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Welcome to the Villains' world-6

闇の鏡をゲートとして利用しワープすると、周囲に広がる光景は不気味な森であった。鉱山近くの静寂の森の奥から、不気味な存在が蠢いているように感じるのは気の所為ではないだろう。オンボロ寮とはまた異質で如何にも出そうな気配が充満している。学園長は、一昔鉱山として……魔法石の採掘場として栄えていた場所らしいが、寂れているにはあまりにも……。


恐ろしい雰囲気にグリムが涙目で怯える中、エースが奥の方に家屋があることを発見した。一応ノックして来訪の意を告げると、ノックをした衝撃で玄関の扉は開き、オンボロ寮と同じかそれ以上の荒れ具合を見せていた。中でも気になるのは七つと非常に多い家具の数々だが、自分が注視したのはベッドだった。


どれだけ丹念に洗濯をしたとしても二度と使い物にならない、かつてはシーツだったボロ布が敷かれた臥所の台にはベルトが巻かれている。その異様な見た目から連想するのは、拘束具といった一言で、ただの家屋ではないことが知れた。そう、云わばまるで……。


ごくりと密かに生唾を呑む中、エースはここにいても何もない……魔法石を求めているのだから鉱山の方へ行こうと提案をする。自分はベルト状の拘束具の付けられたベッドから視線を逸らすと、その紋章はカラスを象ったものではないにしろナイトレイブンカレッジの校章に似た、蜘蛛をモチーフとした紋章があった。


……蜘蛛。


そう云えば、目覚めてから幾度となく目撃しているような……。


エースが先導に立ち鉱山の入口に向かう中、ぼうっと考え事をしているとその入口らしき場所に辿り着いた。かつては立派な穴の出入り口であったそこは、自然の繁栄に覆われている。大木の根が入口を遮断するように自由に伸ばし、あなぐらの奥は暗く、生温い亡者の吐息のような生温いがわずかに吹いている。その生々しさが余計に嫌だった。幽霊が出そうなオンボロ寮の雰囲気とはまた異質な雰囲気が漂っている。渦巻いている。闇がとぐろを巻いている。


「…………」


グリムを先頭に鉱山内部へ、足を踏み入れる。人工的な洞窟の足元には掘削した土や岩を外に出すためのトロッコ用レールが敷かれ、置き忘れた鶴嘴が放置されていた。横の壁面は綺麗に均されたものではなく、凹凸部分の目立つボコボコとした肌触りの壁があり、鉱山内部はまるで無軌道にモグラの掘った穴のように思えた。


その道中――。


「! 待て……何かいる!」


気配……と云うか敵意に敏感なのかデュースは皆に制止の声をかけると、白いシルエットが見えた。それはゴーストの姿であり、こちらが視認すると同時にあちら側も生きた人間の姿に歓喜するような様子を見せた。


数年ぶりのお客様だ――と、聞き逃せない言葉を云いながらにじり寄って来る。自分は数年前、来訪者がいたのかと思い、恐怖に満ち満ちた声をグリムが出すのを聞きながら逃げ出すのである。今思えばの話であるが……オンボロ寮のゴーストは悪戯が目的で接してきたのに対して、このゴーストは魂を抜き取り身体を物言わぬ亡骸にしそうな本気さがあった。人の往来のない淋しいところがゆえ仲間を増やそうとしているのではなく、まるで生身の肉体そのものが目的であるかのような……。


エースとデュースが魔法でゴーストを退ける中、自分は炭坑内に入る前に見た小屋のことを思い出す。その小屋には……ベッドには頑強な戒めである拘束具が施されていたが、ゴーストが肉体を求めている事と何か関係があるのだろうかと思うのであった。考えても埒が明かないことであるが、嫌な彷彿が更なる嫌な想像を駆り立てるのだ。


迫りくるゴースト……魔法で追い払っても、いくら退けようと躍起になっても、しつこく、そうしてどこか執拗に追いかけて来る。自分はオンボロ寮で悪戯好きの三体のゴーストを真顔にさせたグリムの青い炎を思い出し、「グリム! 炎! 魔法を使って!」と告げるが、逃亡中の彼の耳に一度も届くことはなかった。


やがて、ゴーストの追跡により誘導されていたのか、幽霊とはまた違った――否、これこそがこの闇の正体の本質であろう存在にぶち当たる。ゴーストらは嫌な笑みを浮かべながら霧散するように空中に消え、辺りが静寂に包まれる中、聞こえてくるのは金属特有の耳障りな音。


皆が身体の動きを止め暗闇の最奥を凝視していると、唸り声と咆哮の入り混じったくぐもった声が聞こえる。そして徐々にあらわになる姿。全員の目の前に現れたのは、赤い衣服を身に纏った黒いモノ。頭部は円形のインク入れのようになっているだけではなく、ドロドロとした質量のある液体が詰まっている。古びた朱色の衣服から出た手足は頭部のインク液同様、身体がほぼ液状化し骨を残して血肉の全てが溶けているかのようであった。


それは――そいつは引き摺っていた大鎌を手に、何事かを叫ぶ。怒鳴り声のような悲鳴の中、自分は、耳障りな金属音は鎌の金属部位が足元のレールのぶつかることにより出された音であると理解した。


「ひ□……ひ□……ひ□……! ひ□あならやく……!!」


ソレを見た瞬間、皆が堪らず逃亡する中、人語らしき言葉を黒い化け物は発する。


「やっぱりここに魔法石はあるんだ!」デュースはそう云いながらマジカルペンを構えた。怖じげ付くグリムを後目に冷や汗を掻きながら意気込む。「朝までに魔法石を取ってこなければ、留学……僕は行く!」


「一人じゃ無理だよ! 危ない!」


自分は全身の身の毛を弥立せながら、デュースに制止の声を上げた。しかし彼は魔法を行使し、正体不明の目の前の黒い化け物に挑む。マジカルペンを振りかざして魔法を放つのだが、応戦するように化け物は手にしていた大鎌を強く握りブンブンと空気を切り裂きながら振り回す。当たり所が悪ければ死に至る驚異的な鋼鉄の振り回しは、十分な脅しになった。


その脅しを見て荒事に慣れているデュースは、ほぼ本能的に大鎌を暴力的に振り回す化け物の動きを見て腰が引けた一瞬、掠った程度の衝撃ではあるが壁に吹き飛ばされる。エースは風の魔法を用いるが、化け物の神経を逆撫でにするような些細な攻撃にしかならなかった。


化け物はエースに飛び掛かり吹き飛ばした後、今度はグリムに向き直った。標的にされたことを察知したグリムは炎を吐き出すのだが、黒い化け物はやたらと嫌がるような様子を見せた。まるで火達磨になることを恐れているのか、それとも別の何かがあったのか不明だが、青褪めた炎を嫌悪しているのだ。


グリムが涙目になり自分の背後に隠れる中、黒い化け物の背後で何かがチカチカと光った。点滅する白い光に気付いたのは自分たちではなく、エースとデュースの二人も同様である。「魔法石が光っている」と魔法に関するあらゆる知識のない自分にはありがたい情報を共有してくれたのであった。


皆が一瞬、魔法石の輝きに目を取られた直後、化け物は吠える。


「あんなのと戦うぐらいなら、留年でよくないか!?」


エースは魔法石を入手するにあたって、どうしても……どうやっても、あの黒い化け物と向き直らなければならない事実を冷静に分析したのか、そう云う。命あっての物種と云うことだが、対して抗議を唱えるのはデュースだった。


「ざっけんな! 留年になるぐらいなら死んだ方がマシだ! 魔法石が目の前にあるのに諦めきれるかよ!?」


「ハッ」エースは嘲る。「オレより魔法下手くそな癖に何云ってんだが。オレはやーめた」


「あぁ、そうかよ! 腰抜け野郎はそこでガタガタ震えてろ!」


「二人ともいい加減にして!」


自分は諍いを始め、殴り合いの喧嘩になるのを制止するように叫んだ。二人は化け物に意識を割きながらも、大声を出した自分を注視するのである。


「もう少し協力し合おう。そんなんだから二人とも歯が立たないんだよ」


化け物が大鎌を引きずり、動き出す。咄嗟の魔法で大した魔力は込められていないが、魔法でなるべく行動を制御しようと、木の魔法をエースは行使した。


「みんなで力を合わせよう」


「力を合わせるって……ハッ、何ソレ寒っ。よくそんなダッセェこと真顔で云えんね?」


「同感だ。こいつと協力なんかできるはずがない」


草の魔法で身体が拘束された化け物は、咆哮を上げながら植物の戒めを力付くで解こうとしていた。身体を一時拘束した全ての自然の鎖が切れる直後を見切って、エースは火球を飛ばす。化け物は植物諸共燃え上がった。


「ふな……でも、入学初日で留学って。そっちの方がもっとダセー気がするんだゾ」


『!!』


エースとデュースの二人は、グッと唇を噛んだ。エースは格好悪さの指摘、デュースは退学の言葉に反応したのだろうか、グリムの一声で何とか協力し合えることに漕ぎ付けた。


「お前、何か得意魔法はあるか?」


「お前じゃない、デュースだ。得意……得意な魔法。召喚魔法で重たい物……大釜を出すとか?」


「なんだそりゃ」エースは笑った。しかしその笑いには一切の嘲りや挑発などは含まれていなかった。「まあ、いいや何でも。おい、毛玉。お前はあの化け物の気でも引いててくんねえ?」


「ふな!? オレ様があいつを!? 出来っこねーんだゾ!」


「出来てもらなくちゃ困るんだよ。お前が気を引いている内に、ドーンって奴だ。別にやっつける必要はない。そこまでする必要はない。ただ……」


エースは火球を飛ばす前、木の魔法を使用した。相手の行動を制御する自然の魔法は、思っていたよりも長く相手を拘束することに成功したのである。そうして、デュースは重量のある物……巨大な釜を出せるという。そこから導き出される答えは……。


「……分かったんだゾ。でも、あまり長い時間気をひけるとは思わないで欲しいんだゾ」


グリムはそう云いながら、黒い化け物に対して安い挑発を放った。その文言は稚児でさえ引っ掛かることのない簡単な罵倒であったが、『グリムであるがゆえ』黒い化け物の気を惹くには充分であった。


化け物は大鎌を片手で振り回し狂乱する中、重たそうに半ば液状と化した身体を動かしながら、グリムに向かってズンズンと駆け寄っていた。鎌を手にしていない手ぶらの片腕が大きな挙動を行う。ましらのように素早く逃げるグリムに対して、武器を所持していない片方の手のストレートパンチが見舞われたのだが、その直後――。


「行くぜ、特大突風!」


旋風が黒い化け物に直撃した。エースの得意魔法で液状と化した漆黒の身体に漣が立ち、思わず仰け反るほどの強風が荒れ狂う。風の動きを読んだグリムがお得意の炎を吐き出すと、今まで見たことのない炎が上がった。これまで火球のそれしか出せなかったのに、突風が助けとなって、火柱と云えるほどの威力になっていたのである。青く渦巻く炎の中心にいる化け物はさすがにこの威力の攻撃は無視できないのか、その場で立ち止まり、声のない叫び声を出していた。


……効いている。


それも深刻な大ダメージだ。


自分とエース、そうしてグリムがダメージを確信した直後……。


「落ち着け……よく狙うんだ。俺が知る中で一番大きく……重たい……」



出でよ、大釜!



鉱山内の天井スレスレの頭上に、人間が二人分入れそうなほど巨大な釜が出現した。それは化け物の頭上で自由落下したかと思うと、黒い液状の肉体を押しつぶした。重量物で圧すことに成功したのである。


グリムが歓声をあげる中、自分は先程白い点滅を行った魔法石を奪取する。目的の石は全体が淡い水色で、中に緑色と赤い色が煌めいていた。水色の鉱石の中に二色異なる宝石が入っているのか、もしくは三色で一つの宝石なのか分からないが、壁からむき出しになった綺麗な石とは異なる魔法の石である。


「最後までやる必要はない! 逃げるぞ!」


自分が石を手にしたのを確認したエースは、逃げるよう声を出す。自分は頷きながら大釜に圧し潰された黒い化け物の傍を駆け足で通り抜け、来た道を戻った。右の角を折れ、左を真っ直ぐに進み、道なりに進んでいくと、やがて鉱山入口に到達する。一気に走り抜けた所為か皆が荒い呼気の中、休憩していると、鉱山の中から……暗がりの奥から這いずるような音がする。


地を這う足音の正体は……。


「まへ□、まへ□! なまもぬ、まへ□! ぐりむ、グリム――なまひろ□も、グリム!」


「あいつ追いかけてきやがった!」


「い、出でよ大釜! あとは、えーとえーと、大釜!? それから大釜っ!」


沢山の大釜が黒い化け物にぶつかる中、鎌で大釜が弾かれる。さすがに、慣れたのであろう。


「お前、大釜以外に召喚レパートリーないわけ!?」


「うるせえな! テンパってんだよ俺だって!」


それにしても、凄い執着心だ。


自分は手にした魔法石をお守りのようにギュッと掴みながら、逃げ腰になる。グリム、エース、そうしてデュースらとは異なり、魔法を使えないゆえその危機感の焦燥は凄まじいものだった。


石に並々ならぬ終着心を持つ化け物……こちらが死ぬまで終わらない永遠の追いかけっこが始まるのではないかと思った途端、黒い液状の肉体がドロリと垂れる。顔と思しき部分から粘液のような黒い液体――そこが口のある顔ならば「まへ□」と唾を飛ばしながら叫んでいただろう――飛沫を飛ばしながら、地に沈むように身体が崩れていく。どろりと、とろけていく。


光を求める亡者のように真っ黒な手を伸ばしながら倒れ、もがき、蠢動。皆が引くように身体を仰け反らせる中、魔法による攻撃は効果があったのか蓄積したダメージにより地に伏した化け物は「はへ□! はへ□!」と最期まで呟きながら、蛇行するように動き石を求めるのだ。黒い液状の肉体は粘着きながらも蒸発するようになくなり、朱色の服と大鎌を残して昇天した頃、消失をハッキリと確信し喜びの声を上げる。


皆が歓声を上げ、ハイタッチを行う。その様子を見ながら微笑み、「みんなすっかり仲良しだね。雨降って地固まるってやつかな」と云うと、別に冷やかしたわけではないのに否定の言葉が出された。照れ隠しかもしれないが。


「変なこと云わないでくんない……って、云い訳するのもダサいか。お前が冷静になるよう云ってくれなきゃ、どうなってたことか」


二人ともいい加減にして!!


別に発破をかけたわけでも、喝を出したわけでもなく、純粋にいざこざを治めるための一声だったのだが、二人とも目を丸くしながら自分を眺めていたことを思い出す。


「お前が呼びかけてくれなきゃ、魔法石は手に入らなかった。これで留学せずに済む……本当に良かった」


デュースの安堵した声。


それは執着心で追跡する化け物を退治し命拾いしたと云うよりも、言葉通り退学にならずに済んだことを安心しているかのようであった。


「みんなが協力してくれたお陰だよ。無事でよかった」


「いっぱい魔法を使ったから腹が減ったんだゾ」グリムは衣服と持ち物を残して蒸発した化け物が倒れ伏した場所を見る。「ン? コレ、なんだ……?」


そこにあったのは、黒い石の塊だった。石炭でもなく、黒曜石でもないそれは、磨いてもダイヤにならず、あらゆる光さえ吸い込む謎の石である。謎の置き土産を悩むエースとデュースを他所にグリムは安易かつ易々とその石に触れて、鼻で嗅ぎだした。


「なんだかコレ、すげーいい匂いがするんだゾ。アイツが隠し持ってた飴ちゃんかもしれねーんだゾ。ウウ~ッ、我慢できない!」


グリムは犬のような唸り声を出したかと思うと、黒い塊をヒョイと口の中に入れた。一瞬、えずくような不穏な声を出したものの、そのすべては喜びの声に塗り潰される。当然、皆が仰天したことは云う間でもなかろう。


「うまい~! まったりとしていて、それでいてコクがあり香ばしさと甘さが舌の上で花開く……まるでお口の中が花畑だゾ!」


「げーっ」実に嫌そうな顔でエースは云う。「やっぱモンスターってオレたちとは味覚が違うの?」


「かもしれないな……」人間視点だと見るからに不味そうなのにとデュース。「と云うか、落ちている得体の知れないものを口に入れること自体、ほとんどの人間はやらない」


ほとんどか。


ほとんどの人間はそうなのか、と自分は思った。


どうやら、探せばいるらしい。


グリムは化け物から抽出された石を大喜びで美味と叫ぶ中、学園長に魔法石を届けるため、帰還に向かった。


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