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Welcome to the Villains' world-7

学園に戻り、鏡の間で待機していたと思しき学園長に目標を達成したと告げると、実に驚いた顔と声を出された。


「――エッ!? ドワーフ鉱山に行き、いやぁ、まさか本当に行くなんて……生き残るとは」


感心した声。


その声と態度に皆が半ば唖然としていると、この出来事は完全に予想外だったのか本音を漏らす。留学手続きを行っていたと、無情の旨を。


無遠慮といか、無礼なのか、それとも単純に無神経なのか、あっけらかんと云うのである。


「なんて野郎なんだゾ! オレ様たちがとんでもねーバケモノと戦っている時に!」


「バケモノ……ねえ」


学園長が唸るような声を出すと、エースがドワーフ鉱山の内部でモンスターが出てきたと補足する。彼はその話に興味があったのか……しかしどこか白々しい冷え切った口調で……詳しい事情を知りたがっていたようなので、黒い化け物の素性について説明した。


インクの入った硝子瓶のような頭部。朱色の衣服。大鎌たる凶器を持つ手。身体が黒く水泥になった不穏な化け物……仔細、可能な限りそのことを伝えると学園長はしばしの間、閉口していたのだが……。もしも素顔が見えたら、実に険しい表情をしていたことだろう。だが、口から出た言葉は異なり……まるで話を逸らすかの如く……。


「四人で協力して倒し、魔法石を手に入れて学園に戻ってきたと?」


……話題に上がったのは別の事である……。


肝心要の部分を悟らせないように、大仰な仕草で泣き出し――


「この私が学園長を務めて早何十年……ナイトレイブンカレッジ生同士が手を取り合って、敵に立ち向かい勝つ日がくるなんて! 私は今、猛烈に感動しています! 今回の件で確信しました。あなたには間違いなく猛獣使い的才能がある!」


「猛獣使い!? どんな才能……」


と云うかグリムはともかく、ナイトレイブンカレッジ生同士が云々の言葉からして、生徒そのものを獣と同類と扱っているかの如き言動であった。実に失礼である。


「ナイトレイブンカレッジの生徒はみな、闇の鏡に選ばれた優秀な魔法士の卵です」学園長の溜息。「しかし、優秀がゆえにプライドが強く、我も高く、他者と協力しようという考えを微塵も持たない個人主義かつ自己中心的な者が多い」


云い切った。


グリムが「ほとんどいいこと云ってない」と云うが、優秀以外の褒め言葉は皆無で、実にその通りであった。


「あなたは魔法が使えない。ですが、おそらく使えないからこそ、魔法を使える者同士をこうして協力させることが出来た。きっとあなたのような平々凡々な普通の人間こそが、この学園には必要だったのです!」


びっくりした。


こちらに至っては、全く一つも褒められていない。


「あなたは間違いなくこの学園の『未来』に必要な人材になるでしょう。私の教育者のカンがそう云っています」


そうして学園長は……真顔ではなくどこか訝しけな表情を浮かべた……二名の生徒の名を口にする。


「トラッポラくん、スペードくん。二人の留学を取り消すとともに――あなたにナイトレイブンカレッジの生徒として学園に通う資格を与えます」


「えぇ!?」思い切った決断の声に驚きの声が出た。「生徒として!? 魔法が使えないのにいいんですか?」


繰り返すが、ここは魔法士が通う学校である。


魔法士とは――今は詳しく知らないが――魔法が使える者のことを指し、それ専用の専門学校だと云うのに、学園長は自分の功績……生徒同士が協力した事実のみを猛獣使いの才能と見做して通学の許可まで出したのである。


これには如何様な思惑が隠れているのか……疑いの声をかけるも、「私、優しいので」と一蹴されてしまった。何だか、学園に通うには説得力にかけ、その理由を問い詰めようとしても、のらりくらりと躱されているような気がするのは考え過ぎだろうか?


まるで肝心なところを明かしてない。


主題を云わず、副題を見せる。


そのように感じるのだ。


まるで――詐欺師の手腕。


「学校に通う許可を出します……ですが、一つだけ条件が。あなたは魔法が使えない。魔法士としては論外です。満足に授業を受けることすら出来ないでしょう」


そこで――グリムくん。


……と、突如話しかけられた獣は顔を上げる。


「君は今日、魔法士として十分な才能を持っていることを私に証明しました」


オンボロ寮のゴーストを退けた青褪めた炎。


そして、ドワーフ鉱山での活躍。


「よって、君たち二人で一人の生徒として、ナイトレイブンカレッジの在籍を認めます」


「オレ様も、この学園に通えるのか……」


その声は、一つの望みが叶ったと云うにはあまりにも……。


「雑用係じゃなく、生徒として?」


学園長は「騒ぎは起こさないように」とにこやかに頷く中、釘をさす。対して自分は、客観的にこの場について観察しているのであった。グリムの熱い感情に取り残されたと云うよりも、冷静になって自ら切り離したかのような……。


「それでは、ナイトレイブンカレッジの生徒の証である魔法石をグリム君に授けましょう」


学園長はグリムに首輪をかけるように、その首元に魔法石を出現させた。胸元のふさふさの毛からキラキラと輝くその石はドワーフ鉱山で見付けた魔法石とは見た目からして異なるものであり、練磨された石がチラチラと輝く。


「本来生徒は魔法石が付いたマジカルペンを使うのが決まりですが、その肉球ではうまく握れないでしょう? 特別カスタムです。ああ……なんと細やかな気遣い!」学園長の自己陶酔がまた始まった。「私、優しすぎませんか?」


学園長の言葉は誰も聞いていなかった。そもそも……学園長も人の話を聞いていないような素振りがあるので、はしゃぐグリムを注意しようとは思えず棒立ちになり、飛び跳ねて喜ぶさまを静観する。


「……御覧の通りグリムくんは、まだ人間社会に不慣れです。君がしっかり手綱を握って、騒ぎを起こさないよう監督するように!」


「すげーじゃん、お前! 入学したばっかで、もう監督生になっちゃったわけ?」エースはそう云いながら気安く肩を組んでくる。「前代未聞なんじゃねーの? 魔法が使えない監督生なんてさ。いいね。クールじゃん、魔法が使えない監督生」


クール。


自分が自然と彷彿とするのはエースと出会って紹介してもらった、薔薇の女王。


クールで好き。


なるほど……彼のこの言葉は皮肉でも何でもない、心からの賛辞と云うわけである。


「ちょっと自信ないなぁ」


エースからの直球の言葉に若干の照れを自覚しながら、頬をかきながらそう述べる。その温かいこころのくすぐりは、悪いものではなかった。


「なるほど、監督生ですか。ちょうど頼みたい仕事もありますし、肩書があるのは都合がいぃ……」学園長の咳払い。「いえ、素晴らしい! 監督生さん、あなたにこれを預けましょう」


エースが組んできたかいなから逃れ、学園長の下へ歩む。彼が差し出したのは、古びたカメラである。デジカメより古い、年季の入った一眼レフのポラロイドカメラであった。


「……これは通称、『ゴーストカメラ』と呼ばれるものです」


「あっ、そればーちゃんに訊いたことあるかも。すっげー昔の魔法道具っすよね」


エースの反応に「すっげー昔と云うほどのものでも……」と学園長は、渋い反応を見せる。その渋さは時代のギャップ……要はジェネレーションギャップと云う、世代における時間の差異だ。それにしてもエースの祖母が昔の品と云う、ゴーストカメラに対してそのような反応を示す学園長の年齢が気になる中、説明を続けた。


「このカメラには特別な魔法がかけられていて、被写体の姿だけでなく、魂の一部をも写し取ることができるのです」


「ホログラムカメラ……VRスマホ……」


「? 何か云いましたか?」


いえ、何も。


自分は沈黙を選択した。


「記憶の断片、メモリーとも呼ばれています。そしてこの魔法のカメラ面白い点は、撮影者と被写体の魂の結びつきが深くなると、写真に映された『メモリー』が飛び出してくるところです!」


魂の結びつき。


これにはそのような機能はなかったはずだがと思っていると、学園長は流暢な説明を行う。自信満々でまるで開発者の一人であったかのような……。


「撮影者が被写体と親しくなることにより写真が動画のように動いたり、実体を伴って抜け出したりするようになるんです。面白いでしょう?」


……そんな機能が魔法で付随されたんですね……いや、魔法で再現されたレプリカかな。


自分がぼそっと呟く中、デュースが「まるで心霊写真じゃないですか!」と大声を出して、その小声をかき消した。


「まだ動画のない時代、より鮮明に思い出を残すために開発されたものらしいですが……昔の人は飛び出したメモリーを見てゴーストだと驚き、このカメラで写真をとられることを非常に恐れたんだとか」


まるで、映画館の話のようだと自分は思った。


その昔、銀幕に映された汽車に驚き、映画館の観客に恐慌状態を招いたと云う。写真や動画の概念を知っている現代人からすれば、単にこちらに向かって走ってくるクルマの動画で終わってしまうが、当時の人々は映写機に投影された汽車の映像を本物であると誤認したと云う。


「監督生くん、あなたはこのカメラでグリムくんや他の生徒たちを撮影し、学園生活の記録を残してください」鼻歌を歌い上機嫌なグリムを見る。「特にああいうお調子者が悪さをした時は、必ず『メモリー』に残しておくこと」


私の報告書代わりにうってつけでしょう?


学園長は何か……云い逃れされた手酷い過去があるのか、学園長は力みながらそう言った。自分は「わかりました」と返事をすると、時計の針を見て時間を確認し、皆に寮に戻るように告げた。


エースとデュースは闇の鏡に振り分けられた寮へ。


自分は学園長によりあてがわれたオンボロ寮へ。


それぞれの目的地に赴くため帰路につく……。


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