか楽しみ」
「また座ってるだけじゃない」
山口がむくりと起き上がった。
「あ、でもその後は運動よ」
二宮が嬉しそうにパンフレットを取り出した。
「ほら見て、これ。プライベートジェットでジッパルの山の麓まで行って、中腹から登山ですって」
サヤカが覗き込んだ。
「わあ、綺麗! 世界絶景10選?」
「そうそう。山頂には聖火の祠があるんですって。毎年何万人も見に来るらしいけど、明日は私たちのために貸切」
二宮は写真を指差しながら説明した。
「贅沢よね〜。VIP待遇ってこういうことなのね」
山口は複雑な表情を見せた。
「なんか申し訳ないような……私たち、そんなに偉い人じゃないのに」
「いいじゃない、楽しまなきゃ損よ」
サヤカは手札を見ながら言った。
「そういえば、部長は? モリーさん、今日も見てないけど」
二宮がカードを一枚引きながら答えた。
「なんか会社の仕事が忙しいらしいわよ。それと、新潟にいる体の弱い妹さんの看病ですって」
「妹さんがいたんだ」
山口が意外そうに言った。
「ええ。なんかいい薬が見つかったとかで、アンナムの仕事は一旦置いて、付きっきりで看病してるらしいわ」
サヤカは感心したように頷いた。
「いいお兄ちゃんね〜。あんな強面なのに、妹思いなんだ」
「人は見かけによらないものよ」
二宮は意味深に微笑んだ。
「キヨシ君はどこ行ったの?」
山口が話題を変えた。
「なんかサムライの代表の人たちと一緒に、どこかに行ったみたい」
サヤカがカードを場に出しながら説明した。
「この国にはブレイドっていう、サムライみたいな戦士がいるでしょ? その人たちと交流会があるんですって」
「へえ〜」
山口は興味なさそうに相槌を打って、自分の手札に集中した。
「事務所の人たちは?」
二宮が尋ねると、サヤカが苦笑いを浮かべた。
「竹彦君の接待の付き添いよ。マリアもアスカさんも京介さんも、みんな竹彦君についてる」
「まあ、当然よね」
山口が頷いた。
「竹彦君は特別扱いされて当然よ。だって、一番大暴れしたのも竹彦君だし、一番酷い目に遭ったのも竹彦君だもの」
二宮は考え込むように首を傾げた。
「カーカラシカの人たちも、竹彦君のご機嫌は絶対に損ねられないって思ってるんでしょうね」
「そりゃそうよ」
サヤカが笑った。
「SS級指名手配犯を怒らせたら、この国終わりでしょ」
三人は顔を見合わせて、くすくすと笑い始めた。
「そういえば、昨日の竹彦君の衣装、超ウケたわよね」
山口が思い出したように言った。
「あれ、完全にこっちの国の人の格好だったわよね」
「違和感なさすぎて逆に面白かった」
サヤカも笑いながら同意した。
「まあ、竹彦君って見た目は日本人じゃないもんね、多分」
二宮が静かに言った。
「褐色の肌に赤い瞳でしょ? どう見てもカーカラシカ系よね」
「マリアが言ってたけど」
サヤカが声を潜めた。
「カーカラシカの人たち、竹彦君を自分たちの側に引き込みたいらしいわよ」
山口が驚いた顔をした。
「へえ〜。でも難しそうよね」
「そりゃそうよ」
サヤカはカードを切りながら続けた。
「だって、一週間もトイレに行かせないで閉じ込めてたんでしょ?」
「うわ、それキツい」
山口が顔をしかめた。
「しかも最後は剣で切り刻んだんでしょ?」
二宮がさらりと恐ろしいことを言った。
「よく和解できたわよね」
三人は顔を見合わせて、また笑い出した。不謹慎だとわかっていても、この状況のシュールさに笑わずにいられなかった。
「でも竹彦君、大人よね」
山口が真面目な顔になった。
「ちゃんと謝罪も受け入れて、今はこうして普通に過ごしてる」
「偉いわよね~、お仕事なんでしょうけど」
サヤカは現実的だった。
「アスカさんが上手く説得したんじゃない?」
二宮は窓の外を見ながら、ぽつりと言った。
「でも、何か大きなことが起きそうな気がする」
「また不吉なこと言わないでよ」
山口が眉をひそめた。
「いいことかもしれないじゃない」
二宮はニコニコと笑った。
「真実が明らかになることは、悪いことじゃないわ」
「何の話?」
サヤカが首を傾げたが、二宮は曖昧に微笑むだけだった。
夜は更けていく。
窓の外では、カーカラシカの二つの月が静かに輝いていた。
同じ頃、竹彦は自室のベッドで眠りについていた。カーカラシカの皇族の寝巻きを着て、まるで故郷に帰ってきたかのように安らかな寝息を立てていた。
その夢の中で、竹彦は葡萄畑を歩いていた。誰かと手を繋いで、楽しそうに笑いながら。




