表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/144

第百一話 「しつこい謝罪」



 月面基地のラウンジは、地球への帰還を待つ人々でにぎわっていた。大きな窓からは、青く輝く地球が見える。

 その片隅で、ラムザが竹彦に熱心に話しかけていた。


「本当に、月面での活躍には感謝している」


 ラムザの声は真摯だった。大柄な体を前のめりにして、竹彦の目を見つめている。


「そして……前にしてしまった、許されないことについても」


 竹彦は少し後ずさりした。この話はもう終わったはずだった。


「いや、もう謝罪は受けましたから」


「でも、あれは十分じゃない」


 ラムザは必死だった。姉の未来がかかっている。いや、姉の残された人生の意味がかかっている。


「本当に申し訳なかった。あの一週間、君に与えた苦痛は……」


「まあまあ」


 アスカが割って入った。


「竹彦も、ほら、前に十分謝りましたさかい。お互い水に流して、なあ竹彦」


 竹彦は困った顔をした。


「地上で謝罪は受けましたから…そこを掘り返す気はないです」


 そして小さくため息をついた。


「そんなに何度も謝られても、困ります」


 確かにその通りだった。とはいえ、あんな目にあって、張本人たちと急に仲良しになれというのは無理な話だ。

 竹彦は、彼らしくもないビジネススマイルを浮かべた。営業マンのような、表面的な笑顔。


「ウィンウィンの関係を築いていきましょう!」


 手を差し出す。形式的な握手。

 しかし、ラムザにとって、それでは困るのだった。

 ラムザの中では、もうすでに確信があった。この少年は、姉の最後の人生の意味、メル本人だろうと。法力の強さ、外見、年齢。すべてが符合する。

 となると、姉が救われるには、この竹彦と母である姉が完全な和解をしなければ困る。DNA鑑定をしようがしまいが、姉は苦悩を続けることになる。

 少しでも印象を良くしておかないとダメだ。

 この、おそらくは姉の子供に当たる少年とのズタズタになった関係を、少なくともゼロまで持っていかないと。


「地上に戻ったら」


 ラムザは竹彦の手を離さなかった。大きな手が、小さな手をしっかりと握っている。


「そう、しばらく泊まっていってくれ。何か誠意を見せたいんだ」


 しつこいくらいに手を握って言う。まるで、離したら二度と掴めないかのように。

 竹彦は明らかに困惑していた。


「いや、でも……」


「そういわずに」


 ラムザの目は必死だった。何か重要な理由があるのは明らかだったが、竹彦には分からない。

 マリアが冷たい声で言った。


「何ぼさっとしてる?」


 竹彦を睨む。


「いい加減、愛想の一つでも言って」


 アスカも加勢した。


「お前は何をしとんねん!」


 関西弁で叱りつける。


「あちらの旦那様からの招待に預かっとるんや! 光栄ですくらい言わんかい!」


 竹彦は二人に挟まれて、逃げ場がなくなった。


「でも……」


 小さく抗議しようとしたが、マリアの冷たい視線に負けた。


「……分かりました」


 諦めたように言った。


「お招き、ありがたく受けます」


 ラムザの顔が明るくなった。まるで、重い荷物を下ろしたような安堵の表情。


「本当か! ありがとう!」


 今度は両手で竹彦の手を包むように握った。


「必ず、君が満足するようなもてなしをする。約束するよ!」


 竹彦は苦笑いを浮かべるしかなかった。なぜこんなに必死なのか、理解できない。

 少し離れた場所で、ニーナが様子を見ていた。弟が何を考えているのか、なんとなく察していた。

 もしかしたら、ラムザも気づいているのかもしれない。

 あの少年が、誰なのか。

 ニーナの手が震えた。コーヒーカップを持つ手に力が入らない。


「あと四日……」


 小さく呟いた。

 検査結果が出るまで、あと四日。

 その四日間、竹彦は自分たちの家に滞在することになる。もし、もし本当に息子だったら。

 同じ屋根の下で、何も知らない息子と過ごすことになる。


「地球行きのシャトル、間もなく出発します」


 アナウンスが流れた。

 全員が荷物をまとめ始める。竹彦も渋々立ち上がった。赤い帽子を深く被り直す。


「じゃあ、行きましょうか」


 ラムザが嬉しそうに言った。まるで、大切な宝物を手に入れたような表情だった。

 竹彦は小さくため息をついた。


「なんで僕がこんな目に……」


 ぼやきながら、シャトルへと向かう。

 マリアとアスカは満足そうに頷いていた。カーカラシカとの関係改善。これは大きな利益になる。

 でも、竹彦にとっては、ただの苦痛でしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ