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第一話「アブダクト」

東京、坂の上高校。


「東京一のサイコパス野郎」と恐れられる高校生がいた。

七夕竹彦――礼儀正しく、勉強熱心で、刺繍が趣味。

そして素手でロボットを引き裂く怪力の持ち主。


宇宙人のトラブルを解決する「アマガワ事務所」を拠点に、

竹彦と愉快な仲間たちは今日も東京を守っている。

イタリアンマフィアの令嬢、関西弁の元殺し屋、

有名歌手の女子高生、巻き込まれ体質の一般人。

SF×コメディ×ファンタジー。

銀河を股にかける、壮絶で笑える冒険譚。




キヨシが目を覚ました時、最初に感じたのは冷たい金属の感触だった。体を動かそうとしたが、手足が何かに固定されている。視界がはっきりしてくると、自分が奇妙な台の上に仰向けで拘束されていることに気づいた。そして、もっと重要な事実に気づく。パンツ一丁だった。


「なんだこれ...」


声を出そうとしたが、喉がカラカラに乾いている。天井を見上げると、そこには見たこともない文字のような記号が浮かび上がっていた。青白い光が脈動するように明滅している。


記憶を辿る。確か、坂の上高校からの帰り道だった。いつもの商店街を歩いていて、それから急に眩しい光が降ってきて、体が浮き上がって...


足音が聞こえた。いや、足音というより、何かがヌメヌメと床を這うような音。キヨシは必死に首を動かして音の方向を見た。


そこには、灰色の肌をした、頭が異常に大きい生物が立っていた。目は真っ黒で、鼻はなく、口は小さな切れ込みのようだった。手には、注射器のような、しかしもっと複雑な構造をした器具を持っている。


「うわあああ!」


キヨシは叫んだ。宇宙人だ。本物の宇宙人。テレビで見たことがあるグレイタイプとかいうやつだ。


宇宙人は無表情のまま近づいてくる。器具の先端から、緑色の液体が滴っている。


「待て待て待て!話し合おう!俺は地球人だ!友好的だ!」


宇宙人は反応しない。器具をキヨシの腕に近づける。


絶体絶命の瞬間、キヨシは全身の力を振り絞った。拘束具が一瞬緩んだ隙に、右手を引き抜くことに成功した。そのまま勢いで左手も外し、宇宙人の持つ器具を叩き落とした。


宇宙人が奇妙な音を発した。警報のようなものが鳴り響く。キヨシは台から転げ落ち、裸足のまま走り出した。


廊下は銀色の金属でできていて、所々に青い光が流れている。どこへ行けばいいのか分からないが、とにかく走った。後ろから複数の足音が追ってくる。


角を曲がり、また曲がり、階段のようなものを駆け上がる。そして、大きな窓のある部屋に飛び込んだ。


外を見て、キヨシは絶句した。


そこには東京の街が広がっていた。ただし、はるか下に。スカイツリーよりも高い。いや、飛行機よりも高い位置から見下ろしている。雲が眼下に広がっていた。


「ここ...宇宙船の中...」


後ろから追手の気配。キヨシは窓に向かって走った。どうせ捕まるなら、せめて抵抗してやる。窓に体当たりをかます。


予想外にも、窓はあっさりと割れた。いや、割れたというより、シャボン玉のように弾けた。そして、キヨシは宇宙船の外に投げ出された。


風が全身を打つ。重力に引かれて落下していく。下には東京の街。このまま落ちれば、間違いなく死ぬ。


「ああ、俺の人生ここまでか...」


走馬灯のように記憶が流れる。生まれてから今まで、特に何もない平凡な人生だった。告白もしたことがない。バイトもサボってばかり。成績も中の下。このまま死ぬのか。


その時、横から何かが急接近してきた。小型のポッドのような乗り物。中には二人の人影が見える。


ポッドが並走しながら、ハッチが開いた。銀髪の少女と、褐色の肌をした少年が顔を出す。


「キャッチしますよ!」


少年が丁寧な口調で叫んだ。そして、ありえない跳躍力でポッドから飛び出し、落下するキヨシを空中でキャッチした。


「大丈夫ですか!怪我はないですか!」


少年はニコニコと笑いながら聞いてくる。キヨシはパニックで言葉が出ない。


ポッドに戻ると、銀髪の少女が面倒くさそうに言った。


「何、こいつ」


「どうやら、グレイ種にアブダクトされた地球人みたいですね」


少年が丁寧に説明する。


「竹彦、黙らせて」


少女の短い命令。竹彦と呼ばれた少年は、相変わらずニコニコしながら振り向いた。


「了解!」


そう言うと、信じられない怪力でキヨシの頭を殴った。意識が遠のく中、最後に聞こえたのは少女の声だった。


「家の前に降ろしておこう」


キヨシの意識は、そこで完全に途切れた。

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